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宇宙で女の子を拾ったら注意せよ

時は西暦11540年。人類がこのだだっ広い大宇宙に出て既に数千年が経過していた。


しかし技術が進歩してもいつまで経っても人類というのは変わらないもので、惑星ごとに、はたまた銀河ごとにお互いが反目しあい、戦乱を繰り広げていたのであった。


そして今日も銀河の隅っこで、ある軍の中間管理職として必死に戦い続ける男がいたのであった……。


「イツキ艦長、総司令官より主砲一斉射撃の命令が出ました」

「今一斉射撃するのか?戦況をわかってるのか総司令は……」

宇宙に浮かぶ大艦隊群。いまオーダ帝国とイマガミ連合王国という二大勢力がそれぞれの威信を賭けて戦闘中だ。俺はその中の1隻を任されているただの艦長、いわゆる中間管理職だ。


「戦況はよくありません。……わたしには罠のように感じられるのですが、イツキ艦長」

「ううむ。ただ命令違反もできないしな。……よし一斉射撃!」

瞬間的にこちらの主砲がきらめいたと思うと、光のビームが敵艦隊に向けて発射される。敵は光の渦に巻き込まれた。俺はずっと嫌な予感がしていた。


「ダメです!敵は反射鏡を使っています!」

やはり。部下がみな真っ青な顔をしている。自分達が打ったビーム砲が自分に跳ね返ってきたのだ。

「取り舵一杯!避けろ!」

「無理です!避けられません!」


船が揺れる。照明が落ち、赤いサイレンが回り始めた。耳をつんざくようなブザー音が鳴り響く。

「あちゃあ。やっぱりか……」

思わず自分の両手を交互に見た。体は無事。まだ生きている。司令室の直撃は避けられたようだったが、ここから見ると船の右翼側から煙が出ている。どうやらビームが貫通したらしいが、船は急激に右旋回を始めた。編隊から進路を外れていく。船は完全にバランスを失っていた。

「艦長!早く脱出してください!完全に制御不能!この船はもう持ちません!」

「くそっ。無念!」

とか言いながらも実は俺は慣れたもので、そそくさと脱出艇に乗り込んだ。艦長が艦と命運を共にする、というのは俺のポリシーではない。まだ20歳なのだ。死ぬには早すぎる。

「射出!ご武運を祈ります!」

「お前らもキリのいいところで逃げるんだぞ。こんなところで死んだら損だからな」


そして脱出艇で艦を後にした。後はいつもの流れだ。宇宙空間に漂う緊急用脱出ポッドは攻撃してはならないことが宇宙条約で定められている。何にせよ命までは奪われまいと高をくくりつつ、そのまま宇宙をさまよう。味方の船に拾ってもらうことを待つのみである。


背後を見てみると、俺が乗っていた船は集中攻撃でも受けたのか、大爆発を起こし四散雲散していた。

「くわばらくわばら……」

ぽつりと独り言。まだ若いのに最近独り言をつぶやくことが多くなっている。本来ならば副官が話し相手になるのだが、俺は副官とは親しくしないようにしている。

「結局すぐ戦死したりして離れ離れになるからなあ……戦いに出るたび毎回関係性を一から作るのは面倒だよ」


しばらく待っていたが、まだ戦闘はそこかしこで起きている。どっちが勝つのか負けるのか。どちらにせよ、早く終わってほしかった。戦争に慣れてしまった俺はもはや無感動だったのだ。


しかし困ったことが起きた。お互いの艦船が退き始め、戦いが終わったようだ。なのに誰も助けてくれないのである。そのまま俺の脱出艇は宇宙空間を漂い続けた。脱出艇には最低限の燃料しか積んでいない。すぐに燃料切れになった。とりあえず重要書類と軍服を破棄しておいた。


そうして待つこと3日間、そろそろかなと思い始めた頃だった。


「大丈夫ですかー?誰かいますかー?」

無線が艇内に流れた。それに脱出艇をこつこつと叩くものがいる。ようやく救援が来たか。俺は窓に近づいて誰がやってきたのか確かめようとした。見ると俺と同じくらいの年頃の女の子だった。顔は狸顔で丸顔、目も丸く大きい。あどけない表情だが、口元はしっかりと引き締まっている。

「救援隊か?にしては……まあいい。宇宙の藻屑になるかと思ったよ」

「あ、まだ生きてる!」

ちょっと待ってねと女の子。姿を消した。


しばらくして船が小刻みに揺れ始めた。俺は非常に不安になった。カメラを見ると、女の子がチェーンソーみたいなものを振り回して船を攻撃している。俺は急いで無線機を取り上げた。

「ちょっと待て。強引にこじ開けるつもりか?中から開けるからポッドを壊すのはやめてくれ!」

はーいと無線から無邪気な声がした。俺はポッドの最外殻の大気隔離室ドアを開けるボタンを操作した。


「今開いたドアから中に入ってくれ」

モニターで女の子が部屋に入ったことを確認した俺はドアを閉め、中の気圧や空気を操縦室と同じものにした。女の子は一人のようだった。


「ふう。暑い暑い」

とか何とか言っている。もう宇宙服を脱ぎ始めている。下は軽装で、戦闘服ではなかった。俺はどうやら救援隊とは別の、ただの一般人に救出されてしまったらしい。

「ここはどこだ?」

「第51地球のすぐそばだよ」

「どこだそれ?」

「銀河系の端っこだから知らない人も多いけど、れっきとした惑星だよ」

「わかった。で、君の名前は?国籍は?そういえば戦いはどうなった?」

「そんな一遍に言われると頭がこんがらがっちゃうよ」

「すまんすまん」

「わたしの名前はセーラ。あなたは?」

「俺はイツキだ。運悪く戦いに巻き込まれて船が大破してね。脱出ポッドで逃げてきたんだ」

俺は一応用心して身分は隠すことにした。こんないたいけない女の子がスパイであるわけがなかったが、どこから話が広がるかわかったものではない。用心するに越したことはない。


「ふーん。それは大変だったね」

「君はオーダ帝国とは無関係だよね?」

「そうだけど?」

「俺はイマガミ連合王国から来たんだ。ここから少しばかり離れてる。できれば送り届けてもらえないか?もちろんお礼はする」

少し虫が良すぎるかもしれないと思いつつ聞いてみた。

「いいよ」

「本当か?!やった!」

「その代わり」

と女の子が人差し指を立てた。交換条件か?俺は少し身構えた。

「わたしを連れてって」

なぜ?と言いたい俺に女の子は畳み掛けた。

「わたしも追われてるの」

「誰に?」

「……さあ?」

俺はその場で固まった。誰に追われているのかわからないのに追われているとはこれいかに。

「なんだかわからないけど、記憶がないの。丁度昨日から」

「うーん……」

どう反応すればいいのかわからず、俺はうめいてしまったのだった。

セーラという女の子は不思議そうな顔でこちらを見つめていた。この子がどんな人物であるのか、今の俺には知る由もなかった。

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