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後方支援

 漆黒の宇宙。オーダ帝国とイマガミ連合国がお互いの威信を掛けた合戦が始まった。第二次アズキ回廊の戦いと呼ばれるその戦いは、最初は静かだった。


 オーダ軍はアズキ回廊の入り口を抑え、様子見を決め込む。一方イマガミ軍は敵軍を回廊の奥深くまで誘わんとする陽動作戦に出た。しかしながら警戒したオーダ軍は乗ってこない。小競り合いが続く中、戦況は膠着状態へと向かっていく。イマガミ軍の回廊で戦おうとする意図はオーダ軍に筒抜けのようであり、回廊の入り口に深く腰を下ろしたがごとく動かない。イマガミ軍としても次の一手が必要であった。


 そんな一方そのころタワラ要塞では。

「あー忙しいなあ」

とセーラが管を巻いていた。タワラ要塞は後背地と最前線をつなぐ補給線の一部に組み込まれていて、その関係でひっきりなしに輸送船が発着している。セーラはその積荷が事前に送られてくるリストと合っているかどうかチェックする役目を授かっていた。

「何でこんな仕事をわたしに押し付けたのー?」

「仕方がないだろう。これが後方支援というものだ。重要な仕事だぞ」

「はーい」

若干投げやりな返事だがまあいいとしよう。前線から比較的遠く離れているこの要塞では、人々はまだ普通の暮らしを送っていた。忙しい連中はといえば兵站・通信と砲兵の部署くらいで、まだ戦闘の雰囲気はここには届いていなかったのである。そして俺とセーラはといえば、その忙しい部署を担当することになっていた。


「これより要塞会議を行う!」

と言われ会議に参集すれば、議題はまず兵站・通信の話から始まる。

「イツキ副司令、今の状況を報告してくれ」

「はい。まず兵站・通信に関してですが、特に問題はありません。連合国内から最前線向けに送られてくる物資の発着と通信文書のやりとりは平常通りに行われています。輸送船は5,000トン級が一日に10艘発着していますが、物資の積み替えはスケジュール通りで遅れはありません。通信に関してもオーダ軍による通信妨害が報告されていますが、基地局は平常通り稼働しております」

「ふむ」

とオオクボ司令が頷く。

「頷いていればいいんだから楽なものだよね」

などとセーラがぼそりと言ったので俺は慌てた。

「待て待て、それも司令官の立派な仕事だぞ。それに司令官はいざというときに出てきてみんなを統率する役割だ。暇なのが平和な証拠だよ」

「ふーん」

と若干不満顔。


「イツキ副司令、イツキ副司令!」

「え?ああ、はい」

「何をぼーっとしている。砲兵課の状況を報告してくれ」

セーラが赤い舌を出している。憎々しいやつ、と思いつつ俺は手元の書類に目を落とした。

「魔改造された要塞砲の発射準備は着々と進んでいます。進捗状況は70%でこれも当初の工程表通りです。あと数日すれば砲撃テストを行える状況で、来週の頭くらいには実戦配備できます」

「うむ」

とオオクボ司令が大きく頷く。


「ウタノスケ参謀長、統合幕僚総司令部からの作戦連絡は?」

ウタノスケ参謀長は多少慌てた。ぼーっとしていたに違いない。

「はいはい。……えーと総司令部からは砲撃の目標がいくつか参っております。砲撃のタイミングに関しては『適宜指示を下す』とのことです」

「わかった。イツキ少佐、発射準備を急いでくれ。来週頭はちと遅い。今週中にやってくれ」

「はあ」

「要塞施設管理部はどうだ?トリイ副参謀長?」

「はい。守りは固めに固めております。衛兵の巡回を二倍に増やし、スパイが潜り込まないよう細心の注意を払っております」

「要塞砲にはくれぐれも注意してくれ。戦いの命運を変える兵器になるかもしれん」

「承知しました」

「イツキ副司令も、兵站や通信に関しては軍の最重要部署だからな、常に注意を怠らないよう」

「はぁ」


「で、戦況についてだが」

と司令官が戦いのことを口にすると空気がギュッと引き締まった。

「戦闘はいまだ小康状態にある。決定的な会戦には至っていないが、我が方は相手の出方を探っているようだ。来るべき会戦に備えて要塞の準備を進めることが急務だ。関係者はそのことを留意すること。では解散」

そうして定例会は終わりを告げる。要塞の大部分はまだまだ眠っている状態だ。夜になると要塞近くの酒場は大繁盛になるし、兵士たちもどこかまだ余裕があるように見える。


自分の部屋に戻ってみると、すでに一人軍服姿の女性が立って待っていた。オダイ通信大尉だった。すらりとしてスタイルよし、美麗な印象を与える容姿の彼女は部内でも人気がある。

「副司令、ご報告ですがまたジャミングです。内地との交信が妨害されています」

「またか?アズキ回廊からのか?」

「どうもそうではなさそうです。内地の方向からのようなのですが……」

「それはなんとも妙だな。調査が必要だ」

「スパイが別の連合国の惑星に忍び込んでいるのかもしれません」

「万が一何かがあっては困るから調べてもらえるかな?人員にはまだ余裕があるはずだけども」

「承知しました。二、三人を使わせていただきます」

「頼んだ」

 司令への報告事項がまた一つ増えた。

「セーラはどこだ?今日のToDoリストはどうなってる?」

「ここにいるよう」

部屋の一角に書類の束がうずたかく積みあがっている。そこら辺から声がした。そこからひょっこりといつものタヌキ顔が姿を見せた。


「人が足りてないな。俺の副官としての業務に支障が出まくりじゃないか。もう一人部下をつけるか?」

「わたしは大丈夫だよ!」

と胸を張ったが、その拍子にどこか書類に触れたらしい。どさどさと書類が崩れて波のように部屋内を襲った。

「……無理しなくていいんだぞ?」

「うう……やっぱり応援いる……」

とふらふらと出てきた。書類の山からまた書類を引きぬいてそばに寄ってきた。

「ええと、今日のやることリストは……。まずは要塞砲の準備状況についての会議出席、それから補給物資の輸送状況の報告を受けて、通信の不具合のついての打ち合わせ、要塞守備検討会……くらいかな」

「まったく今日も盛りだくさんだな」

「戦いに出なくても後方支援の仕事っていっぱいあるんだね!」

「これも重要な仕事だ」

「早く艦長になりたくない?」

「そうだな。俺はいわば陸に上がった船長。まあこの戦いが終わったらまた艦長になれるだろう。それまでの辛抱だぞセーラ」

「わたし戦艦の運転なんて初めてなの!」

とセーラはすでに操舵手になったつもりでいるらしい。どんな運転をしてくれるか考えただけでも恐ろしいが。


そんな感じである意味のんきに構えていたが、最前線ではいよいよ決戦の時が迫っていたのだった。

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