神通力少女は異世界転生してしまうそうです
突然ですが皆様、私は荷台にいます。
なぜ荷台にいるのか疑問に思う方もいるかもしれませんが話はとても簡単。
お引越しですよお引越し、私は故郷の里に向けて帰ろうとしている真っ最中なのです。
「そうだ!!田舎へ帰ろう」
思い立ったは吉日といいますから、私は急いで引越しの準備をしたものの大事なことを忘れていました。
戻るための足をなんと用意していなかったのです!!
そのため引越し業者さんに土下座するぐらいに頼み込んでどうにか荷台に乗せていただきました。
そしていまは帰省の最中なのです。
「う~~。う~~。」
実は乗り物に弱い私は、引越し前に食べたものを戻さないように必死でした。
それなのでこんな声にならない声を出しながら必死に我慢しているのです。
故郷はいわゆる田舎というもので山道を登っていかなくてはならないのですが、整備されてない道を車で通れば揺れてしまいます。
私がいま向かっている私の家は、神の血筋を受け継いでいる家だと昔から言われていました。
強大な力などは持っていませんが、私たち家族が使える力は神に通ずる力としてまるで崇められるかのように里の人々に接されてました。
そんな私たちの家族はその力を神通力と呼び、人々に害を与えないように叔母さまに教え込まれてきました。
神通力などとは呼んでいますが、時間を止められたり瞬間移動ができたりなんていうことはありませんでした。
私が出来ることといえば遠くの物を触れずに動かすことと身体能力の向上だけです。
まあそんなことを言っているものの私はいまは荷台の中なのですが。
凹凸の多い山道を登っていくのはやはり引越し業者さんでも楽だとは言えないような状況でした。
そんな道を揺れが直接的にお尻にくる荷台になんて乗っていたら、まるでジェットコースターの如く恐怖を覚えてしまいます。
その途中で、耳を劈くような大きな音が聞こえたかと思うとジェットコースターなどの比ではない揺れと共に私の意識が飛んでしまいました。
「大丈夫か!!大丈夫か!!」
目が覚めると、目の前には見知らぬ男の人がいました。
「ここは......」
体を起こして辺りを見回すと、レンガのようなもので室内が彩られていて西洋風の建物にも感じました。
「よかった、目が覚めたのか!!」
そういうと男の人は私が横になっていたベッドに座りこう問いかけてきました。
「どうしてあんな場所で倒れていたんだ??」
あんな場所と言われても皆目検討もつかない私は小首を傾げました。
「まだ意識が曖昧みたいだな」
男の人がそういうと私の横になっていたベッドから立ち上がり部屋から出て行きました。
「ここはどこだろう」
私は引越し業者さんのトラックの荷台に乗りながら山道を登っていたはずです。
それなのに気がついたら西洋風の建物の中で横になっていました、これは一体どういうことでしょう。
少なくとも私が向かっていた故郷にはこのような建物はありません。
私はそっと立ち上がり外に向かおうとしました。
「綺麗な景色ね」
立ち上がるときにたまたま見えた窓の外に目を向けると、そこには私が見たことのないような光景が広がっていました。
そんな景色に私が見惚れていると
「あんたはもう立ち上がって平気なのか」
と後ろから声が聞こえました。
「私は大丈夫ですがここは......」
「この村は昔によく栄えていた村だよ」
「昔はということはいまは......」
「もう名前も消えてしまった村だ、村人も全員連れて行かれちまった」
そう言っていた男の人の顔はどこか寂しさを感じさせました。
「それよりあんたは一体何者だ??」
何者と聞かれても、それは私が聞きたいことなのですがその言葉は飲み込みました。
「私は月下照です」
私は母親から授かった名前をそのまま口に出しました。
「あまり聞かない名前だがこの近くに住んでいたのか??」
「私にもあまりよく分かっていません、気がついたらここにいました」
私がそう言っても疑いの目も向けずに私にこう言いました。
「月下照とか言ったか、お前はこれからどうするんだ??」
疑われるかもしれないと思っていた私は少々拍子抜けしましたが
「あまり考えていません」
と素直に答えました。
「それならあんた、いまのところはここに泊まっていくか??」
突然の提案で少々驚愕しましたが、すぐに頭を回転させてよく考えてみました。
見知らぬ土地で見知らぬ人の家に突然止まるのはあまりにも危険な行為ではないでしょうか。
「この辺りの家は俺が復興しているが、中身は全然直ってなくてな」
「じゃあここから見える景色は??」
「俺が外側だけ修復し終わった家だ、これよりちょっと奥に行くとボロボロな家が大量にあるぞ」
そういえばと思い私は会話の最中で気になっていたことをやっと口に出すことができました。
「そういえば村の方々はどちらへ行かれたんですか??」
「別の村の連中に全員連れて行かれたよ、残ったのは俺一人だ」
そういうと男の人は私がくるよりもずっと前の話をしてくれました。
「当時のこの村は非常に栄えていて他の村よりもずっと多くの建物があった」
「けれどそれは前の村長の一言でどんどん崩れていってしまったんだ」
「村長はどのようなお言葉を??」
「『別の村から村人を連れて来い』だってよ、ヤバいやつだろ??」
「別にこの村の住民は戦闘に長けた連中は誰もいなかったが、村長の声に逆らえるやつなんてだれもいなかった」
「そうして別の村に攻めていった連中はみんな戦闘用の訓練兵たちに殺されたよ」
私はそのような背景があることに絶句しましたが、男の人の話を詳しく聞くことにしました。
「残った方々は??」
「俺たちが村に攻め入るなんてことをやれば別の村も同じことをやってくる、そうやって色々な村の訓練兵たちによって連れて行かれたり殺されたりした」
「なんとか隠れきれたのは俺ひとり、最近は復興してるのがバレて少しだけ厄介なことになっているけどな」
「申し訳ありません、踏み入ったことを聞いてしまって」
「いやいやいいんだ別に、それよりも今日の飯でも採りに行くぞ」
そういって男の人は乱暴に私の腕を引っ張りました。
「採りに行くって言ってもどこに」
「外の畑だよ、いいからついて来い」
私は腕を引っ張られたまま外に連れ出されました。
「私はちょっと力仕事は苦手なんですけど」
そうなのです。私は身体能力向上を使わない限りは非力な女の子なのです。
「とりあえず自分の分は自分で採ってみればいい」
そういわれた私は畑の野菜に手をかけて力いっぱい引き抜こうとしましたが、野菜は大きなカブの如くビクりとも動きません。
「仕方がないのかな」
小さく口にすると、頭のなかで叔母様に謝罪を述べつつ身体能力向上を使用しました。
使用したあとは、できる限り力を腕にいれないようにしながら野菜をいっぱりました。
するとどうでしょうか。私が苦労していた野菜は糸も簡単に抜けるではありませんか!!
そうして次の野菜を抜こうとしていると男の人が声をかけてきました。
「あんた今魔法を使ったか??」
私は神通力の力がばれたのかと思い咄嗟に「分かりません」と言ってしまいました。
「そうか......」
男の人は小さくつぶやくと野菜を採りに言ってしまいました。
そのときです。遠くからよく通る声でなにか叫んでくる人がいます。
「あいつらまた来たな」
「おいあんた、野菜収穫の時間は終了だ」
そういうと男の人はアイスピックとようなものを取り出しました。
「一体なにが始まるんですか??」
「戦いだよ、負けたらきっとあんたが連れて行かれる」
それを聞いて唖然としている私に対して「絶対守ってやる」と言って声のする方向へ向かっていきます。
私はおいていかれないように男の人の後ろをついていきました。
「なんだお前、今日はかわいい嬢ちゃんを連れているじゃないか」
声の主であろう大男は私を見るとそう言いました。
「なんだよお前、また俺に負けにきたのか??」
そう言いながら男の人はアイスピックのようなものを伸ばしました。
伸ばすというと少し不自然かもしれませんが、伸びたという表現でしか比喩できないようなことが私の目の前で起こってしまいました。
「負けに来たわけないだろう、今日はそこの嬢ちゃんをもらっていくぜ」
そういうと大男は持っていた斧を振り上げました。
危ないと思った私は無意識に能力を使ってしまっていたのでしょうか、大男が持っていた斧は男の人よりも後ろの私の手前に落ちていました。
「なっ!?」
大男はありえないものを見たという顔をしています。
「武器のないお前なんて、そこらの動物を一緒だな」
そういうと男の人は大男の頭にアイスピックのようなものを突き刺しました。
すると大男は全身から力が抜けたかのように膝をついて倒れました。
「おいあんた、やっぱりなにか隠してるだろ」
私はやってしまったとも思いましたが、男の人が殺されなかったことに安堵しました。
どう説明していいか頭の中でまとめているうちにもう一度男の人が口を開きました。
「家に戻ったら教えてくれ、話はそこでも平気だ」
そういって家に戻ろうとする男の人においていかれないように私もついて行きました。
家に戻るとリビングのようなところに連れてこられた私は、男の人に「なにを隠してるんだ」と聞かれてしまいました。
私はもうこれ以上隠すことができないのかと思い口を開きました。
「信じていただけるか分かりませんが、私は神の血を通わせています」
私がそういっても男の人は真面目な顔をして話を聞いていました。
「私の力は遠くの物を動かすことと自分の身体能力の向上しかできませんが、その二つだけなら上限なく永遠と使うことができます」
「ここにきた理由はあまり私自身もよく分かっていませんが理由が分かり次第あなたに伝えるつもりです、信じてください」
私はこんな意味の分からない話をしているのに男の人はしっかりと聞いてくれました。
「誰があんたを疑ってるなんて言ったよ」
私は想像とは違う言葉に耳を疑いました。
「だれもあんたを疑ってるわけじゃない、ただその力について聞きたかっただけだ」
「この力についても信じてくださるんですか??」
「信じるもなにも疑っているわけじゃない、俺には一応魔力のようなものを見る力がある」
「俺の目で見たあんたが一般人じゃない力を持っていることぐらい人目で分かった、強大すぎる力で少し驚いたがな」
そんな力が男の人にあるとは知らなかった私は一言「ありがとうございます」と声に出してしまいました。
「感謝されることじゃないがその能力は利用させてもらうぞ、手を使わないでものを運べれば復興の役に立つかもしれないからな」
「力になれればいいのですが、精一杯がんばります!!」
そんなこんなで私の見知らぬ土地での生活が今日からスタートしました。
この作品を初めて読んでくださった方は始めまして、筆者のMagiccolor00221と申します。
このような場所に作品を応募する身ですが、今後とも精一杯書かせていただきますのでご意見ご感想よろしくお願いします!!