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少佐の帰還

全速力で敵艦隊を突破。その瞬間敵の砲撃が始まった。

「さあ、ショーの始まりだよ!」

と言いながらセーラは涼しい顔をしている。


「ちょっと待て、っておい!」


このオンボロ船のどこにそんな力があったのかというほど急加速。体全体に重力がかかり、座席にぐっと押し付けられる。あまりの急発進に頭に血が登る。意識が少しだけ遠くなったような気がした。


「右舷!」

朦朧としかけた中でモニターがたまたま目に入ったのだが、船外カメラからの映像には右舷に敵のビーム砲が迫るのが見えていた。

「大丈夫!」

船は体をよじるように回転し、攻撃をすんでのところでかわした。

「大丈夫か?なんか船がガタガタ言ってるぞ?」

「大丈夫大丈夫!」

そう言いつつモニターを見ていると敵船団が一斉砲撃を始めたのが見えた。光の軌跡が幾筋も宇宙空間を走り、こちらに向かってくる。俺には何故かスローモーションのように敵の砲撃が見えていた。

「えい!」

船は全速力のまま、宇宙空間に弧を描くように左旋回を始めた。遠心力がかかり、無理な機動で船は悲鳴を上げているかのようにキーキーと音を出す。ロケット弾やビーム砲が飛んでくる。当たりそうになると速度を上げてさらりと距離を離し、または急に減速して直撃をやり過ごす。

「たいしたもんだ!」

「まあね!」


セーラもさすがに緊張してきたのか、顎から汗をたらしている。

「今度は左舷にきてるぞ!」

「わかってるよっ!」

今度は右旋回。弾丸のようにひねりを加えつつ船は曲がっていく。ほとんど曲芸飛行みたいなものだった。

「一体何処でこんな操船術を?」

「さあ?」

的確な機動で敵の砲雷撃を避けつつ、気付くとどんどん距離を離していっていた。

「へへん!」

とセーラは得意顔。俺は正直生きた心地がしなかったけども。

『前方の船に告ぐ!今すぐ停船せよ!停船せよ!』

と後方の追っ手から負け惜しみのような呼びかけが。

『さもなくば最終手段に出る!繰り返す……!』

「最終手段って何だ?」

「さあ」

と緊張感がまるでない。モニターを見ていると、敵艦隊から一艘進み出てきた。小さな船だが、その胴体には巨大なミサイルのようなものが抱きかかえられていた。

『宇宙の藻屑になるがいい!』

その小さな船と同じ大きさのミサイルが船を離れた。

「敵艦隊が退いているぞ!」

「あれは何?」

「さあな」


その瞬間である。ミサイルのようなものが爆発。そしてその衝撃波が空間を揺らしていく。目に見えない一撃が船に襲い掛かる。

「避けろ!」

「無理!」

衝撃波がびりびりと船を揺らす。俺は思わず耳をふさいだ。船内が揺れている。


それから一週間が経った。それ以来特に敵側からの襲撃はなく、順調な旅路だった。


『イマガミ連合王国 首都シュンプ』

感無量だった。ようやくたどり着いたのだ。第百一連隊宿舎の門をくぐる。皆が俺を驚きの目を持って迎えた。もう死んだものと思っていたのであろう。

「イツキ少佐、帰還されました!」

知らせが宿舎を駆け巡る。なんとか戦いを生き残ったのだ。

「今回も生きて帰れたか……」

俺の足が止まる。そこは連隊長の部屋であった。ノックすると咳払いが聞こえた。入ってよいということだ。

「よくぞ戻った、少佐」

連隊長のオオクボが両手を広げて待っていた。

「連隊長、恥ずかしながら帰ってまいりました」

「いつも少佐の強運には驚かされる。船を撃沈されること幾たび。毎回まったく無傷で最前線から帰ってくるのだからこれは僥倖以上のものがあると言わざるを得まいよ」

「恐れ入ります」

「ひとまずはゆっくり休め、と言いたいところなのだが……」

俺は連隊長の机の上に書類が載っていることに気がついた。


「早速だが少佐に次のポストを用意した」

「え、もうですか?」

「戦争中ゆえ仕方のないこと。皆が歯を食いしばって戦っているのだ」

「まあそうですけども……」

「先のアズキ回廊の戦いでは双方に多大な損害が出た。しかし少なくとも我々は負けていない。東ミカワ地域における重要拠点として、少佐にはタワラ要塞の副司令官として赴任してもらう」

タワラ要塞といえば最前線からは少し引いたところ。二線級の要塞でありどちらかといえば閑職であるが、これも組織の中で仕える身としては仕方のないことだった。

「本来であればまた艦長をしてもらうつもりでいたのだが、少佐にあてがう船がまだない。当面は陸上で副隊長として戦ってもらいたい」

「承知しました」

「それで少佐の副官であるが……」

「それはもう大丈夫です」

「む?」

「逃げ延びる最中で一人の女の子を拾ったんですが、その子に身の回りの世話をしてもらうことにしました」

「なんと。少佐、案外やるではないか」

「誤解してますよ!そんな変な意味ではありません」

連隊長はニヤニヤしている。

「まあよい。少佐の副官は消耗率が異常に高く、なり手がいなかったこともある。丁度よかろう」


外ではセーラが気をもんで待っていた。

「副官として雇われることが決まったぞ」

「本当?!やったーっ!」

「戦に出ることがそんなに嬉しいのか?」

「今までずっとニートみたいな生活してたから、ようやく仕事ができるんだって思うと嬉しくって!」

「今までずっとニートみたいな生活?記憶が戻ってきたか?」

「あ」

「あ、じゃないよ」

「うーん。断片的には戻ってきたんだけどね。まだ自分が何者なのかさっぱりだよ」

「まあ時間をかけてゆっくり思い出せばいいさ」


ひとまず俺達はタワラ要塞へと赴任した。新たな副官を得て、俺は副司令官という中間管理職へと再びの復帰を遂げたのだった。

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