表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/20

4.君がため

 おかしい、やはりおかしいぞ。


 学校生活が始まり一ヵ月が過ぎた。そしてその間、リューの姿は一度も見ていない。フラグ回避どころかフラグすら立たない。


 その間私たちの友好度は着々と上がり続けている。フローラを交えて四人でのお茶会も二回開催したり、遠乗りに出かけてピクニックも楽しんだ。


 このまま普通の学生生活をつづけながら、貴族の生活を楽しむのも悪くはないと思い始めた頃、その日はやってきた。




 教室へと姿を見せたガイア先生は私たちを見回すと、にっこりと微笑み「転校生を紹介いたします」とよく通る声で言った。


 先生が来たことで静かになっていた教室内が途端にざわめく。この時期に転校生とは珍しい。


 ん……珍しい転校生……まさか!!


 ガイア先生の声を皮切りに、教室のドアが開き一人の男子生徒が入室してきた。


 軽い足取りで教壇近くまで行くと、右手を左胸に添え軽く右足を引き頭を下げた。


「リュー・デア・アティスです。こんな時期の転入ですがどうぞよろしくお願いします」


 そうだった。リューは転校生としてこの学園に来たのだった。心臓がバクバクと音を立てる。


 なんでそんな大事なこと忘れていたのだろうと、頭を抱える。


 あれだけやったパーフェクトワールドなのに……と思考を巡らせると、当たり前だがリューの登場シーンから物語は進む。そしてそういった冒頭のシーンは各ルート共通ルートとなっていて……。


 お分かりいただけるだろうか? ゲームには既読スキップという忙しい人にはたまらない機能があるということ、そして例にもれず私も初回プレイ時に読んだだけで、その後何回とみるはずの冒頭の共通シーンはすべてスキップしたのだ。もうすっかり忘れてたよ!


 ああ、これで私の平穏な学生生活は終止符を打ったのだ。目の前で涼やかにほほ笑むリューが悪魔のように見えた。




「まぁまぁ人気者ですこと」


「そうね……こんな時期の転校生なんて珍しいし、みんな娯楽に飢えているから」


 要は格好の暇つぶしとして認識されてしまっているのだ。まるで動物園のパンダのようだ。


 休み時間になりいつものように私の机の周辺に集まってきたレイアとイーリス、フローラが遠巻きに見ているのが、リューとその周りに群がるクラスメイト達だ。


 ひっきりなしにどうしてどうして? と尋ねられ辟易とした様子が見て取れるリュー。


 そうそう、しばらくはみんなに囲まれて質問攻めにあってたなぁ。私はパーフェクトワールドで経験したリューとしての記憶を呼び起こす。


 リュー・デア・アティスは隣国――アラーンキア国の第三王位継承者、つまりは王子様。トロイアス王国とアラーンキア国との間で行われた政治的策略、交換留学と称した人質。トロイアス王国からは第四王位継承者である王子がアラーンキア国に出国している。


 ゲーム内では触れらることの少なかったこの事情は、自己紹介を兼ねたプロローグによってさらりとテキストが流されただけだった。なので私も細かいところは分からない。


 知っている内容は今よりもっと昔にトロイアス国とアラーンキア国は戦争をし、いまだ根底に残る遺恨。またいつ戦争が起こるかもわからない微妙な両国が牽制の意味を兼ねて定期的に行う交換留学。


 もちろんお互い手出しができないようにするという、言わば人質という性質をもっているが王子に何かあった場合、それが火種になりうるという危うい面も持ち合わせている。実際それが原因でバッドエンドになったルートもいくつか存在した。




 困った顔のリューを見ていると、なんだか親近感がわいてくる。リューとして味わった絶望を思い出し、なんだか憐れにも思えてきた。


 いけないいけない。私の役割はリューとフローラをくっつけること。誰もが幸せな大円満だ。


 それにはフローラの気持ちをリューに向けなければならない。


 冒頭の共通ルートでは教室へ入ったリューが、いの一番に目をとめた人物がフローラなのだ。


 『ああ、なんて綺麗な女性なんだ』それがリューのフローラへ抱く第一印象。そして仲良くなっていく

と綺麗な見た目に反して、無邪気な一面があるという事、笑うととてもかわいいという事にどんどん惹かれていくのだ。


 うん、リュー側に何かちょっかい出さなくても勝手にフローラに惚れてくれる。それは間違いない。


 だってこんなに綺麗でかわいくて天使なんだもの。


「どうしたの? ディオネ」


 恍惚とした表情でフローラを見ていたのがばれてしまった。


「う、ううん、なんでもないわ。フローラはどう? リュー様の事どう思う?」


「え? うん……話のタネにされるのはあまり気持ちが良いものではないわね。それが単なる好奇心によるものだと尚更。そういった意味では早く平穏な生活を過ごせるように願うばかりよ」


「そうね……。みんな噂話大好きだものね」


 幾度となく噂話によって傷つけられてきたフローラ、彼女の優しさだったり思慮深いところはそう言った環境下だからこそ培われたものなのだろう。


 みんながハッピーエンドになれるように、フローラルートを進む事を決めたが当のフローラを無理やりにでもというのならば違う道を模索しなければならない。


 こんなにも優しく慈愛に満ちた少女を……私の推しを必ず幸せにして見せる!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ