第三話:真の決意
「……ハア、ハアハア」
どうしようも無いこの想いを声に出して叫んでみたら、少し落ち着いた。
(『職業』が商人なのは、もう仕方ない。……それよりも、商人でどうやって冒険者としてやっていくかの方が重要だ)
そう思った私は、パラパラと愛読書である冒険小説【名を奪われた神滅の英雄】を開いて何か参考になるものが無いか探した。
──コンコンコン
すると、扉がノックされて……
「アンナ、大丈夫? なにか叫び声みたいなのが聞こえたけど……」
まずい、ママが来た。……ママにはまだ私の職業が『商人』で有ることは言っていない。もし職業が『商人』だとバレてしまったら、きっと冒険者になるのを止められてしまう。
「あっ、ごめんなさい。……小説を読んでいたら、ついツッコミを入れてしまったの!」
我ながら痛々しい言い訳だなぁ~。でも、これで誤魔化せたかな? ……心臓をバクバクさせながら、扉の向こうの様子をうかがう。
「もう、ビックリさせないでよね? てっきり、何か有ったのかと思ったじゃない。……ママに心配かけちゃダメでしょっ!」
うーん、怒ってても純粋で可愛いなママ。私の罪悪感がハンパない。未だに多くの男の人たちから求婚される理由が良く分かる。
「あ、そういえばアンナ。今日は冒険者ギルドに向かうんでしょう? ……これあげるわ」
そう言ってママが手渡しのは、アイテムポーチだった。
「マ、ママのお下がりなんだけど、時空魔法で【劣化防止】と【容量拡大】が付いてて結構な優れものなの。……ど、どうかしら?」
モジモジしながら、私の顔を伺うママ……嬉しい。
「えっ、そんな凄いポーチをくれるの? ありがとう、ママ!」
「ええ、その代わり絶対にママより先に死なないでね」
ママは顔を改めて真剣な表情でそう言った。……うん、絶対に私は死なない。
「それじゃ、行ってきます」
私の職業は弱い『商人』で、どうやって戦っていくかもまだ定まっていないけど。それでも、私は冒険者に為りたい。
だから、不誠実な娘でごめんなさい。ママ。
稚拙で未熟な少女アンナ。
おっとりとしていて、娘を放任する母親。
やけに中二病臭い愛読書。
果たして、アンナは冒険者に成れるのか?
次は、冒険者への道です