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戦場から程遠い戦争

そんなこんなで副司令官として細かい作業に没頭したタワラ要塞での1ケ月だったが、敵軍襲来の知らせが舞い込んできた。


「緊急事態発生!緊急事態発生!」

第一級の警報が鳴り響く。総員配置につけとの指令が飛んだ。

「敵はまたもや東ミカワ地域に侵入せり!その数およそ400隻!兵にして16万!」

「ミカワ地域の者は参集せよ!」

「何事なの?」

と驚くセーラ。

「戦争だ」

「いや、そりゃなんとなくわかるけどさ」

「オーダ帝国はじわじわと西ミカワ地域を固めつつあるんだが、とうとう全土を取るために乾坤一擲の戦いにでたということだ」

「ここはどうなるの?」

「まあ前線から遠いからな。せいぜい要塞砲で援護射撃を行うくらいだろう」

ブザーが鳴り、続いてアナウンスがあった。

『中尉以上の者は今すぐ要塞司令室に参集せよ!』

「会議が始まるぞ」


「諸君!これは由々しき事態である!」

オオクボ要塞司令官が第一声を放つ。周囲は突然の戦火の匂いに浮き足立っていた。

「一体何がどうなっているんですか、司令官!」

「情報が少なく兵士達が混乱を見せ始めています!」

「流言飛語が飛び交っています」

などなど。部下達は口々に不安を露にしていた。


「皆静粛に!」

と俺が釘をさす。こういうのは中間管理職としての勤めだ。

「これから司令官よりもろもろの指示がある。それよりも兵を掌握するはずの皆がこう浮き足立っては要塞は一夜にして瓦解してしまうぞ!何があってもどっしりと構えて指揮官としての度量を見せてほしい」

そう言うと場は静かになった。打って変わってしわぶき一つなくなった一堂に、司令官は満足したらしく言葉を続けた。

「皆も知っての通り、敵は東ミカワ地域への侵攻を始めた。これは大変由々しき事態。しかし我が軍も閑暇をむさぼっていたわけではない。東ミカワへの兵力の配備が進んでおり、今や敵軍を超える軍勢がてぐすね引いて奴らを待っている。今こそオーダの奴らに一杯食わせてやるときである」

「我らがタワラ要塞はどうなるのですか?」

とある一尉官が質問を投げかける。オオクボ司令官がギョロリと目を剥いた。

「それについては後ほど指示を出す。今はとにかく浮き足立った兵たちを静めるがよい。こちらには備えあり、とな」

司令官が俺を見て頷いた。俺はそれが何を意味するのかよくわからなかったがとりあえず頷き返した。

「では、イツキ副司令官、ウタノスケ参謀長、後は頼んだ」

「は?」

という声が思わず出てしまいそうになったが、そこは堪えた。内心大困惑している俺を尻目にオオクボ司令官はさっさと部屋を後にした。残されたのは衆目が俺に集まっているこの状況である。

「副司令、我らにご指示を!」

「う、うむ」

俺はウタノスケ参謀長をちらりと見てみた。駄目だ。ウタノスケの奴知らん振りを決め込んでいる。全て俺に押し付けるつもりだ!

「そうだな……」

頭をフル回転させ、ここで何を指示すべきなのか、何を考えるべきなのかを考える。俺はこういうときすっかり落ち着いた風を保つことができた。ので見た目にはどっしりと構えているが、内心は滝のような冷や汗が出ていたのである。

「では、ウタノスケ参謀長、状況の説明を頼む」

「はっ」

ウタノスケはそういいつつも狼狽を隠せなかった。後ろを振り返り、幕僚達に何か小声で指示を出している。

「……少々お待ちを。副参謀長のトリイがご説明申し上げます」

「えっ!」

という顔を見て見ると副参謀長に驚愕の表情が浮かび上がっている。わかるぞトリイ、同じ中間管理職として上の無茶振りにも対応しなければならないのだ。内心で若干のものの哀れを覚えつつ、同情心を覚えつつ俺は彼の説明を待った。

「えー、ご説明申し上げます」

とトリイは部下から大量の資料を持ってこさせつつ口火を切った。

「今総司令部から来ている情報を総合すると、敵はその数およそ4万、合計100隻あまりがヒロノブを大将に西ミカワに到着。すぐさま東ミカワへ向け侵攻中。現時点ではアンジョー要塞付近にいるとの情報あり」

「我が軍は?」

「既に援軍は首府シュンプーを出発せり。その数およそ6万。加えてヒクマ地域からも援兵ありとのこと」

「聞いたかみなの衆!」

おお!と皆が騒ぐ。どの顔も土気色だったが、援軍の話を聞いて見る見る血色を取り戻した。

「我らがタワラ要塞は、前線の兵士達を助けるべく、配備された大口径要塞砲で援護砲撃を行うものと思われる」

「聞いたかみなの衆!我々も戦うのだ!敵兵をこのミカワの宇宙からたたき出す!」

おお!と再び血気が上がる。

「それでは会議はこれで解散とする!皆においては兵士をよく掌握し、士気を高く保つこと。では散会!」


尉官や佐官が三々五々に散っていく中、副参謀長のトリイが俺に近づいて言った。

「いやーつらいっす」

「急な無茶振りにも関わらず素晴らしいブリーフィングでした。トリイ少佐」

「それはイツキ少佐も、ですな」

お互い上と下がアレなので苦労している。なんとなく心の通じるところがあるのである。

「ま、お互いがんばりましょう。死なない程度に」

そうしてふらふらとどこかへ行ってしまった。


「で、これからどうするの?」

とセーラが言う。それは俺にもわからない相談だった。

「とにかく総司令部からの指示がないことには何もできん。とりあえず待機だな」

「ここが攻められたりはしないの?」

「まあここは結構僻地だからな。いちいち兵を割いてまで取るようなところじゃない」

「なんだ」

となぜかセーラは失望顔。一体何を期待しているのか見当もつかないが、ともかく俺は自分のなすべきことをすることにする。

「幕僚会議を行おう。ウタノスケ参謀長、お願いしますよ」

「んん?ああ。わかった」

戦場から遠い閑地の将校とはこういうものである。どこかのんびりとしている。

「とうとうタワラエックスの出番が来たか!」

といきまいている砲兵大尉のチューキチくらいである、血気さかんなのは。こういうところでは実戦に加わる可能性がある砲兵は比較的モラルが守られていた。

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