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この基地には重大な欠点があります!

『タワラ要塞 第33会議室』


「この基地には重大な欠点がいくつもあります!」

朝の定例会。時刻は朝10時を示していた。

「危機的状況にあるといっても過言ではありません!」

「どういうことだね、イツキ副司令?」

オオクボ司令は今日は珍しく早く出勤してきていた。いつもは重役出勤もいいところで、お昼前にやってくるのである。とにかく俺は部屋に掛けてある要塞の見取り図を指差した。

「今日朝出勤するときに気付いたのですが、まず第一防衛線のセンサーが稼動していない箇所がありました」

「ふむ」

「ここだけではありません。お手元の資料をご覧ください」

朝っぱらから俺が必死こいてつくった資料をセーラに配布させた。それはいくつかの点で基地の防衛線に重大な欠陥があることを示していた。艦船感知システム以外にも問題が何点かあったのだ。

「なるほど、よくわかった」

「はっ」

「で、だ」

司令は資料を放る様にして机に置いた。なぜか司令官は不機嫌だった。

「はい」

「後は任せたぞ」

へっ?と声が出そうになった。

「では副司令の専決事項ということで」

会議のファシリテーターがそう言うとオオクボ司令はもうこの件は済んだと言わんばかりに次の議題に移っている。

「次に惑星砲の改修についてだが……」

俺の作った資料など読んでいないだろう。そのままこの件は何事もなかったかのように過ぎてしまった。気付いたら自分で直せということか。


定例会が終わった後、俺はぼそりとつぶやいた。

「なぜなんだ?」

「そりゃそうでしょ」

とセーラ。俺には人間の機敏がわからないのか、と言わんばかりに皮肉たっぷりな表情をしていた。

「そんなの司令官のミスになるからでしょ」

「ん?」

「重大な欠陥をそのまま放っておいたということは、それは司令官のミスでもあるよね。それを欠点があるなんて大々的に言ったものだから特にオオクボ司令官は不機嫌になったんだよ」

「うーん」

「何事も物事には言い方ってものがあるんだよ」

「くそう。それをセーラに言われるとはな」

同い年くらいの奴に言われるのが一番堪える。さりとて要塞のほころびを放っておいてはいざというとき俺の責任になってしまうだろう。やはり中間管理職はやりにくい。

「で、要塞システムの修理は俺の専決事項になったわけだが……直しにいくか。修理業者を呼ばないとな」

俺は通信機を取り出し、修理にあたって業者の選別を部下に指示した。


『タワラ要塞 第一防衛線 A54地点』

「副司令官、修理には一週間かかるそうであります!」

「そうか」

俺は宇宙船に乗って再び現場に来ていた。調べてみるとやはり艦船感知システムのセンサーがこの地点のみ壊れていた。

「それも、意図的に何者かが壊した形跡があるそうであります!」

「問題だな。すぐさま調査しなければ」

「敵が攻めてくる前でよかったであります!」

「ご苦労!下がっていいぞ」

「はっ!」

隊員が俺の前から姿を消した。

「これはスパイの仕業なのか?それとも不満分子の破壊活動なのか?」

俺は自問自答する。とりあえずは両面の線で追っていこうと思っていると、セーラが書類の束を持って控えていた。

「さてさて副司令官どの、見ていただく書類がこんなにもありますぞー!」

「なんでそんなに嬉しそうなんだよ。やれやれ。で、重要なものは?」

「えーとね。兵士から苦情が寄せられてるんだけど、朝の通勤渋滞が酷いから改善してくれって」

「本当にやれやれだな。他は?」

「食堂のご飯がまずいから士気が下がるだって」

「ふぅー。そんなことまで俺の職域の範囲内なのか?」

「そうみたいだね」

「まったく俺は兵士のお母さんではないんだぞ?!」

「まあまあ」

などとセーラにおだてられるが、仕方ないことである。俺は色んな場所でのパイプ役。副司令として全力を尽くそう。


「まずは渋滞からだ」

俺は部屋に地図を広げた。

「とりあえず現場に行ってみよう。渋滞の原因を突き止めなくては」

俺たちはその場所を離れて現場へと向かった。インターステート54番道路と3号要塞道路の結節点で渋滞が早速起きていた。

「交差点を見ていると、どうも交通整理がうまくいってないみたいだな」

「信号機がいる?」

「そうだな。というか信号機もなかったのか」

「見て。手旗信号で処理してるよ」

「これはさすがに渋滞するだろ……」

改善点一つ目だ。信号機を設置しよう。

「他に改善点は……」

見ていると様々な方向から宇宙船が集まり、最終的に同じところを通っている。当たり前だが要塞の正門を皆通る。そこも渋滞の元だった。

「どうすればいいものか……」

「なんで出入口が一か所だけなの?」

「そりゃ当たり前だろ。セキュリティ上の問題があるからだよ」

他のところは通れないのか、通勤のときだけ開放することはできないか、それは俺も考えたことがあった。考えるだけに留まっていたのだが、とうとう手を打たねばならないときが来たようだ。


「でも万が一敵が通勤してくる兵士にまぎれこんでいたらどうする?誰が責任を取るんだ?」

「そりゃイツキでしょ」

「まじかよ。というかいつのまにか呼び捨てで呼びやがって。俺は少佐様だぞ?」

「同い年くらいなんだから気にしない気にしない」

と煙に巻かれてしまった。どうにもやりにくい副官だ。


「……とにかく、施設設備管理課っていうのがあって門の管理をしているから、そこと相談してみよう」

「はーい。アポとってきまーす」

とセーラはいそいそと部屋を出て行った。まったく使える奴なんだかどうなんだかわかりはしない。


後は相談の場で何を打ち合わせるか考えることにした。いわゆるブレインストーミングというやつである。

「とにかく通勤のときだけなんとかすればいいんだから……」

癖になった独り言をしつついくつか草案をまとめてみた。

「ま、こんなとこだろう」


そうこうしていると昼を告げる鐘が鳴った。昼飯の後は午後2時から守備検討会がある。4時からは業者との打ち合わせ。まったく会議づくしで忙しい。毎日がこんな感じであった。

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