表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

プレイボール!

作者: つき

「これ持って」

「こう振って」

甲斐甲斐しくオレンジ色のバットを握らせ、彼は誇らしげに銀色のバットを構えた。

いち、にの、さん、と振ってみせる。

ひゅぶ、という小ミサイルが飛ぶような音がする。

あれ、ミサイルって飛んでくるんだっけ。あ、まだか。

私は気をとり直して彼の真似をして、オレンジのバットを振る。

思いのほか重くて、一度振るだけで私は少しくたびれていた。


「そうそう、そんな感じ!」


出来損ないの素振りにすら、彼は嬉しそうに歯を見せて笑った。


「ボールが来たら、今みたいに振るんだ」


ここまでの私は0勝8敗で、すなわちそれはこのグループのメンバーですこぶる能力が低いということを意味していた。

彼は中の上くらいの実力で、分け隔てなく優しくて、好感が持てた。

大食いも、ビリヤードも、サッカーも、テニスも、クイズ王も、偏差値も、遅刻の回数も、経験人数も。

あれ、1番最初に死ぬのは誰だっけ。あ、この人か。


彼は金網の中に私を置き去りにしていった。

去り際にかぶせてもらったヘルメットが固くて重くて、視界が少し暗くて、めまいがする。

私は1人、ボール排出パイプと向き合う。

灯る赤いランプ。

プレイボール!

私はがむしゃらにバットを振った。

ひゅぶ、ひゅぶ、ひゅぶ。

情けなくバットが空気を切る。

指の付け根がじっとりと痛む。

目がボールを認識したところでバットを振っても、タイミングとしては遅いのだと気づいた頃。

足を踏み込んでみる。

ボールを返すとき、足ごと体重移動。


かきっ。


あれっ当たった?

ねえ今当たった?

すごい!初めて当たったよ!

見てた?見てた?


振り返った金網には、誰の姿もなかった。

急に遠くから喧騒が聞こえて、きゃはははと誰かの声がして、近くには誰もいないと気づいた。


プレイボール!


はっと振り返ると、パイプからボールがスローモーションでやってきた。

そして、下腹に直撃した。

うぐぐ、と情けない声をあげてうずくまった。

ヘルメットががらりと地に落ちる。

あれ、私って一生1人なんだっけ。こればっかりはわからないんだよな、だって私次第だから。


砂のついた手で私はバットを握り、立ち上がる。

その姿は弱くて、まったく神々しくないけど、格好をつけてバットを向けて宣戦布告。

見てろ、今にホームランだ。

戻ってこい観衆ども。

実は私にはあらゆる人間がピンクフラミンゴに見えるだとか、実は3日後に世界は滅ぶとか、そんなどうでもいいことを押し込めて私はバットを振った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ