再開
それは突然だった。
彼がこの病室を出てから、ものの5分と経たないうちに、ものすごい爆音が響いてきたのだ。
何事かと驚いたが、あいにくベットからは出れず、外の様子を見に行くことすら叶わなかった。
「…何があったんだろう?」
彼女はそう呟くと、病室のドアを見つめる。
先程の爆音以来、何やらバタバタと足音が聞こえたが、それ以降は全くの音沙汰なし。
誰かが様子を見に病室にやってくることもなく、ただひたすら一人で待つ。
時折人の声がうっすらと聞こえることはあっても、やはり病室に入ってくる気配はなかった。
「わ、私…病人なんだよね…?」
若干の不安を覚えるも、それは愚問というものであった。
少なくとも落ちてるのだ。高い所から。
それはそれは大怪我に違いない。
加えて、一年もの間の意識不明。
「…そう、全治3ヶ月の重体…」
「3ヶ月で治ればいいけどね」
「…⁉︎」
ぼそっと呟いた言葉を聞かれてたのか、思いもよらず返ってきた声に驚いた。
慌ててそちらに目をやるとカイト医師が扉に寄り掛かって立っていた。
「遅くなってすまなかった。すぐ戻るはずだったんだが、ちょっとしたハプニングがあってね」
「き、聞いてたんですか…⁉︎」
「病室に入ったら何やら独り言を言っていたみたいだったから」
そう言って彼はひょい、と肩を竦める。
「か、勝手に聞かないで下さいっ…」
「偶然聞こえただけだよ」
ほんの少し笑みを浮かべながら、先程と同じように腰掛ける。
「それより…」
雰囲気が変わった。
「君の髪、金髪なんだな?」
「え…?」
真剣な、というのが正しいのか。
今まで見せていた笑みは消え、鋭い目つきになっている。
「この大陸に金髪はいないに等しい。いるとしたらそれは……」
言いながら彼女の髪を撫でーー
ーーぐいっ。
おもむろに掴みあげた。
「いっ…つ…⁉︎」
「異端者って言うんだよ」
「……っ⁉︎」
声にならなかった。
痛みと動揺。そして…
「なぁ?そうだろ? ……マリアぁぁっ!!」
叫ぶと同時に、掴んでいた髪ごと彼女をベッドの上へと放った。
ーー恐怖。
雰囲気も顔も声も。
何もかもがさっきまでとは別人に思えた。
「だ、誰…? マリアって…」
「お前の事だよマリア!!! まさかこんな所で再会するとはなぁ。思ってもみなかったぜ!」
何が可笑しいのか。
片手で目を覆い、高らかに笑った。
「これぞ神の祝福ってやつだ!」
「ま、待って…」
声が、身体が震えていた。
聞き覚えのない名前に、彼女は言う。
「さ、再会って何の事ですか…? わ、私はここには…」
「ああ、そうだったな。お前は記憶がないんだもんな」
「あ、あの…」
「だがなぁ、俺には分かるんだよっ!その瞳!その髪!そしてその顔は見間違うはずがねぇ。確かにマリアだ」
明らかに人が変わった彼に対し、ただ怯えるしかなかった。
そんな彼女にカイトは顔を近づけ、そして耳元で囁いた。
「She prayed God to bless me.」
「…っ」
息が耳に掛かる。
囁いた声が耳に響く。
ーー神の祝福あれ、と彼女が言った。
鼓動が早まる。息が荒くなる。
理解が追いつかない。
自分の置かれてる状況も、自分の正体も。
「あの時は裏切られたよ。まさかと思ったぜ」
カイトは続ける。
「だからあんな強引なやり方でしか終われないと思ったんだ。二度と手にしないと誓った。たがああするしかなかった!」
段々と声を荒げてくる。
目を逸らしたくても逸らせなかった。
「約束したんだ、マリアと…なのに…突然過ぎんだろぉ…」
「や、くそく…?」
ーーズキン。
「だからああするしか道はなかったんだ!お前の元に逝くには、ああするしか…!」
どんっ、と壁を叩いた。
その振動がビリビリと伝わる。
「お前が下界に行くなんて言わなければ、ずっと一緒にいられたんだっ!!」
「げ、かい…?」
ーーズキンッ。
激痛が走る。
思わずこめかみを押さえた。
(何かが、何かが私の頭の中に…ッ)
『貴女、私と転生する気ない?』
「え…?」
それは、確かに聞き覚えのある声だった。
ーーズキンッ。
『私にね、いい提案があるの。聞いてみない?』
『その話、聞かせて下さい』
(これは…私⁉︎)
『お姉さん、名前は?』
『ああ、私?私はーー』




