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殺人事件―結審

「検察はもう一人証人喚問を求めます。要塞司令官、キラ大佐です」

「許可します」

一人の偉丈夫が入ってくる。要塞にいたころはホログラムでしか見たことがなかったが、それは間違いなくキラ大佐本人であった。


「お手数ですがお名前と役職を」

「名前はキラ。大佐だ。タワラ要塞の司令官を兼任している」

「事件の起きた時。あなたはどこにいましたか?」

「首府シュンプーにいた。そこからホログラムを通じてオオクボ司令官に代わって指示を下していた」

「大佐は被告人が血だらけで現れたところに居合わせたとか」

「その通りだ。彼女はひどく取り乱した様子で、落ち着きがなかった」


「これは印象操作じゃないか」

「イツキさん、我慢我慢」

まったくどこまで我慢すればいいのだろうか。


「被告人は取り乱していた。そして落ち着きがなかったんですね」

「そうだ」

「何故だと思いますか?」

「さあな。俺にはわからん話だ」

「わかりました」

ミズノがひらりと身を翻した。

「検察からの質問は以上です」

「ふうむ」

裁判長は深く頷いた。それが何を意味しているのか、考えたくもなかった。

「弁護人側から質問はありますか?」

一応聞いておくかぐらいの軽い気持ちで投げかけられたのが見え見えな問いであったが、俺は我慢した。そしてアサヒナがまたぞろ変なことを言い出さないか監視するに留まったのである。


「そろそろお昼の時間ですな。一時休廷とします」

陪審員や傍聴者達が一斉に立ち上がった。

「やれやれ、これは決まったでしょうな。午後イチで判決が出ますかな」

「一方的過ぎる。弁護人側は手も足も出なかった」

「あの小娘もあんな無邪気な顔をしていて殺人鬼とは末恐ろしい」

などと好き勝手に噂し合っている。セーラも衛兵に促され立ち上がる。

「セーラ!必ず助けてやるからな!」

思わず叫んでいた。セーラはこちらを見てかすかに頷いた。空虚だった瞳に少し力が入ったように見えた。


 がらんどうの法廷で、セキグチとアサヒナ、俺の三人が居残って午前の反省会を開いていた。

「さて、イツキさん。ここまでの話で矛盾がありましたか?」

「ふーむ」

頭を高速回転させる。今までの話の中でどこに矛盾があったのだろうか。探せば必ずあるはずだ。どうやらセキグチとアサヒナはそこまで助けてくれるわけではないらしい。というかそもそもこの二人は何のためにここに来たのだろうか。まったく真に恐るるは有能な敵ではなく無能な味方というのは本当らしい。と、考えが別の方向へ行ってしまった。

「セーラさんは無罪です。私はそう感じました」

「そんなことくらいわかってる」

「矛盾を指摘して午後イチで決めてしまいましょう!あのミズノとかいうおっさんの顔が苦痛にゆがむのが今から楽しみですよ!」

「私どもはあくまでもイツキさんのサポートしかできませんが、一度形勢が傾いたら後はお任せあれ。一気にけりをつけて差し上げます」


 そして時刻は13時丁度。運命の裁判は再開された。


「弁護人側、これまでを通じてもう一度聞いておきたい証言はありましたか?」

「ありません」

俺ははっきりと答えた。セキグチとアサヒナが不安そうに俺を見た。ミズノですら驚いてこちらを見たくらいだ。

「いいんですか?」

「ああ。矛盾はあった。明白な矛盾だ」


「弁護人側、何か言い残しておくことは?」

裁判長の最終警告とも言える質問。しかし俺は怯まなかった。


「裁判長、我々弁護人は気づきました。検察側の陳述には明白かつ致命的な矛盾があります!」

廷内がざわめく。

「何をいまさら。弁護人側は錯乱したか!」

とミズノ検事。

「検事は冒頭陳述の中で、被害者は『被告人を要塞司令官執務室に呼び出し、そこで本件被害に遭った』と言いましたね?」

「いかにも」

ミズノは鷹揚に頷く。

「それがどうかしましたか?」

と裁判長。


「おかしいんですよ。言ってるそばから矛盾している!」

「ああ、イツキさん!でかしましたね!」

とセキグチが手を合わせれば、

「どゆこと?」

とアサヒナは困り顔。


「検事は一方でこうも言っています。『被害者には争った形跡がなく、眠っていたところを襲われたとみられる』と」

「むむ!」

「一体全体どちらなんですか?オオクボ司令はセーラを呼び出したのか、それとも眠っていたのか?」

「そう言われれば……」

裁判長は目をこすっている。

「検事が描いたストーリーが、根元から瓦解してしまうほどの矛盾!さあどちらなんですか、検事!」

「うーむ……」

「ミズノが動揺していますよ!やったぜ!」

「アサヒナ!はしたない言葉使いですよ!」

「状況証拠から言って、オオクボ司令官が眠っていたことは確かだ。とするとセーラは呼び出されたのではない!」

「……」

「そもそもセーラは眠っている司令官を起こしに行ったのであり、事実とはあべこべ。とするとその目で見たのは既に冷たくなっている司令官の遺体だったのです。被告人の陳述どおりということになります」

「とすると?」

「そうです、裁判長。犯人は他にいるのです、しかも今ここに!」

廷内は電撃に遭ったかのように一瞬静かになり、すぐに騒ぎ出した。

「どういうことだ?!」

「じゃあ誰が犯人なんだ?!」

「静粛に、静粛に!あまりうるさい者はつまみ出しますよ!」

「今すぐ捕らえるべきです!衛兵、そいつを捕まえてください!」

すかさずセキグチが叫ぶ。法廷から逃げ出そうとしていた男、それはウタノスケその人に他ならなかった。



……


……


「判決を言い渡す!被告人、セルジューク・セーラを無罪とする!」

遂に勝ち取った。最初は反駁困難かと思われた検事ミズノの陳述も、蟻の一穴から崩れ去った。

「イツキ!」

とセーラが飛び込んできた。あまりの勢いに押し倒されそうになったが、なんとか堪えた。

「まさか全てウタノスケのでっち上げだったとは」

とアサヒナ。

「日ごろから自分をないがしろにしていた司令官を亡き者にしようとしていたのです。それにしてもその罪をセーラさんになすりつけようとするとはますます卑劣で許しがたい」

セキグチもそういいつつ笑顔だった。

「弁護士のお代はいりませんよ。今回はイツキさんが一人で取った勝利ですから」

「いや、言われなくてもそのつもりだ」



 そしてその後俺に辞令が下った。

『イツキ少佐を巡洋艦コーネリアの艦長とする』

ようやく俺は艦長に戻ることができたのである。勿論セーラは副官だ。これからさらに忙しくなることだろう。イマガミ連合王国とオーダ帝国の戦いも決戦の日が近づこうとしていた……。

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