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ブラック吹奏楽部員の異世界サバイバル記  作者: 雷電鉄
第二章 イェルドン大陸
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#14 魔法の徒と魔法の筒(簡易的設定説明付き)

四人が転移した異世界:現在分かっているのは、ファンタジー的な剣と魔法の世界に近い世界と言うこと、「楽器」がほぼ存在しない世界ということ、魔物は町(宿駅も含む)の中には入れないということ…辺り。

魔法の筒:四人が町の道具屋で手に入れたアイテム。その形状は、現実世界のリコーダーにそっくりだが…?

宿駅:旅人の行く街道に点在する宿場の集まりの様なもの。規模は小さいとはいえ、一応魔物からの防御機能は備えている。

 先輩と一緒に宿駅に戻ってから数十分後。俺たちは先輩の仲間たちのいる所に向かっていた。進藤の言うように俺たちの旅について来てもらうのはともかく、せめて彼らに同行させてもらえば、そのうちあの筒についての手掛かりも入ってくるのではと考えたのだ。

 もちろん何一つ上手く行く保証があるわけじゃないし、我ながら無理のある相談だと思う。

 しかし、わずかでも希望があるならそれにそれに賭けたいと思う気持ちは俺たちも進藤も同じだった。

「言っておくが、もし同行することになっても俺は元の世界に戻る気はないからな。ただ、この世界にも楽器のある場所があるのなら、そこに行ってみたいと思うだけだ」

 などと言いながらも、先輩は俺たちを野営地まで案内してくれた。


 テントの前にはタンクトップ風の服を着たバンダナの男とキャップを付けたロングヘアの女がいた。

 先輩は前に進んでバンダナの男に声を掛けた。

「さっき、昔の知り合いに会ったんだけど、ちょっとこいつらの頼みを聞いてもらえないかな・・・」

「ああ?何だ、女とガキじゃねぇか。」

「せめて、話を聞いてもらうだけでいいんだけど・・・」

 しばらく押し問答が続いていると、テントの中から男の声が聞こえた。

「通してやれ。仲間(セイヤ)の知り合いだってんなら、邪険にするわけにもいかねえだろ」


 俺たちは女にテントの奥まで案内された。テントと言っても、俺たちが使ってた物よりずっと大きくて部屋もいくつかに別れている。小規模な家といっていいくらいだ。

 女の持つランタンに照らされて本や液体の入った瓶、形容もし難いほど奇妙な形をしたアイテムが見えた。男の方はほとんど気配も感じさせないほど静かに俺たちの後ろにくっついて来ている。一応、まだ警戒を解くつもりはないのだろう。

 奥の部屋にはさっきの声の主らしい男がいた。この世界に来てから初めて見るような、綺麗に整えられた髪をしている。男はアデスと名乗った。

 俺たちを代表してエスランさんがあの筒を見せて、これの謎を探っていること、手掛かりが見つかるまで、旅に同行させて貰いたいということを伝えた。

 だが。


「断る」

「こっちも生活のために魔物退治やらアイテム探索やら忙しいんでな。悪いが、そんなガラクタの謎解きに付き合ってる暇はない」

「もちろん、金銭面で迷惑は掛けないしそちらの探索にも協力はする。見たところそちらには戦士系の者もいないようだし、悪い話ではないと思うが」

「それが問題なんだよ。どうやら、あんた以外は大した戦闘スキルも持ってなさそうだし、足手纏いに何人も増えられてもな」

 悔しいが、反論のしようもない。

「せめて、アイテム鑑定の能力者がいる所まででも願えないだろうか」

「くどいなアンタも。アイテム鑑定が結構なレア能力なことくらいアンタも知ってるだろう。まあ、仮に見つかったとしても、そんなガラクタに大した価値も付かないと思うがな」

 やはり無理な相談だったか・・・と思っていると、進藤が立ち上がった。

「もーっ!さっきからガラクタガラクタって!これは凄いんだから!」

 とても部活で厳しく礼儀を叩きこまれているとは思えない勢いだ。

 進藤は筒を取り出して構えた。

「てめえ、そんな物で何を・・・」

 と言うバンダナの男を先輩が制した。


 進藤は町を出る時と同じく、「虹の彼方へ」を吹いた。

 相変わらず、少しの悔しさも感じつつも聴き惚れてしまうような音色だ。

 見ると、三人も耳を奪われたらしく、みな押し黙っている。

 もしかして、「楽器」に興味を持った・・・?

 こうなれば、こっちも聴き惚れている場合ではない。

「そうなんです、()たち、ああいう音を出すアイテムを探して旅をしてるんです」

 もうなりふり構ってはいられない。(先輩も話、合わせてください!)と目で合図を送る。

「そうだよアデス、俺に会った時松ヤニの匂いが気になるって言ってたじゃないか。もしかしたら、()()()()()松ヤニを使う道具があるかもしれないぞ」


「・・・・・・」

 しばらく考えた後、アデスが口を開いた。

「少し気が変わった。さっきガラクタと言ったのは取り消そう」

 マジかよ。じゃあ・・・

 「勘違いするなよ。まだ一緒に旅をすると決めたわけじゃない。そちらの実力を見てからだ。仲間になった後で、足を引っ張られては困るからな」

「アデス、そんな言い方は・・・」

「お前は黙ってろセイヤ」

 さっきから、明らかに年上のアデスに向かってタメ口を利いている先輩に驚く。既に対等な仲間と認められてるのか、それとも元々上下関係という概念が薄い人たちなのかはわからない。

「お前らみたいな旅芸人まがいの連中なんて信じられねえんだよ」

 とバンダナの男が進藤に毒づいた。

「何を!私たちはジャイアントバットだって倒したんだから!」

「はあ?お前らがぁ!?」

「まあ待て。このままでは埒が開かん。ここはひとつ、<試金樹の儀>で力を試してみようじゃねえか」

 試金樹の儀とは、冒険者同士が互いを傷つけずに力量を量るための作法で、互いが手頃な大きさの木に向かって技を出し合うもの・・・と師匠が言っていた。

 正直不安だった。せっかく興味を持ったような流れだったのに、これがダメならすべてが水の泡になってしまうのではと思った。

「良くやってくれた。ここからは大人の仕事だ。後は私が行こう」

 と、エスランさんは俺たちに声をかけた。


 俺たちは外に出てしばらく歩いた。二つの木が並んでいる場所が見つかると、アデスとエスランさんがその前に並んだ。

「ここら辺の木が適当だろう。ここで見たことはお互いに一切口外しない。いいな?」

「心得た」

 アデスは黒いマントを羽織っていた。それは、現代の日本人の俺にも魔法使いという物を容易に連想させる姿だった。

 魔法・・・!


 実のところ、宿屋で働いていた時にマジックユーザー系の冒険者が泊まったこともあったのだけれど、実際に魔法を見る事は叶わなかった(ゴンドさん曰く、「気力を回復させるために宿屋に泊ってるのに、わざわざ気力を消費させる馬鹿はいねえだろ?それに、自分の手の内を晒す事にもなるんだからな」ということ・・・らしい)。


 その魔法が、今ついに・・・!

 俺たち転移組四人の目は、アデスの挙動に釘付けになっていた。

「古よりその地に住まう火の精よ、我が願いに答えてその力を示せ、OX△※□◇*☆・・・・・・」

 詠唱の文句と思われる言葉の後に、何やら聞き取れない言葉が続いた。

「ヴルカニク・ブレイズ!」

 アデスの手から放たれた炎が木に届くや否や、炎は瞬く間に燃え広がり、木全体を焦がしていった。

「おい・・・見たか?」

 珍しく一条寺が興奮気味に語りかけてきた。

「ああ・・・魔法だな・・・!」

 一条寺は今まで見た事がないほど輝いた目をしていた。それは、きっと俺も同じだったろう。

 進藤の方に目をやると、「男子ってバカなんだから・・・」的なジト目で俺たちを見つめていた。

「さあ、次はあんたの番だ」

 アデスに促されて、エスランさんは前に進んだ。

 剣を構えて、精神を集中する。


「いやあああッ!」

 エスランさんは気合いを込めて剣を振った。

 一拍置いて、その決して細くはない木の幹は真一文字に切断され、上半分が鈍い音を立てて地面に転がっていった。

 文字通り開いた口が塞がらなかった。俺たちは、自分たちが思っているより遥かにとんでもない人と旅をしているのでは・・・?

「ジャイアントバットの皮膚に比べれば温いな。動かない的ならこんなものだろう」

 エスランさんはアデスのパーティーの方を向いて笑みを浮かべた。

 

 アデスは何かを確かめるように後ろの二人のほうを見やった。

「・・・決まりだな。なかなか楽しませてくれそうじゃないか。改めて名乗らせてもらう。俺は魔術師(メイジ)アデス。後ろの男は盗賊(シーフ)のヤズゥ。女は回復師(ヒーラー)のスナリアだ。」

「こちらこそよろしく頼む。私はエスラン。後ろの四人はカオリ、テッタ、ルイ、トウカ。私の大事な仲間たちだ」

これで、元の世界への帰還に一歩近づいた・・・といいなあ・・・

(つづく)

ふふふ…試金樹の儀の元ネタが、「必殺仕事人V・激闘編」二話で壱が竹の木に向かって技を披露する場面だとはお釈迦様でも気が付くまい…(それ以前に興味無いわ)

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