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きらい、より

掲載日:2015/02/15

なんだか思っていたものと違う展開に(笑)鈍感な子が主人公です。

 2つにわかれた道の前で、私と一樹は足を止めた。

「じゃあ、また明日な。あきら、気を付けて帰れよ」

「うん。ありがとう。一樹も気を付けてね。バイバイ」

 そう言って手を振ると、一樹は背を向け、去っていく。私は、寒空の下、遠くなる背中を見送りながら、声に出して呟いた。

「きらい」

 普通に声を出したはずなのに、自分でも聞こえないくらい小さな声だった。それでも私は、言葉を続けた。

「きらい。…きらい。…一樹なんて、きらい」

 きらいという言葉で本当にきらいになれたら楽なのに。けれど現実はそんなに甘くはなくて、私の視線はただまっすぐに一樹の背中を見つめるのだ。北風に吹かれながら、振り返らない背中を見えなくなるまでずっと。 きらいだと暗示のように繰り返した。けれど愛おしくて、だから泣きそうになる。一樹はそんな私の気持ちなんて望んではいないのに。

 だって、私たちはともだちだ。高校に入って初めて知り合った。それなのに、1年ちょっとで「親友」と呼べる仲になっている。テスト前には一緒に勉強をして、一緒に下校して、ゲーセンで遊んで、カラオケ行って。バスケの試合が近くであるときは、私はできる限り一樹の応援に行った。一樹だってバレーの試合があれば、応援に来てくれる。

 それでも私たちは「ともだち」だ。周りがどんなに噂しても、どんなに誤解されても。だって、私は一樹の好きな人を知っている。優しくて、可愛くて、素直な私とは正反対の人。

 私が一樹を見るその目に、「ともだち」以上の熱があることを知りながら、それでも、一樹は私の前でその人の話をする。「好き」という気持ちを伝えることすら許してはくれないのだ。


 美菜先輩のトスにタイミングを合わせ、アタックを打つ。ボールが床に落ちる気持ちのいい音がした。長くなった黒髪を耳にかけ、先輩がふと、外を見る。私もつられて外に目をやった。時計は6時が少し回ったところを指している。夏ならまだ明るい時間だが、生憎外は震えるほど寒い。今日は顧問の先生がお休みのため、代理の先輩が帰宅時間を決める。

「もう暗いし、今日はここまでにしようか」

「ありがとうございました!!」

 息を切らしながらみんなで声を合わせた。先輩は笑みを浮かべ頷いた。その笑みは可愛くて、思わず私まで笑みを浮かべてしまう。受験に合格し、こうして後輩の部活に付き合ってくれる先輩はみんなの憧れだった。

「先輩、明日も来てくれますよね?」

 モップをかけながら、私は隣で同じようにモップがけを手伝ってくれている先輩に聞く。先輩は少し困ったように笑い、「ごめんね」と言った。

「明日は、来れないんだ」

「え?…でも、先輩、もう受験終わったじゃないですか?」

「…あきら、もしかして、私には受験か部活しかないと思ってる?」

「いや、…その…」

「あきら、だめだよ。先輩、明日はデートなんだから」

 チームメイトにそう言われ、私は思わず目を大きくして、先輩を見た。そんな表情に先輩はくすくすと笑いだす。

「え?先輩って、付き合っている人いました?」

「実は、この前告られちゃいました!そんでもって、オーケーしました」

 急に始まった恋バナに2年は全員先輩の周りに集まり、1年は手を動かしながら聞き耳を立てた。

「え?ほ、本当ですか?」」

「あきら、動揺しすぎじゃない?こんなに盛大に嘘はつかないでしょう?」

「すみません。驚いたもので」

 そんな私の反応に周りのチームメイトも笑いだす。けれど、私はそれどころではなかった。

「やっと受験が終わってゆっくりできるんだから、たまには会いに行かせてよね」

 嬉しそうに笑う先輩は可愛くって、ふわふわしていた。同じように部活をやっていた筈なのに、筋肉質で男勝りな私とは大きく違う。

「…先輩、えっと…誰か聞いてもいいですか?」

「彼氏?…他校の人だから聞いてもわかんないと思うよ」

 頬を少しだけ赤く染め、照れたように先輩は言った。そんな先輩に「写メ見せてください!」と一人のチームメイトが言うと、号令をかけたみたいに「見たい」と声がそろった。そんな後輩たちの様子に照れたように先輩は笑う。

「また今度ね」

 先輩の言葉に周りから不満の声が出る。先輩はそれを軽くあしらいながらモップがけを再開した。私は思わず視線を隣のコートに飛ばした。隣ではバスケ部が同じように片付けを始めていた。一樹は今の会話が聞こえていないのか、黙々とボールを片付けている。

 どんな表情を作ればいいのかわからなかった。先輩が幸せそうに笑うのは嬉しい。けれど考えてしまうのは一樹の事だった。一樹はどうするのだろう。ずっと見ていた先輩に彼氏ができたと知ったら。

「そういえば、あきらも彼氏いるんだったよね?えっと、たしかバスケ部の…」

 そう言ってバスケ部の方を先輩が楽しそうに見る。そんな風に笑わないでほしかった。一樹はあなたのことが好きなんですよ、と言ってしまいたい。それでもできないから私は精一杯いつもどおりの笑顔を浮かべた。

「違いますよ。ともだちです」

「え―?でも、試合だって見に来てたよね?」

「ともだちだって見に来てくれますよ。それに、もしかしたら、先輩を見に来てたのかもしれないですよ。先輩、綺麗ですからねっ」

 冗談めかしにそう言った。けれど、作り笑いには慣れているはずなのに、言って苦しくなった。

「本当?それなら嬉しいのにな~」

 同じように冗談のように言う先輩の言葉に、私は泣き出しそうになった。あはは、と周りの空気に合わせて笑いを作る。

「でも先輩、あきらって一樹くんと一緒に帰ってるんですよ」

「だから、帰る方向がたまたま一緒で、バレー部とバスケ部の解散時間も同じくらいだから帰ってるだけなんだって」

「それって怪しくない?」

「ですよね。先輩もそう思います?」

「思う思う。もう付き合っちゃえばいいのに」

「だから、違うって言ってるじゃないですか!」

 思わず声を荒げていた。周りのみんなが一時停止のように動きを止める。体育館で部活をしていた他の部の人たちも何事かとこちらに目を向けた。思わず顔を上げる。一樹と目が合い、慌てて逸らした。胸が切なくなって、泣きそうになる。

 先輩が困ったように私を見ていた。周りのみんなに視線をやり、おろおろしている。

 先輩は何も悪くはなかった。だって、先輩は何も知らない。一樹の気持ちも、私の気持ちも。一樹の名前ですら知らないのだ。怒るなんてお門違いもいいところだ。けれど、耐えられなかった。だって、一樹はいつも先輩を見ていた。部活をしている時、視線を感じるとその先には一樹がいた。そして、その時、いつも隣には先輩がいたのだ。先輩は女の私から見ても可愛い人だった。まとめた黒髪が、動くたびに揺れた。それが綺麗だと一樹は言ったのだ。すらっとした体系に、小さい顔。一樹が以前言っていた好みのタイプを体現したような人だった。

 部活中に一樹と目が合って、喜んで、けれどすぐに失望に変わる。そんなことを何度繰り返しただろう。一樹の目は、雄弁だった。鈍感だと言われる私でもわかるほど、熱のこもったそれは、見ていて苦しくなるほどだった。

 だから、悔しかったのだ。だって、「付き合っちゃえ」なんて、先輩が言っていい言葉ではない。大好きな先輩なのに。部活を引退しても、後輩の面倒を見てくれる優しい先輩なのに。それでもなんだか悔しかった。そう思うことすらお門違いなことはわかっているのに。

「あ、…あきら。ごめんね。…気に障った?」

 気を遣うような声色に私は慌てて首を横に振った。

「すみません。大きな声出して。…違うのに、毎日のように言われるから、ちょっとイラついちゃって」

「そうなんだ。あきら、ごめんね。しつこく言って」

 泣きそうになっているチームメイトの頭をぽんぽんと叩く。そして首を横に振った。

「ううん。空気悪くしてごめん」

「…ほら、みんな。早く片付けて帰ろう!…ほら、手を動かして」

 先輩が明るい声でそう言った。その声に思い出したようにみんな動きを再開する。私はもう一度頭を下げた。

「先輩、すみません」

「ううん。私の方こそ、ごめんね」

「いえ、先輩は悪くありません」

 そう言いきった。私の言葉に先輩は「ありがとう」と笑みを浮かべた。

「よし、早くモップかけちゃおう。早く帰んないとどんどん暗くなるよ」

 もう忘れたとばかりにいつもの表情に戻っている先輩を見てやっぱり優しいなと私は思った。


 ぴゅーと風が吹く。その音を聞くだけで、一度気温が下がった気がした。私は隣で黙々と足を進める一樹をちらりと見た。

「…今日、どうしたの?」

「え?」

「なんか、叫んでただろう?」

「…聞こえた?」

「あんだけ大きい声なら聞こえるだろ」

 一樹は会話をするときにはいつも顔を見て話す。けれど、今はただ前を見ていた。だから、一樹の表情が読み取れなかった。声のトーンからどことなく怒っているような気もするが、よくわからない。

「ど、どこまで聞こえた?」

「…全部」

「……先輩の…話も?」

「は?」

「だから、…先輩の話も…聞こえた?」

「そんなに広くもない体育館で話してれば、普通耳に入るだろ。個人的なことだったから、みんな聞こえない振りしてたけどな」

「……ごめん」

「……は?」

「私が余計なこと言ったから。だから、あんな形で知ることになって、ごめん」

「…ちょっと、待て。なんか微妙にかみ合ってない気がするんだけど、あきら、何の話してる?」

「…先輩のこと」

「先輩?」

「美菜先輩のこと。……聞こえたんでしょう?」

「彼氏ができたって?」

 一樹の言葉に私は頷いた。反応が怖くて、私は思わず立ち止まり、目を瞑る。

 一樹のため息が聞こえた。怯えたように肩が上がったのは仕方がないと思う。

「なんでそんな鈍感なわけ?」

「…ごめんなさい」

「違うって!」

 声を大きくした一樹に私の肩は再びびくりと上がった。思わず一歩後ろに下がる。けれど、一樹はそれについてくるように一歩前に出た。

「俺、美菜先輩のこと好きだって言ったことあった?」

 一樹の問いに私は首を横に振った。

「でも、一樹のタイプでしょう?」

「ま、確かにね」

「…」

「でも、タイプってだけで好きにならないだろう?」

「……目が合ったの」

「え?」

「部活中、一樹と目が合ったの。そのとき、いつも隣とか、私の後ろに先輩がいた。…一樹が先輩を見てること、わかったの。好きだって言ってるような目で見てたでしょう?…わかるよ、そんなの」

「……」

「だから、こんな風に、……先輩に彼氏ができたこと、伝えちゃってごめんなさい」

 私は精一杯の思いを込めて頭を下げた。そんな私に一樹はため息をつく。

「…俺が先輩のこと好きだから、俺とのことをあんな風に否定したわけ?」

「うん」

「じゃあ、別にあきらは俺とのこと誤解されるのが嫌だったわけじゃないんだな?」

 確認するように問われる言葉に胸が痛くなった。頷きながら出てきそうになる涙を必死で堪える。

「…そっか。じゃあ、いいよ」

 一人だけ納得したような表情を浮かべ、一樹はまた歩き出した。その姿がひどく腹立たしかった。私の気持ちを知っているくせに、それでも先輩が好きなくせに。

 私は、ユニホームの入った袋を一樹の背中に投げつけた。一樹が驚いたように振り返る。

「じゃあ、いいって何?…なんでそんなこと聞くの?……私の気持ち、知ってるくせに」

「…あきら?」

 気持ちは伝えないと決めた。決めたけれども、苦しい。苦しくて、苦しくて、自分の中だけでは抑えきれなかった。明日から一緒に帰れないとしても、もう話ができなくなってても、それでも、自分の口から言いたかった。

「私は、一樹が好きだよ。一樹が美菜先輩を好きでも、それでも、目が合うとどきっとした。それが私に向けた視線じゃなくても、嬉しかった。一緒に帰ってくれるのも、部活の応援してくれるのも嬉しかった。付き合ってるって噂されるのは、困ったけど、嬉しかった。でも、ともだちだよって弁解するたびに、苦しくなった。そう言うたびに、一樹が見ているのは先輩なんだって思い知らされた気がして…。でも、それでも、一樹が私を見てくれなくても、それでも、私は一樹が好きだよ。……だから、もう、惑わさないで」

 涙が頬を伝った。一樹の顔が見れなくて、下を向く。

 足音が聞こえた。一歩一歩一樹が近づいてくる。なんだか怖くなって私は目を閉じた。

「…え?」

 びっくりして声が出た。肩を掴まれたと思ったら、引き寄せられる。背中に一樹の腕が周り、ぎゅっと抱きしめられた。

「…お前、ばかなの?」

「…え?…え?」

「目が合ったならあきらを見てるって思わないわけ?なんでそこで先輩を見てるって思うかな?」

「…だって、いつも先輩が…」

「そりゃ隣とか後ろにいるだろう?狭いコートで練習してるんだから」

「…」

「確かに、先輩はタイプだし、かわいいとか綺麗だとか言ったかもしれないけど、…わかれよ、普通」

「…わかんないよ」

 本当にわからなかった。なぜ、今、一樹の腕の中に自分がいるのか。一樹が何を伝えたいのか。

 そんな私の様子がわかったのか、一樹は大きなため息をついた。

「だから、好きだって!」

「……」

「あ~、もう。こんな風に怒鳴って言うつもりなかったのに」

「……」

 一樹は回した腕に力を入れ、より強く私を抱きしめた。私の心臓はやっと事を理解したのか、そこではじめて鼓動を早くする。心臓の音が大きくて、うるさかった。

「俺が好きなのは、あきらなの」

「…え?」

「だから、あきらが好きなんだって。目が合った時、先輩じゃなくて、あきらを見てたの。ってか、普通に考えて、好きじゃなかったらこんなに毎日一緒に帰らないし」

「…」

「ともだちってお前が何度も言うから、…ともだちでいたいのかなって思ってずっと言えなかった。…あきらが俺の事好きだってわかってたらもっと早く言ってたよ。俺もあきらが好きだって」

 私は右手を上げ、自分の頬をつまんでみた。

「痛い」

「何してんの?」

「だって、夢かなって」

「え?」

「こんな夢何回も見たの。…一樹が『あきらが好きだよ』って言って、『私も』って答えると、次はいつも布団の中だった。だから、今回もそうかなって」

 一樹は小さく笑って私をぎゅっと抱きしめた。

「あきら、身体熱い」

「…え?」

「ドキドキしてるだろ?」

「うん」

「夢でもこんなにドキドキしてた?」

「…え?」

「こんなにドキドキしてて、俺がちゃんとお前に触れてんだ。夢なんかじゃないよ」

「…うん」

「俺は、あきらが好きだよ。…あきらは?」

 一樹は覗き込むように私を見た。その目がとても優しくて、なんだか照れくさくなる。部活中、視線を感じて振り向けば、一樹がいた。好きだという目をしていた。それが自分に向けられたものだと知ると、さらに鼓動が早くなる。顔が赤くなるのが自分でもわかった。恥ずかしくて、一樹から目を逸らしたい。けれど、私は、一樹の優しい目をしっかり見て言った。

「私も一樹が好き。大好き」

 私の言葉に一樹が笑うのがわかる。嬉しくなって、一樹の背中に腕を伸ばした。

「あきら」

「ん?」

「明日から、みんなに言えよ。俺が彼氏だって」

「…うん」

「ねぇ、目を瞑って?」

「え?」

「…ほら、早く」

 いくら鈍感だとはいえ、この状況で、目を瞑った先に何があるのかさすがにわかった。けれど楽しそうに、私を見つめる一樹がかわいく見えたので、ゆっくりと目を閉じる。

 唇に温かいものが触れた。それが嬉しくって、一樹が離れていくのが寂しかった。

 一樹がくすりと笑う。首を傾げると、一樹はまた笑った。

「もの欲しそうな顔」

「え?」

「もう一回する?」

「…うん」

 顔を赤くしながら、それでも素直に頷いた。


 きらいだと何度言っても、何度「ともだち」だと言い聞かせても、好きだという気持ちをなかったことにすることはできない。ならば嘘の「きらい」じゃなくて、本当の「好き」を言った方がずっといいに決まっている。優しく降ってくる小さなキスに私は目を閉じながらそう思った。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

正直、文章が他の作品より稚拙だったと自分でも思います。けれど、載せます(笑)

お時間頂いたのに、こんな話ですみませんでした!読んでいただき、本当にありがとうございました!!

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