prologue
童話とは全く関係のない国に、不思議な王女様がいました。周りに利用されながら、彼女はどうやって生きたのか。
いつからあるのか。何故生まれたのか。所有者でそれを知るものは一人もいなかった。
貧しい貧しいある国に一人の王女様が生まれました。貧しいものの決して戦争を起こさない、平和の王として名高い両親に愛されて育ちました。そんな国王は国民からも愛されており、本当に平和そのものでした。
しかし、平和だけでは国はなりたちません。何かしらの特産物が必要になったのです。鉄は少しばかり取れましたが、大した足しにはなりません。
王女様はとても優しい少女に成長したました。しかしそれ故に無知でした。彼女には特別な能力がありました。手に触れた鉄を全て黄金に変えることができるのです。この力が周りに知られたら「化け物」と、罵られそうでとても言えませんでした。自らの能力に気づいてから食器も全て錫製の物を所望しました。両親は優しいのですが、彼らもまた賢くはありませんでした。王女の不思議な行動にも何の疑問も抱かず、二つ返事で許可しました。
しかし、彼女の能力は長くは隠せません。王女が城の階段を上っていたときのことです。のぼりなれた筈の階段で彼女はよろけ、とっさに手すりに捕まりました。
その瞬間
手すりが黄金に輝きました。
ーしまった・・・!
手すりが鉄製であるのにも関わらず、うっかり触ってしまったのです。一階から最上階まで突き抜けで美しく伸びる螺旋階段は黄金に染まりました。何事かと家臣や両親が駆けつけます。そのとき、その場にいた誰もが、王女が素晴らしい能力を持ってることに気づいてしまったのです。
さて。この国が平和だったのには二つ理由があります。一つは、国王自体が戦争という物を知らずに生きてきたから。もう一つは 貧しかったから。そもそも金がなければ戦争は起こせないのです。貧しいこの国は必然的に平和でした。しかし、この時から・・・。
今まで見たことがないほど立派な黄金を目にして国王の中で何かが変わりました。
「お前は素晴らしい。神から授かったこの能力を国の為に活かしておくれ」
すっかり非難されるものだと思っていた王女は驚きました。それと同時に、嬉しくなりました。
ーもっとお父様の気持ちに応えたい。
その日から、王女は能力を国の為に使うと誓いました。両親以外には秘密にするという約束で。
能力のおかげで金が面白いほど回りました。強い武器も山ほど買いました。以前から脅しをかけてきた南の国に、もう怯むことはありません。国民には徴兵制度がかせられました。こうして国は巨大王国へと成り代わったのです。
頭の悪い両親は国民の気持ちに気づいていません。豊かになることこそが、国民の幸せなのだ、とー。王女もまた、両親に喜んでもらえることが幸せなのだとー。
国民と近い政治。この国を象徴するキャッチコピー。いつしか独裁的な政治に変わりました。
国民はずっと不満を抱いていました。しかし、絶対的な王者には勝てない?いえ。そんなことはありません。徴兵制度のおかげで国民全体が軍隊と化していました。
「革命だ」
誰かが呟きました。
「俺達には力がある」
皮肉にも、国民は大量の武器を手に取りました。
「あの頃に、戻せ」
今更戻れないことは分かっていました。
「進め」
でも-
「殺せ!!!!!!!!!!!!!!!!」
国民は立ち上がりました。
「籠城も限界です。我々が囮となりますゆえ、こちらの秘密通路からお逃げください!」
王女とその両親。彼らの精神は限界でした。しかし、その極限状態の中で、まだ信じてくれる家臣が居ることに国王は気づいたのです。かつての平和の王に憧れ、永遠の忠誠を誓った者。いつかまた戻ってくれると信じた者。家臣の一人一人は国王の愚かさに気づいていました。しかし、ずっと待っててくれました。今更国王はそれに気づいたのです。遅すぎたのです。
-囮になります。
この一言にはどれ程の覚悟があるのでしょうか。
-私達は、大丈夫ですから・・・。
そう言って、くしゃっと笑う家臣達は今にも砕けそうでした。
「さぁ、行ってください!」
国王が何か言おうとする前に、背中を押され秘密通路に転がり込みました。家臣の顔を見上げますが、逆光で表情は見えません。
「来世では、また、お供させてください・・・」
「待っ・・・!」
無慈悲にも扉は閉まりました。無慈悲で最後の優しさでした。
真っ暗で寒い道を三人はあてもなく歩きました。彼らに必然的に強いられたことは野宿でした。
森の開けたところの切り株に腰を下ろします。
夜の森は恐ろしく冷たいものでした。彼らはたまらなくなり、火をおこすことにしました。
「お父様、お母様、私がまきを拾ってきます」
こんな時こそ、しっかりせねば。王女は勇気をもって一人で深い森に消えて行きました。
「ふうっ・・・」
籠いっぱいのまきを拾いました。慎重に歩いてきたので帰り道が分からなくなることはありません。一人で行動することは初めてでした。ましてや両親の元を離れることも。恐怖と戦いながら道をひたすら戻りました。もうすぐ、道が開けます。切り株に座る両親の背が見えました。
「お父様、お母様!ただいま戻りました。私、一人でできましたのよ!」
王女が父親の肩を揺すると、父親は何の抵抗もなく地面に崩れ落ちました。
「-お父様・・・?」
恐る恐る父親の顔を見ました。そこにあったのは青白く白目をむいた父の顔だったのです。
「しっ、死んで・・・!!!!!!!!!!!!!!!!」
パニックに陥りました。
「お母様!お母様!お父様がっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
まさか、と思いましたがそのまさかでした。母親も死んでいました。王女の精神は限界でした。ただ、一人で硬直することしかできません。
そのとき
「おい、さっき殺ったところから子供の声が聞こえるぞ!」
すぐ近くから声が聞こえました。徐々に近づいてくる恐怖。しかし王女は何も感じません。その瞬間から、生きることを諦めました。
-けど、やっぱり私はこの国が好き・・・。
死ぬ前にこの国に何かを残そうと思いました。その場所を目指して王女はひっそりと動きました。
[レヴァッシュ鉱山]
古ぼけた看板が鉱山の入口に立っています。王女は高い高い鉱山を見上げました。はっきり言えば、ここまで大きな物を黄金に変えられる自信はありませんでした。
-やってやろうじゃないの・・・。
鉱山の洞窟を進み、中心部まで来ました。ゆっくりと壁に両手をつけます。するとじわじわと鉱山が輝きだしました。
-最後に、この国に、私が残せるもの。
両手が火にあぶられてるかのように痛みます。
-この国に永遠の幸あれ。
意識は半分飛びかかっていました。でも、両手は決して離しません。この能力が使えるのはここで最後になる。直感でそう感じていました。
すると突然、両手が壁から弾かれました。
朦朧とする意識の中で洞窟を出ます。体力が尽き、入口で倒れ込みました。ゆっくりと見上げると黄金の鉱山がありました。
-これで、この国はこの先もきっと・・・。
安らかな安堵感のなかで、ゆっくりと意識を手放しました。
ジャラッ・・・
王女が目を覚ますと、そこは地下牢でした。監守は王女が目覚めたことに気がついたようです。
「お前は明日殺される。最後に言いたいことはあるか?」
「まってください!まさか、この鎖は鉄ですか!?」
せめて両親との約束だけは最後まで守らねば。王女は能力のことを必死で隠そうとします。暗いので鎖の色がよく見えません。
「いや、最近鉄もどうも高いからな。銅だ。・・・、お前まさか鉄だと何か都合が悪いことがあるのか?」
やっぱり王女は賢くないのです。かえって怪しまれました。
「いっ、いえ。そんなことは決して・・・」
「なぁ、最近こんな話が出回ってるんだが知ってるか?この辺りで吸血鬼が出るそうだ。実際死んでる奴も居る。そんなこんなで今この町には吸血鬼狩り令がだされてるんだ。吸血鬼の弱点は・・・
十字架と、鉄」
王女の背中が凍りつきました。
-誤解、されてる・・・。
「それがな、吸血鬼が鉄に触れると火傷するそうだ。俺は怪しい奴は鉄を使って調べろって上から言われてんだよ。・・・お前、この俺の剣に触れてみろ」
王女は戸惑いました。自分は吸血鬼ではない。それは自分自身がよくわかっています。しかしそれを証明するには目の前の剣に触れるしかないのです。でも、両親の命令を優先べきだと思いました。
「私は、吸血鬼じゃ、ありません。でも、鉄だけは・・・」
これをやっと振り絞るように言いました。
監守は何かを悟ったように黙り込み、そっとその場を去りました。一人になった牢屋は急に冷え込むようで、王女は静かに啜り泣きました。
朝になりました。引きづられるようにして町の広場に連れてこられ、棒に体をくくりつけられました。
-もう、何も見たくない・・・。
王女は始終俯いていようと思いました。どうせ、ここで殺されるのですから。
「こいつはあの悪魔の娘だ!!!!!!!!!!!!!!!!そればかりでなく吸血鬼である!!!!!!!!!!!!!!!!」
-え。
「悪魔の娘であるばかりか、吸血鬼!!!!!!!!!!!!!!!!こいつは存在が罪だ!!!!!!!!!!!!!!!!」
-違う。なんでこんな不名誉な死に方をしなきゃいけないの。
「さっさと殺せー!!!!!!!!!!!」
-こんな不名誉な死に方はプライドが許さない。
「死ね!!!!!!!!!!」
-約束?もうどうだっていいわ、そんなもの。
「アッハハハハハハハハ!!!!!!!!」
一瞬、場が凍りつきました。これから殺さされる王女が高らかに笑っているのですから。
目の前にいるニンゲンに対する怒りで王女の人格は歪みました。
「お前ら、誰に口を利いてると思ってんの?誰のおかげでこの国が栄えたの?」
「戦争をおこす豊かさなんて俺達は望んでいない!」
王女は鼻で笑いました。
「愚かだ。まぁ、いいだろう。殺せ。その前に私が吸血鬼でないことを証明してやろう」
人間とは思えない黒い笑みに人々はゾッとしました。
「そして、予言をしよう。私を今ここで殺しても死なない。いつまでも生きつづけ、お前らが死ぬまで同じ恐怖を味あわせてやる!!!!!!!!!!!!!!!!貴様らの子孫代々まで永遠にだ!!!!!!!!!!!!!!!!どうだ?最高のプレゼントだろう?」
一通りまくし立てると王女はおもむろに傍にあった砲弾に手を伸ばしました。
そして、静かに触れました。
いつもなら黄金に輝く鉄。しかし、そのとき輝いた色は・・・・・・。
1話が長くてごめんなさい。おそらく次で完結です。






