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中間管理職再開しました――ナ号作戦

「イツキ艦長!左舷に敵発見!その数多数!」

事態はのっけから非常に悪かった。俺はすぐに決断を下した。

「本隊に伝えろ!作戦は失敗!撤退する」

その瞬間、船に衝撃が走った。

「左舷艦橋に被弾!」


 それはいつもの通り無理な作戦から始まった。

「セーラ、最大出力で脱出だ!」

「やってるよ!とっくのとうに全速力だけど」


 南部前線統合軍司令官のムタグッチーノ中将が発動した作戦名『ナ号作戦』。しかしそれは計画の時点で破綻していたお粗末なものだった。俺は巡洋艦コーネリアを率いる艦長として作戦に参加。本隊から離れて敵をひきつける陽動隊としてアミホク星団に進出したが、それは罠だった。


「砲撃!砲撃!滅法に撃ちまくれ!」

「弾薬が尽きかけております!このままですと10回ほどの一斉射撃で弾薬庫はカラになります!」

「構わん!温存してタマを抱えたままやられては笑い話にもならん!」


 待ち伏せされていたのである。ろくな補給もなく、敵は多数。しかし俺はこんなところで死ぬわけにはいかない。どうしても船とともに生きて帰らなくてはならなかった。


「暗黒星雲を通るよ!危ないけど姿をくらませるにはそれしかない!」

「許可する!」

船は全速力で漆黒の闇に飛び込んだ。

「本船、暗黒星雲内を航行中!」

しばらく進むと後方からの射撃が途絶えた。とりあえず一命を取り留めた、というところか。しかし宇宙塵のせいで何も見通せない暗黒星雲はあまりにも危険だった。急に小惑星が出てくることもあり、衝突、そして四散の危険性が常にあった。セーラが船を運転しているのでなければそもそも突入すらしていなかっただろう。


「どうしてこんなことになったの?」

セーラが肩を落として言う。

「さあな。この無謀な作戦の司令官殿と参謀長殿に聞くしかないだろうよ」

十数隻いた僚船は既に宇宙の藻屑になっているか、行方知らずだった。どうやらコーネリアだけが助かったようだ。


レーダー班が大声で知らせる。

「このままですと暗黒星雲を抜ける模様!」

「待て、それは待て。船を停めろ!」

「了解!動力停止!」

「動力停止ぃ!」

船では最年長であるゴートク機関長が復唱する。どうやら運悪く小さな暗黒星雲に飛び込んでしまったようだ。敵は出口で手ぐすね引いて待っているに違いない。


「やばいよ。燃料も尽きかけてる!」

「くそっ!」

その場で敵をやり過ごすだけでも燃料は無常にも消費されていく。このままここに留まっていては帰りの燃料もなくなりそうだった。そもそも当初から片道の燃料しか補給されていなかった。作戦途中で引き返したのでなんとか基地に帰れる量が残っているに過ぎない。

「何か手段はないのか!」

「……」

「……」

返事はなかった。艦艇司令室内は重い空気で満たされていた。さらに空気を重くするものとして、司令室からは味方の船の残骸が宇宙を漂っているのが見え始めた。俺と同じくここまで逃げてきたが、暗黒星雲から出るときやられたに違いない。その破片は星雲の出口へと繋がっていた。

「なんてことだ。こりゃあまるで船の墓場だ」

と誰かがつぶやく。少なくとも数船はここでやられたようだ。


 さらに追い討ちを掛けるように司令室にブザーが鳴り響いた。

「被弾した左舷艦橋内の圧力が低下しています!」

「どうなってる?!調査班を組織し、すぐに被弾現場に急行させろ!ノーミ大尉が指揮を行え!」

「了解であります!」

慌しくノーミ大尉が司令室を去ると、またもや司令室は重たい空気に包まれた。どうすればこの窮地から逃れることができるのだろうか?艇内の物資も底を尽きそうになっていて、このままでは死を招くことは明白だった。


「これからどうするの?」

「座して死を待つより、華々しく戦い宇宙に散りましょう!」

とゴートク機関長が言うと、同調する者が多数出た。

「馬鹿者!どうしても生きて帰るぞ。こんなところで死ぬことは許されん!」

敵も完全ではない。どこかに隙があるはずだった。そこを突けば必ず生きて帰ることができるに違いない。

「しかし、イツキ司令官!物資は底を尽き、船は被弾。まさに刀折れ矢尽きるといった惨状であります」

「とにかくこの場で死ぬことを考えている奴は勝手に自決するがいい。ここに残るのは生きることを考えている者だけだ!」

士気も上がらず、不満が溜まっている。これからどうすればいいのだろうか?


俺の中で答えは一つしか出なかった。しかし、それは余りにも無謀すぎた。

「一つだけ案がある」

それでもそれを遂行するしかなかった。それが生きるための唯一の道なのだ。

「セーラ、船を戻すんだ。これより本船は暗黒星雲を逆走する」

司令室はどよめきに包まれた。

「死中に活を求める。目標はアミホク星団、ディプロマ星だ」

「司令官!それは無茶です!ディプロマ星は敵の重要拠点であります!」

「そうだよ、イツキ!それに星まで近づけるかどうかすら怪しい燃料しか残ってないんだよ!」

「それでも、やるしかない!敵はまさか入ったところからまた出てくるとは思うまい。それに燃料を補給できるとしたら、ここからだとディプロマ星しか航続範囲内にない。それ以外の星はここからだと存在しない」


「……」

「……」

「……わかりました。司令官の下知に従います」

ゴートク機関長が言うと、他の者も頷いた。セーラは船を転回させ、暗黒星雲の入り口へ向け船を走らせた。


「まもなく入り口になります!」

レーダー班がそう告げると皆身を硬くするのがわかった。

「ディプロマ星は星雲の入り口を出てすぐの場所にある。皆、上陸戦の準備を」


「入り口通過まで残り10秒!9,8,7」

「おお、神よ!」

ゴートクが祈りをささげる。しかしそんなものは戦争では何の役にも立たない。

「5,4,3……」

「一気に突破するよ!全速前進!」

「2,1……!いま!」


 船は暗黒星雲を出た。

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