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腹黒宮さんの恋

作者: 東井なつき

「わたし思うんですけど、修太くんってロリコンなんじゃないでしょうか?」

「進路指導室でというから何かと思えば……」

「ここは人が全然来ないですから」

「まあ、教え子が犯罪者になるのは望むところではないな。詳しく聞こう」

「それが、修太くん。わたしがいくら誘惑しても全然落ちないんですよ」

「むしろ黒宮、私は君の方が心配になったよ」

「わたしのことは気にしないでください。わたし発情期なんで」

「もしかして思春期と言いたいのか ? まあ、それでも意味不明だが」

「えっ……あ、そうです。まあ、日々修太くんを誘惑してるんで、あながち間違ってないですけどね」

「やはり、古賀沼より先に君をどうにかした方が賢明な気がするよ」

「ですから、先生。わたしよりも修太くんのことを考えてください。ロリコンですよ、ロリコン。犯罪者予備軍との呼び声も高いあのコンプレックスですよ」

「まさかとは思うが、君の誘惑に惑わされないだけで、彼をロリコンかもしれないと疑っているわけではあるまいな」

「それだけで十分だと思うんですけど?」

「不十分だよ」

「どうしてですか、先生? 学校一の美少女が誘惑してるんですよ。十分じゃないですか」

「自分で言うな。確かに君の容姿が可愛いというのは残念ながら認めざるをえないが、たまたま彼のタイプではないのかもしれないだろ?」

「お言葉ですが先生。思春期の男子なら、少々タイプでなかろうが、抱けるなら抱くでしょう? ブスじゃなければ」

「君はアレか。男子を野生の猿か何かと勘違いしているのか」

「何言ってるんですか、先生。男はみんな狼なんですよ」

「あー、はいはい」

「なんでちょっと面倒臭そうな顔してるんですか?」

「面倒臭いからだよ」

「お願いします、先生。見捨てないで。猫被らずに話せるのは先生だけなんです」

「随分寂しい学校一の美少女だな」

「友達は100人。でも親友は0ですから」

「君の残念さが彼にバレてる可能性は?」

「大丈夫です。伊達に学校一の美少女の看板を背負っていませんよ」

「これまでの会話を誰かに聞かれていたら、君のここでの生活終わりそうだな」

「はい、たぶん。なので、くれぐれも御内密に」

「ああ。で、君は具体的に彼をどう誘惑したんだ?」

「えっとですね〜」


学校一の美少女、黒宮波音くろみやはねの誘惑。


もじもじ、もじもじ。

「あのー、古賀沼くん。ちょっといい」

きゃっ。今日も修太くんに話し掛けちゃった、わたしって、だ・い・た・ん♡

「黒宮さん。どうしたの?」

修太くんがわたしを見た。ヤバイよ。なんか火照ってきちゃう。

「実は先生に、次の授業の準備を頼まれたんだけど、人手が欲しくて」

あなたの熱いのも欲しくて。

「そうなんだ。俺でよければ、手伝うよ」

「ホント。ありがとう」

じゃあ今度、お礼にわたしがあなたのエクササイズ手伝うね。


で、大量のプリントを運ぶ2人。

端から見れば、最早カップル。

「ごめんね、古賀沼くん。休み時間に手伝ってもらっちゃって」

「いいよ、別に。黒宮さん……クラス委員長だけに働かせるわけにはいかないからね」

美貌と人気と性格の良さで勝手に委員長にされたけど、使える。委員長ポジ使える!

「ありがとう、古賀沼くん。古賀沼くんって、優しいんだね」

見よ、この完璧な上目遣い。

からの躓いたフリして、修太くんに寄り掛かる。

「大丈夫? 黒宮さん」

「うん。ありがとう」

ここで数多あるわたしの武器の中の最強の一角が火を吹くぜ。

ブラウスの第一ボタン外しーの、形の良い巨乳を修太くんの胸に押し付ける。

これで修太くんはわたしに夢中。I want you.I need you.


「って、なるはずだったのに、修太くん、一切照れることなく、超紳士的な態度でやり過ごしたのよ。わたしのおっぱいも一度たりとも見なかったし、これはどう考えても、ロリコンでしょ!」

「その議論に入る前に、一発殴っていいか?」

「えっ、なんでです?」

「そうすることで、もしかしたら黒宮の人間性がわずかでも更生するかもしれないからだ」

「古いテレビじゃないんだから、叩いたくらいじゃ直り……変わりませんよ。ですから、拳を握りしめないでください」

「まったく、古賀沼もとんでもないやつに惚れられたもんだ」

「とんでもない美少女ですね」

「とんでもない変人だ」

「……で、先生。修太くんは、ロリコンだと思われますか?」

「ん〜、分からん」

「えー、それはないですよ、先生」

「と言われてもな。今のだけだと、古賀沼が貧乳好きというだけの可能性もあるからな。まあ、他にも熟女好きの可能性もあるな」

「そんなバカな。なぜわざわざ賞味期限切れのモノを好む道理が……怖いもの見たさ? それとも大人の色香という名の加齢臭一歩手前の……腐りかけが美味しい的な?」

「酷い言いようだな」

「若さは最大の武器ですから」

「じゃあ、幼女は最強だな」

「修太くん。それは犯罪だよ。どうして酸っぱいだけの果実に手を伸ばすの?」

「もういっそ本人に聞いたらどうだ?」

「『ねえ、古賀沼くん。古賀沼くんってロリコンなの?』って、聞けるかー!」

「『ロリコンじゃないよ。ただ女の子に興味がないだけ』とかな」

「まさかそっち系! わたしグレるよ! 素のわたし全開にして残りの学校生活過ごすよ!」

「まあ、落ち着け黒宮。まだそうと決まったわけではない」

「絶対そうじゃないから! わたしの夢の中では、修太くん、最期までしてくれたから!」

「知らんよ、君の夢など」

「2人一緒のお墓に入るところまで、わたしだけを愛してくれてたから」

「最後じゃなくて、最期だったのか。黒宮恐るべしだな」

「先生、お願いがあります!」

「な、なんだ?」

「わたしが修太くんを真の男にするので、明日の放課後、保健室を貸してください。養護教諭の特権で。あと見張り役もお願いします」

「保健室はホテルじゃないぞ」

「そこを何とか、1人の美少女の恋路と1人の男子の性癖の行方がかかってるんです!」

「進路指導室は進路の行方を相談する場所だ。性癖の行方を相談したのは後にも先にも君くらいなものだろうな」

「つまり、引き受けてくれると」

「違う。もう少し高校生らしい清い付き合いをだな」

「プラトニックな恋愛でロリコンが治ると思いますか?」

「それは黒宮、君次第だろう」

「え……」

「君が本当に魅力的な女なら、古賀沼も君に惚れて、たとえそれまでロリコンだったとしても熟女好きだったとしても、はたまたゲイだったとしても治るさ」

「わたしの魅力は万能薬?」

「恋は人を変えるからな」

「つまり、わたしはこれまで以上に修太くんにアピールしまくればいいんですね」

「まあ、そうなるな」

「分かりました。やっぱりわたしの方針は間違っていなかったんですね。さすが学校一の美少女、わたし」

「話は終わりだな。じゃあ、そろそろわたしは行くぞ」

「はい、ありがとうございました。さすが学校一の美人教諭。頼りになります」

「じゃあ、今度駅前のケーキ屋の苺ショート奢れよ」

「え、あの高級なやつですか?」

「そう、それ」

「原則バイト禁止の学校に通う生徒に、それはちょっと……」

「安心しろ。2つくらいで勘弁してやる」

「え、1つじゃないんですか?」

「誰が1つと言った?」

「先生、鬼です」

「学校一の美人教諭を捕まえて何を言う」

「数の少ない教師の中で一番って言っても……」

「おい、何か言ったか、腹黒宮」

「ちょ、その呼び方は、やめてって言いましたよね?」

「はて、何のことやら」

「うっ、四捨五入したら30歳のくせに」

「はあ、私はまだ25だ! 四捨五入なんてするな」

「すみませんね、わたしの脳若いので、計算とか得意でついついしちゃうんで」

「私の脳年齢がいつ君に劣ったというのかな、腹黒宮さん? 脳年齢はピチピチの20歳だぞ」

「脳年齢は、ですか」

「何が言いたいのかな、腹黒宮」

「先生こそ、他校にさえファンクラブがある超絶美少女に変なあだ名付けないでもらえます?」

睨み合う黒宮波音と養護教諭。

あとはさらなる口喧嘩が始まり、そしていつものように仲直り。

波音は自覚ないが、こんな2人を親友と呼ばずに何と言う。







放課後の進路指導室の前は人通りがほとんどない。

全くない……ではなく、ほとんどない。

つまり、通りかかる人はゼロではないこともある。


「君が本当に魅力的な女なら、古賀沼も君に惚れて、たとえそれまでロリコンだったとしても熟女好きだったとしても、はたまたゲイだったとしても治るさ」


「まったく、黒宮さんも先生も酷いなぁ」

最終的にロリコンに熟女好きにゲイときた。

さすがにそんな人間いないだろう。

進路指導室の近くの柱にもたれ掛かっていた古賀沼修太は、思わず苦笑していた。

いくらドアを閉め、窓を閉めたところで、大きな声で話せば、廊下にまで漏れてくる。

幸い、耳をそばだてないと聞こえないくらいのボリュームのためーー


「あれ、古賀沼くん。こんなところでどうしたの?」

見知った女生徒がこちらに歩いてきた。

「掃除時間にバケツをひっくり返しちゃってね。きちんと拭き取ったけど、廊下が湿って滑りやすくなってるんだ。だから誰も通らないように見張ってるってわけ。自業自得とはいえ参ったよ」

修太は薄暗い廊下の状況を説明した。

「そうなんだ。自業自得とはいえ、偉いじゃん」

「ありがとう。軽くディスってくれるあたり、今の俺にぴったりだよ」

「どういたしまして。あれ、何か今話し声がしたような」

「気のせいじゃないかな。あ、もしかして俺と2人きりだと不安?」

「そんなことないよ、古賀沼くん、優しいから」

「ありがとう。なら優しい古賀沼くんからのお願い。もうすぐ暗くなるし、早く帰ったほうがいいよ。俺は学校が閉まるまでここで見張っとく予定だから、送ってあげられないけど」

「全然お願いじゃないじゃん。まあ、そのお願い素直に聞いてあげるけど。じゃあ、また明日」

「ああ、また明日」


女生徒が去ると、修太は小さく溜息をつく。

「まったく、仲が良いのはいいけど、もう少し小声で喋ってほしいな。みんなの憧れる学校一の美少女が腹黒宮さんだなんて知られたくないだろうに」

と、進路指導室の中では、どうやら2人が仲直りしたようだった。

もうじき2人が部屋から出てくるだろう。

修太は、そっとその場を後にした。

バケツなんてひっくり返していないカラッカラの廊下を。

「早く俺も素の黒宮さんと話してみたいよ」

完璧過ぎて、むしろ魅力を感じなかった。

だが、偶然黒宮波音の本当の姿を知った修太は、波音に興味を持った。

自分と同じで猫を被っている。

誰からも好かれる学校一の美少女と、誰にでも優しくいつも紳士的な少年。

それは、恋に盲目な行き過ぎ腹黒少女とーー


「早く俺も素の黒宮さんと話してみたいよ」

ーーヤバイ、早くあの腹黒宮モードで罵られたい。


ただのドM少年だったりする。





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