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9.粛清

「わたくしたち、あなたの噂を聞きましたの。孤児でらしたって本当なんですの?」


「いやだわ。この由緒正しきトロイアス高等学校に孤児が通ってるなんて……ああおぞましい」


「何とか言ったらどうなんですの?」


 フローラは囲まれ、女生徒達からの糾弾をその身に受ける。胸元で組まれた両手が震え、俯いたその顔は悲しみに歪んでいた。


 私はその様子を少し離れたところで伺う。丁度しゃがむと全身を隠してくれるほどの垣根があり、そこで目の前で繰り広げられる様子を見ていた。


 怒りに震える手を握りしめ、今にも飛び出してしまいそうな足を押さえつける。


 リューはまだなの? このまま見ているだけなんてあまりにも辛い。


「聞いていますの?!」


 リーダー格っぽい少女が水やり用に置いてあった桶を掴むと、フローラへ向かってその中身をぶちまける。


 頭からその水をかぶったフローラは、顔を上げ、驚いたように目を見開いた。全身水浸しだ。せっかくの綺麗なドレスが水によってまだら模様を浮き上がらせている。


「あら、よくお似合いじゃないですか。孤児にはそのような恰好が相応しいわ」


 あのくるくる天然パーマ! マジ許さない。


 だんだん彼女らの気持ちが高ぶってきたのか、その行動がエスカレートしていく。何個かある桶を皆が一様に手に取り、一斉に水をぶちまける。


 どうしていいのか分からないフローラは震えながら両手で顔を覆い、その場にうずくまってしまった。


「あははは、いいザマね!」


 そうして空になった桶をフローラへ投げつけようとした瞬間……――


「やめないか!!」


「ひっ」


 待ってましたぁぁぁ!


「リュー……様?」


「君たち、自分が何をしているのかわかっているのか? 上級貴族のご令嬢ともあろう方たちがこのような振る舞い……」


 侮蔑の色を纏った瞳で射抜かれた少女たちはすくみ上り、持っていた桶を次々に落としていく。


「わ、わたくしたちは彼女に、この学校にいる資格を問うていただけですわ」


「このような仕打ちをする君たちのほうが、淑女たる資格がないように思えるが……?」


 フローラを背にかばうように立ち、リューは怒りをはらんだ声音で少女たちを問い詰める。


 いいぞ、もっとやれー!


 フローラがすがるようにリューの背中へ身を預けるのを見て、このイベントは成功したのだと確信した。


「っ、わたくしたちはこの学校の品格を……」


「だまれ!」


 一喝。空気が震えたような気さえするその声はまるで獅子の咆哮のようだ。少女たちはおびえたように互いの顔を見合わせると、くるりと踵を返しその場から逃げ出した。


 安堵したのか、フローラの体から力が抜けふら付くが、リューがそれを支える。


 その様子を見て私はもうこの後はリューに任せておけば大丈夫だと確信し、逃げ出した少女たちを追う。


 ここからが私の仕事だ。


 フローラをイジメた報いは、受けてもらう。


 

 

「はぁはぁ、もうここまでくれば……」


「あの忌々しい孤児め……。今度は別の方法で……」


 まだ懲りてない四人に腹の底から怒りがわいてくる。ここで見逃がしたらまたフローラへ何らかのアクションを起こしてくるだろう。


 幸い、この後の好感度アップイベントの発生にこの少女らは絡まない。ならば……――


「今度は……何をなさるんですか?」


「ひっ、誰?!」


 完全に油断しきっていたのだろう。声を掛けると驚いた様子の四人が一斉にこちらを向いた。


「貴方は……」


「ヒソヒソ(あの孤児とよく一緒に居る方ですわ)」


「初めまして。メーア・ロゼ・ライアン様、クリスティ・ファルコナー様、ウルティア・コーディ・ポルディコウ様。そして、マリー・マキシロル様は隣のクラスでしたわよね」


「ど、どうしてわたくしたちの名前を……」


 途端に彼女らが私を警戒し始める。だがもう遅い。


 貴方たちは私の逆鱗に触れたのだ。フローラを自ら助けることもできず、ただ傍観することしかできなかった恨みも入り、私は彼女らに恩赦など与えるつもりは一切なかった。


「ああ、名乗り遅れました。私はディオネ・エピルス・エペイロス。あなた方にとっても馴染みの深い名前だと思うのですが、まさかお分かりになりません?」


「……」


 ざわつくが、まだ何を言われているのかよくわかってない様子だ。ああ、やはり少し頭が残念な子たちのだろう。ちょっと調べればフローラの交友関係はすぐにわかったはずだし、わかれば気軽にあんな行動に出ようとも思わないはずだ。


 私、イーリス、レイアの家が国の中枢に食い込む権力を持っているという事に。私たちと友人関係を持つフローラに手を出せばどういう結果になるかという事を。


「まぁお分かりになるような頭を持ってらしたら、そもそもあんなに安直なことなさらないでしょうしね」


 鼻で笑うように言い放つと、さすがにバカにされたと分かったのだろう。一人が前へ出ると私へ手を伸ばす。


「ふふ、本当に残念な方たちです事。エペイロスの名前を聞いて何もピンとこないなんて、どのような教育をうけてらっしゃるの?」


「な、なんなのよ! エペイロスなんて名前……」


「知らなくても結構ですわ。でも……貴方たちは私を怒らせた。そしてこのままフローラのそばに居ると、ろくなことを仕出かさないのも分かってる。ならば、私がすることはただ一つ、あなた方を国外退去処分といたします」


「……え? な、なにを言ってらっしゃるの? 国外退去ですって? そんな権限あなたが持ってるはずないじゃない!」


 そう、今の私には何の権限もない。だがエペイロス家の現当主であるお父様にはそれぐらいのことを成せるだけの力がある。





 だから私はお父様に交渉を持ち掛けた。友人を守るために……――

 

仕事が忙しいのと、体調を崩していたため

間隔が少し空いてしまいました……。


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