11.次なる課題
会場へ戻ると、もう閉会の合図がでたのだろう、生徒たちが帰り支度を始めているところだった。
迎えの従者も会場内にいるため、さらなる人でごった返している。みんなを見つけるのは大変そうだ。
確かフローラとリューは濡れたドレスを着替えないといけないので早めに帰宅しているはず。しばらく震えの止まらないフローラを心配してリューはずっとそばについているはず。二人はきっと良い感じだろう。
すべて「だろう」になってしまう事に不安も感じるが、きっとリューなら大丈夫。だってリューのことは良く知っている。
合流は諦めて私も家に帰ろう。体がというよりも、精神的にすごく疲れた。甘い物を補給したい……。
「ディオネ様」
フラフラ歩いていると迎えに来た従者が私を見つけ駆け寄ってくる。
「馬車を校門につけております。すぐに帰られますか?」
「ええ、すぐ帰るわ。イーリスとレイアを見かけた?」
「いえ、見かけておりません」
やはり合流は無理そうだ。いくらかは人がはけてきたとはいえ、まだまだ人は多い。
「なら良いわ。帰りましょう」
楽しそうにおしゃべりをしているグループや、ダンスで交流を深めたであろうカップルを横目に、従者
の後をのろのろと付いていく。
校門を出て、キャリッジへ乗り込むと、すぐにふかふかのクッションを抱え壁にもたれる。
「ゆっくり帰りましょうか?」と気を効かせてくれた従者に「早く帰りたい」とだけ伝えると、私は瞼を落とす。
馬車がごとごとと揺れるが、それすらも気にならないほど疲れていた。次第に意識が遠のいていき、私は夢の中へと落ちていった。
「ふぁ~~」
馬車の中でがっつり寝たおかげで、幾分すっきりとした。自室に戻りメイド達に着替えを手伝ってもらい、ラフな服装に着替えた。夕食までもう少し時間がある。
「ねぇ、お父様はもう戻っているのかしら?」
お父様は普段は王城で働いており、家に戻らないことも多い。その為、事前に居ることを確認しておかないと、何時まで経ってもすれ違ってしまうのだ。
「いえまだお戻りになっておりません。本日は夕食もいらないとのことでしたので、帰りは遅くなるのだと思います」
「そう……分かったわ。何か軽くつまめる物を持ってきてくれる? ちょっと小腹が減っちゃって」
「かしこまりました」
メイド達が出払った後、私は机に向かい、引き出しにしまい込んだ紙を取り出した。
日本人としての記憶を取り戻したその日にメモを書き込んだ紙だ。
殴り書きされた言葉の羅列に私は苦笑する。どれだけ動揺していたのだろうか。読めない字もちらほらある。
その中のブロッサムフェスティバルのところにレ点チェックを入れる。これは完了っと。
次のイベントは……、確かトラブルで馬車が動かなくなって、歩いて帰ろうとしたところをリューに送ってもらう……。
うん、フローラに何事もないようで安心のイベントだ。毎回こんな日常系のイベントならいいのにと涙する。
問題はこれがいつ発生するのかという事と、私がどうこう出来るようなイベント系ではないという事に不安がよぎる。
「うーん、スチルは夏服だった気がするし……もう少し後かしら?」
何なら強制的にイベント発生させてしまおうか。例えばフローラとリューの馬車を破壊して……と考えたところで、頭を振り考えを散らす。いやいやダメでしょう、馬車破壊って。
「お嬢様、マフィンをお持ちいたしました」
「え、ああ、ありがとう頂くわ」
きっとこんな短絡的な思考に至るのは、糖分が足りてないせいだろう。少し休憩して、またゆっくり考えよう。
入れてもらった少し甘めの紅茶と、ドライフルーツがふんだんに入ったマフィンを口にする。思ってたよりもお腹が減っていたようで、ぺろりと一つ食べきってしまった。おかわりを……と思ったが、なぜかマルクスに「ふとましくなりましたね」と微笑まれる様子が頭に浮かび止めることにした。
うん、もうすぐで夕飯だし。糖分が少し入って頭も回り始めた気がするし。
「下がってていいわ、しばらく勉強するから夕飯まで誰も来なくていいわ」
「かしこまりました」
メイドが下がるのを確認して、私は再度メモに目を落とす。
全ヒロインの好感度イベントはそれぞれ五つ。私とレイアのフラグは早々にへし折った為、今後発展す
ることはほぼないと思えるが、まだまだ油断禁物だ。
イーリスイベントの条件はすべてお菓子から始まる。それゆえ時期が特定できないし、どのイベントか
らでも発生する恐れがあるため、こちらはかなり油断禁物だ。
問題のフローラルート。まず第一関門ブロッサムフェスティバルが無事終了し、私の個人的な感情も交えつつの制裁も完了した。
次のイベントが日常系イベント。徒歩で帰らなくてはならなくなったフローラとリューが街を散策しながら一緒に帰る。帰る途中危険な出来事が起こるわけではなく、フラッと立ち寄った雑貨屋でリューがフローラへちょっとしたプレゼントをするというものだ。
……そういえば雑貨屋でのプレゼントは花をモチーフにしたペンダントと、髪飾り、それとかわいくもない人形の三択だったが、ここでの正解がまさかの人形という罠がある。ペンダントと髪飾りをプレゼントした時の反応はまぁまぁ喜んではくれるが好感度はピクリとも動かない。だが人形をチョイスした場合、フローラの喜びようがスチル付きで表現される。今にも抱き着かんばかりに喜ぶフローラ……可愛かったなぁ。
私はこの選択肢前でクイックセーブとロードを繰り返し、三回目の「まさかこの変な人形なの?」と疑心暗鬼で選択してようやく正解を出せたというなかなか初見殺しな選択肢。果たしてリューは間違えることなく人形をチョイスできるか……できるわけないよね!
次の課題はこの人形を選んでもらう事となりそうだ。




