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要塞砲の出番

タワラ要塞では戦場の情報が続々と入ってきていた。

「敵軍はアンジョー要塞を攻略し、西ミカワ地域をほぼ掌中に入れり!」

「目下東ミカワ地域に侵攻中!」

「我が方の援軍はヒクマノ地域を通過!」

どうも旗色は良くないようだ。錯綜する情報に殺気立つ幕僚たち。俺も情報収集を欠かさず行う。そんなときオオクボ司令官が幕僚室にふいに姿を現した。

「なんだ、騒がしいな。戦争でもあるまいし」

とのんきなものである。


「司令官殿。その戦争がおっぱじまってるんですよ!」

「おおイツキか。ジョークだよジョーク。そう怖い顔をするな。……戦況はどうなってる?」

「はい、どうやら敵軍はこちらの第一防衛ラインを超えてきたようです。その数、陣容を見るにただの威力偵察ではありません。本気でミカワの国を取りに来ています!」

「そうかそうか。ついに来たか。ところでウタノスケはどこにいる?」

「これに!」

と参謀長が進み出る。

「我がタワラ要塞はどう対応すべきか?作戦はどうだ?ただ戦況を指をくわえてみているだけではつまらんぞ」

「はっ。我らが準備してきたアレを使うときが来たようで」

「ふむ。アレとな」

「三式衛星榴弾砲にござりまする」

「むう、ついにアレを使うときがきたか」

と司令官は顎をなでる。


「なにそれ?」

とはセーラの言葉であった。

「とりあえず小惑星をまるまる改造して馬鹿でかい大砲をこしらえたと思ってくれ」

「ふーん」

とわかったのかわからなかったのかどちらとも知れぬ表情だ。


「今こそイマガミ連合王国にオオクボあり、と名乗りを上げるチャンスにござりますぞ!」

「して、作戦は?」

「こいつを敵にぶっ放してやれば、それだけで敵軍を足止めすることができるでしょう。どこかわからぬ遠くから飛来する砲弾に右往左往、士気も下がり、そこに我が軍の援兵が到着し一気に叩き潰すという算段」

「名づけて?」

「名づけて、榴弾砲大炸裂作戦にございまする!」

ウタノスケ参謀長は大得意なのであったが何のことはない、ただ大砲を敵の方角に向けて撃つだけであった。

「作戦ですらないのでは……」

という幕僚達の声が聞こえてきそうである。これは俺が一言言わなければならない。


「なるほどな。イツキ、お前はどう思う?」

「いやいや、参謀長の作戦には大反対です。敵の正確な場所もわからないまま適当に砲撃を加えても戦果はあがらないでしょう」

「ふむ」

「それにこの要塞を守る大砲をそんなことに使ってしまっては、敵に格好の標的を教えるようなもの。すぐさま反撃してくるでしょう。この要塞は敵軍の第一目標として集中砲火に晒されます」

「それはまずいな。まずい」

とオオクボ司令官。ポンと手を打った。

「よし、ウタノスケの作戦は却下だ」

「そ、そんなあっさりと……」

「うるさい!適当な作戦を立ておって。何が榴弾砲炸裂大作戦だ!」

オオクボ司令官は変わり身が早い。部下として困るタイプの一つでもある。

「それで、イツキはどう考える?作戦はどうだ?」

「はい。わたしが見るに敵はここを通るでしょう」

とそのときセーラに目配せする。セーラは頷いて地図を台上に広げた。

「そこを叩きます」

俺はある一点を指差した。衆目が示された地点に釘付けになる。


「そこはアズキ回廊か?つい先日戦いがあった場所ではないか」

「その通りです。総司令部はおそらくこの狭い回廊を戦場に選ぶでしょう。狭隘な回廊ならば敵がどれだけ大軍でも関係ありません」

「なるほどな」

「敵も密集隊形で進んでくるでしょうし、そこを要塞砲で一網打尽にできるという訳です」

「名づけて?」

「名づけません!」

どうもオオクボ司令官は形から入るタイプらしい。

「じゃあそれまでこの要塞はどうする?」

「待機です」

「指をくわえて戦いを見ていろと?」

「その通りです」

この待つということができない将軍は多い。ただ待つこと、何もしないことも選択肢の一つなのである。

「ふーむ」

とオオクボ司令は思案中。

「参謀長、総司令部から何か命令が来ていないか?」

「はっ。ただ守りを固めろ、とのことでありました」

「……わかった。とりあえずイツキ少佐の意見を取り入れよう」

オオクボがこちらを向いた。ウタノスケもこちらを見ている。その大きな鷲鼻がぴくぴく動いていた。

「では砲撃の指揮官はイツキ少佐ということでどうでしょう」

と参謀長。

「わかりました」

まあそうくるだろうとは思っていた。

「砲撃に当たってはイツキ副司令の下知に従うこと。では解散!」


三式衛星榴弾砲とはこのタワラ要塞に配置されていた要塞砲をオオクボの部下達が魔改造した大砲のことである。なにぶん現地のエンジニア達は暇なので、ついついやってしまったのだという。その信頼性に疑問符をつける技術者もいるようで、そこが心配の種でもあった。


ひとまずはセーラの運転にて小惑星T-221に到着。見かけはただの小惑星であり名前も平凡だが、それは世を忍ぶ仮の姿なのである。

「すごく暗いね。近くにくるまで存在に気付かなかったよ」

「敵に見つかりにくいよう、常に要塞の影にくるように計算されているからな。日の光は一切届かない」

「なんだかジメジメしてやだな」

とかなんとか言っているセーラを付き従えつつ、俺は小惑星の砲兵司令室に到着した。そこには一人の軍人が直立不動で待っていた。長身かつ痩身で、なんとも貧相な顔をしていた。

「お勤めお疲れ様です!わたくし砲兵大尉のチュウキチと申します!」

「ご苦労!イツキだ。今回はよろしく頼むぞ」

「はっ!」

「三式はいつでも撃てる状態にあるんだろうな?」

「はあ。少し時間がかかります。今撃てと言われるとなると24時間以内に一発目を撃つことができます!」

「ところでだ、そもそも大丈夫なんだろうな?この大砲は?」

「いや、まあ大丈夫かと思われますが……」

と怪しい答えが返ってくる。俺はますます疑心暗鬼にとらわれた。

「試射演習が必要だな。確かに大砲を撃つことができるのかどうか検証するのも必要だ」


ところがその暇は与えてくれないようだった。こちらのスパイがとある極秘情報をキャッチしたからだ。

「明日未明にもアズキ回廊内で敵味方が交戦に入ることが予測される!ですって」

仕方がなく、練習なしで一発本番をするしかなくなったのであった。

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