3単語小説 父×コタツ×柿
少しずつ寒くなってくるこの季節、私は絶望感を抱いて箱一杯にある柿を眺めた。父と二人となってしまった我が家で食べるにはあまりに多い。もし蜜柑ならコタツに入ってパクパクと一日に何個でも食べられたけれど、柿はわざわざ台所で切らなければならないのが面倒で。誘惑たっぷりなコタツから出るなんて…ましてや一手間掛かるものなどあまり考えたくない。
「菜穂子、柿沢山あるだろう。剥いてきなさい」
そう、この父の一言がなければ台所に立つことはなかっただろう。でも、今日は大切な人とのこれからについて話さなければならない手前、何も言わずコタツから立ち上がるしかなかった。
「はぁ、ストレスで胃がキリキリする…」
言うタイミングを後伸ばしにするほどドンドン胃が痛くなる。これから初めて自分の意思で選んだ人と一緒の人生を歩みたいのだと伝えるのにあの私にとってはかなり怖い父に言わなければならないと想像するだけでも、凄いエネルギーを取られて行っている気がする…。好きだからこそ、大事だからこそ、伝えるときの言葉を何度も重ねて父に伝わるようにしなければならない。
上手く伝わりますように。
そう願ってガラスのお皿に柿を並べ、父の居るコタツへと足を向けた。
文字を書く練習~