表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ERASE〜夢に眠る夢〜  作者: 奏愛
episode 3
8/14

童謡

どこかで聴いた事のある旋律(メロディー)


気付くとラディの周りには何もなかった。

血溜まりに片足を突っ込む。

右手の剣は、既に背中の鞘に収める気力もない。


「この唄は…」


人の形をしたモノ(・・)には目もくれず、ただひたすら音の鳴る方へと歩いた。

彼女の身体はボロボロだった。

至るところにある切り傷や刺し傷、見るも無惨な姿だ。

自分の血なのか他人の血なのか分からなくなるくらい、両手は血で汚れていた。


童謡(マザーグース)…?」


子供の頃に聴いたそれとは違ったが、でも確かにそれは童謡(マザーグース)だった。



『巡る巡る旅をしてもーー

魂を洗ってもーー

仮面を剥いでもーー


人はただ…』


「…灰になるだけ」


無意識の内に声に出していた。

知らないはずなのに。


「ねぇ」


急に呼ばれたラディは、足を止めた。

ふいに顔を上げると、いつからそこにいたのだろう。

この場には不釣り合いな女性が立っていた。

目鼻立ちがはっきりとした金髪碧眼の女性。

こんな戦場跡だというのに、血痕の一つすら付いていない。


「何者ですか」


静かに、でもハッキリと。

右手にぶら下がっていた長剣(ロングソード)を、一瞬の内に構え直す。

と、同時に相手を睨みつける。

その鋭い眼は、狙った獲物を狩る眼だ。


「ちょ、ちょっと待ってよ。別に貴女と戦う気はないわ。それに…」


慌てて彼女は弁解する。


「私は素手よ?貴女のような武器はないわ」


そう言ってひょい、と肩をすくめる。


「お姉さんの身体から、魔力を感じますけど?」

「あら?バレちゃった?鋭いのねぇ、貴女」


少女の言葉に彼女は素直に認めた。


「でも戦う気がないのはホントよ。だからその剣を収めてちょーだい」

「……」


いまいち腑に落ちなかったが、確かに殺気らしいものは微塵も感じられなかったので、ラディは言う通りにした。


「ありがとう。これでようやく本題に入れるわ」

「何が目的ですか?」

「そっくりそのまま貴女返すわ。こんな血の海と化した場所で、貴女一人何してたのよ?」

「それは…」


約束を果たす為。

あの人との約束。

たとえ一人になっても、身体がボロボロになっても、あの約束を果たすまでは終われなかった。


「お願いを、されたから…」

「お願い?」


彼女は眉をひそめる。


「何よ、お願いって?それはまだ果たせないわけ?」

「まだです…おそらくこの世界では、果たせるかどうかすらも怪しいです…」

「ふーん…」


まるで他人事のように相槌を打つ。

興味があるのはそこではなかったからだ。


「ねぇ」


最初の時と同じように呼ばれる。


「なんですか」

「貴女、もしかして堕天使なんじゃない?」

「⁉︎⁉︎⁉︎」


その言葉に声を失った。

明らかな動揺が走る。


「やっぱりねぇ。普通の人間でそんな怪我してたら、とっくに逝ってるわ」


彼女が言う。


「あの童謡(マザーグース)は、堕天使に向けた天界からの皮肉よ。それを貴女は口ずさんだ」

「……」

「多分堕ちてる途中で耳にしたのね。人間としての記憶が強いみたいだけど、れっきとした堕天使ね」

「…何が言いたいんです?」


ラディの口調は穏やかではなかった。


「まぁだからって何も取って食おうって意味じゃないわ。お互いの利害一致を確認したかったのよ」

「それってどういう…」

「貴女、私と転生する気ない?」

「なっ…⁉︎」


何を言っているのか意味が分からなかった。

転生?

それでは目的が、約束が果たせない。


「私にね、いい提案があるの。聞いてみない?」


ラディの苦渋を知ったか否か、彼女は意地悪そうに微笑んだ。

しばらく考え込んでいたラディだったが、ようやく踏ん切りが付いたのか、重い腰を上げた。


「その話、聞かせて下さい」


まっすぐと見つめるその瞳には、もう迷いはなかった。

約束が果たせない世界に意味はない。

あの人との約束が果たせるなら…


「お姉さん、名前は?」

「ああ、私?私はーー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ