13.分け与えられる幸せ
カフェは混雑していたが、タイミングよく席が空いたので待つことなく入店できた。
メニューには旬のフルーツを使ったスイーツがおススメとしてのっている。メロンとイチゴなどのベリー系。どれも美味しそうだ。
「……とりあえずおススメメニューのスイーツ全部」
「私はアールグレイを。皆は?」
「同じでいいわ」
フローラとイーリスも頷く。
ウェイトレスが注文を聞き終えるとメニューを持って下がっていく。
「焼き菓子も美味しいんだけど、どうしても生菓子を頼んじゃう……。お土産に買って帰ろうかな」
焼き菓子は二、三日持ちするのでお土産用としても人気がある。カフェ入り口にはそういったお土産用コーナーもあり、可愛くラッピングされたマフィンやクッキーが人気だ。
「前回も買って帰ってたわよね」
「うん。すぐ食べ切っちゃったから今回は大目に買っていく」
「ほんと、イーリスはお菓子大好きね。それで太らないんだからちょっと憎らしいわ」
談笑していると、カートいっぱいにケーキを乗せてウェイトレスが来た。丁寧な所作でケーキや紅茶をテーブルに並べていく。白いテーブルクロスが掛けられた丸テーブルが一気に華やいだ。
「じゃぁ頂きましょう」
皆が好きなスイーツを小皿に取っていく。私もメロンがたっぷり乗ったタルトを一つとる。
「はい、ディオネ」
「え?」
フローラがフォークに乗せたイチゴを私に差し出してくる。
「イーリスにじゃなくて?」
「ディオネに。はい、あーん」
どうしたのだろうか。そんなに物欲しそうにしてしまったのだろうか。少々困惑しつつも差し出されたフローラのイチゴをぱくりと頂く。
甘酸っぱいイチゴの果汁が口いっぱいに広がる。プチプチとした触感が食べていてとても楽しい。
「はい、私のも」
そういってレイアまでもが自分のケーキから一口分切り分け私に差し出してきた。
「え? どうしたの急に」
「美味しいわよ。このムース」
ムースも一口頂く。フワフワした口当たりの良いムースは程よい甘みで紅茶によく合う。
「うん、美味しい」
そう言って自分のケーキに手を付けようとしたとき……――
「……ん」
あの、あのイーリスが自分の取り分からケーキを人に分け与えようとしているなんて!
明日は槍でも振るんではないだろうか……?
「いいの?」
「うん」
イーリスが差し出すスプーンに乗った、澄んだ薄緑色のゼリーを一口貰う。
みんな急にどうしたんだろう?
「……なんだかさっきディオネの様子がおかしかった気がして、元気ないなぁって。美味しい物一杯食べたら、きっとちょっとは元気になるよねって」
不思議そうにしていたのが分かったのだろう。フローラが口を開き、この状況を説明してくれた。
なんだ、みんな心配してくれたのだ。イーリスが大好きな甘い物を分けてくれるぐらいに落ち込んで見えたのだろう。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになるが、嬉しく思う。
「皆ありがとう……。心配かけてごめんね」
私は幸せ者だ。今はこんなにも心配して気遣ってくれる友人がいる。影を落としていた胸の内が暖かいもので満たされていく。
「さぁじゃんじゃん食べるわよ~~!」
腕をまくり気合を入れる。私が食べることにがぜんやる気を出したのを見て、イーリスが私も負けないとばかりに両手でフォークとスプーンを握る。二人でクリームを口の端につけながらケーキを食べて、フローラとレイアがそれを見て笑う。ああ、楽しいな。
心からそう感じる。
大切な友人たちを守ろう。私の手で、必ず。




