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12.交じり合う気持ち

 たった一日、学校へ行かなかっただけなのに、校門の前に降り立つとひどく懐かしい感じがした。


 楽しそうに校門をくぐる生徒を見ていると、不安になってくる。周りが楽しげにしていればしている程、フローラのことが気になって仕方がない。


 ブロッサムフェスティバルの次の日は後片付けのため休校となっていた為、フローラに会えるのは一昨日ぶり。少し緊張する。


「ごきげんよう」


 教室に入るとすでに沢山の生徒で賑わいを見せていた。その中に友人達の姿を見つけ、近寄る。


「ごきげんよう、レイア、イーリス。何の話をしているの?」


「あら、ディオネ。新しく出来た雑貨屋さんの話をしていたのよ」


「キュプリア大通りに出来たショップ?」


 机の上にカバンを置きながらレイアに聞くと、彼女は目を細め自身の耳に光るイヤリングに手を添えた。ティアドロップ型の水色に光る宝石がきらめいている。


「そう。昨日たまたま大通りに行った時に見つけたのよ。これもそこで買ったの。庶民でも買える値段だから宝石はイミテーションね。でもデザインがとても斬新で素敵なの」


 他にもたくさんの種類のアクセサリーや、ぬいぐるみ、日用品が売っているのよと目を輝かせて言うレイアに、イーリスも珍しく興味津々の様子だ。


「じゃあ帰りにでも寄ってみる?」


「本当? 行きましょ!」


「うん。あとカフェにも、一昨日から新メニューが出てる」


 そんなことを話していると、教室にフローラが入ってくるのが見えて心音が跳ねる。落ち込んでない? 元気そう? また笑ってくれる? 一瞬にして脳裏によぎる言葉が跳ねる心音と共に弾けて消えていく。


「あ、フローラ」


 同じようにフローラの姿を見つけたイーリスが手を挙げる。その声に気が付き、フローラが顔をこちらへ向けた。


「ごきげんよう」


 ぱっと花が咲くかの如く、絢爛な笑顔が浮かんだのを見て私は大きく嘆息した。 

 よかった。本当よかった。


「どうしたの? みんななんかウキウキしてる?」


 さっと自分の席へカバンを置くと、私たちのほうへ駆け寄ってくるフローラはいつもと変わらない。


「うん、大通りに新しく出来た雑貨屋さん、学校が終わったらみんなで行ってみないかって話してたの」


「しってるしってる! すごく可愛いお店よね。外から見てて気になっていたの!」


 うん、大丈夫そうだ。フローラの明るさに影の一つも感じられないことにほっと安堵する。


 あんなことがあったから、学校へ来るのが怖くなったりしていないか心配だったが、リューがいい仕事をしたのだろう。


 バケツの水を頭から浴びせられ、心無い罵倒と、凍てつくような悪意に満ちた視線、蔑むような冷笑。あんな仕打ち思い出すだけで辛い。経験があるからこそ、その辛さ、その後残るトラウマもよく分かる。何事もなかったかのように今こうして笑えてるフローラの強さと誰かがそばに居てくれる心強さというのを実感した。


 そして私にもあの時、傍に誰かがいてくれていたらなと思わずにはいられなかった。


「ディオネ? どうしたの?」


「え?」


「なんだか泣きそうな顔をしていたから……」


「う、ううん、大丈夫よ。有難うフローラ」


 心配していた相手に心配されてしまうなんて。過去のトラウマに捕らわれそうになるのを振り払うように私は精一杯の笑顔を浮かべた。


「それじゃぁ、学校が終わったら雑貨屋さんでお買い物をして、お茶をしましょう。ふふ、早く学校終わらないかな」


 ベルを鳴らしながらガイア先生が教室へと入ってくる。授業が始まる合図だ。


 今日はこの国の歴史についての講義。真面目に話を聞いている生徒もいれば、どこか心ここにあらずといった様子の生徒もいる。


 窓の外には穏やかな春の日差しを受けた緑がそよ風に揺れ、枝先では小鳥が気持ちよさそうに歌っている。


 私はペンを動かし、授業を真面目に聞いているふりをしながら、雑貨屋イベントの事に思いはせていた。




 雑貨屋へ入ると、所狭しと飾られている商品に目を奪われた。光を反射してキラキラ輝くアクセサリーに、可愛い小物。小ぶりな人形はリボンが付いていて、色々なところへ飾れるようになっている。


 レイアが斬新というだけあって、どのアクセサリーも既存の概念を覆すようなデザインになっていた。私が前世で見てきたデザインに近いかもしれない。


「レイアのつけてる耳飾りと同じデザインの首飾りね。こっちは色違いかしら。どれも可愛いわ」


 レイアとフローラがアクセサリーのコーナーで商品を見ている。イーリスは小物入れを手に取り、何やら涎を飲み込んでいる。ああ、絶対アレお菓子入れようとか考えているな。


 私は商品を物色しながらウロウロし、お目当ての人形コーナーへやってきた。ウサギや猫などの動物をモチーフにした可愛い人形の中に、あった……よく分からない不気味な人形が。


 テルテル坊主に似たシルエットなのだが、二本の細い足が生えている。本来ならかわいらしい印象を与えるはずの小粒な瞳が不気味さに拍車をかけていた。そして何よりこの全体の色……。なぜ黄色なのだろうか。


 この人形だけが異質な存在として、その存在感をアピールしている。可愛い中に紛れ込んだ異物……。どうしてフローラはこの人形なのだろうか。


 ゲームのイベントではこの人形をプレゼントして喜んでもらうが、どうしてなのかは説明がなかった。


「ディオネ! この手鏡みんなでお揃いで持たない?」


 人形を見つめながら云々唸っていると、レイアの呼ぶ声が聞こえてくる。


「どれどれ?」


 レイアたちは小物コーナーで手鏡を手に持っていた。丸い手鏡はそれぞれ色違いで、同じデザインのものだ。


「かわいい。もう色は決めているの?」


「私は黄色。フローラがピンク、イーリスが水色。後ディオネなんだけど……」


 そういって落とした視線の先にあるのは、薄紫色と白の手鏡だ。好きな色は特にはないので何でもいいのだけれど、そう言うと角が立ちやすい。なので私は……


「白がいいわ」


 そういって白の手鏡を手に取る。


 いつからだろうか、自分の『好き』をあまり主張しなくなったのは。


 学生の頃、好きな人へ書いたラブレター。出すつもりはなくてただ書いただけで満足した手紙を黒板に張り付けられて、笑われて。好きな人には心底嫌そうに「冗談じゃない。やめてくれよ」と言われて、私には好きと言う権利すらないのかと、絶望したあの日からだろうか。


 思い出した別の世界の自分の事が足かせのようになって気持ちを縛り付ける。


 ここは日本ではないし、今の私はディオネ。あの頃とは違うのだと言い聞かせる。


「ディオネ? また何か考え事?」


「え? あ、ううん何でもないの。買い物も終わったし、イーリスお待ちかねのカフェに行きましょう」


 私たちは雑貨屋を出ると、カフェに向かって歩き始めた。

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