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第八十七話 四日目 オフ会


 サクヤとようやく合流出来た俺は、苦笑を浮かべて隣に視線を落とす。


「申し訳ない……」


 しゅんとしてしまったサクヤが俯いていた。


「気にしなくていいぞ。もっとわかりやすい場所にすればよかったな。悪い」

「リハツは悪くないぞ。私が、ほ、方向音痴……なのだ。わかっていたから、昼前には家を出たのだが……」


 自覚はあったんだな。そう考えると新宿駅まで来れたのだから十分ではないだろうか。


 それにスムーズに会えていたら、今みたいに話せていなかったと思う。俺としては功を奏したと言える。


 ただ、サクヤは自責の念に駆られているみたいだが。


 しかし今日のサクヤの服装は予想外だった。和服はないと思っていたが、まさか……可愛い系のゆるふわファッションとは。色合いも淡い感じで、綺麗系のサクヤのイメージと合致しないはずなのに似合っていた。ポシェットがまた愛らしい。


 あんまり見つめると怪訝に思われるかもしれないので、俺は視線を逸らし気にしていない風を装いながら口を開いた。


「とにかく、過ぎたことはしょうがないし。これからどうするか考えよう」

「うん。そう、だな」


 とは言ったものの何も考えていないけどな!


 しかし、こういう場合はどうすればいいか事前に調査は済んでいる。


「とりあえずカフェにでも行くか?」


 そう、困ったらカフェ。迷ったらカフェ。時間が空いたらカフェ。ああ、素晴らしきカフェ。むしろそれ以外に手札がないんだが。


 話の中でどこに行きたい、何がしたいっていうのも決まりやすいしな。ネットに載っていた情報を鵜呑みにしただけだけど。


「そ、そうだな……もしかしてリハツはこういうのに慣れているのか?」

「こういうのって?」


 言って気づく。女の子と一緒に遊ぶということをさしているのだろうと。


 否定しようとサクヤを見ると、顔を紅潮させていた。


 あれ、サクヤってもっと表情に乏しかったような。そう思ったが、表情の変化は乏しい。顔色以外はいつも通りだ。


「そ、それはデ、デ、デデデデデデデデ」


 サクヤがバグってる!?


 サクヤは眉を八の字にして、俺を睨み付けている。もはや殺気に近しい何かを醸し出していた。


「お、落ち着け、なんか怖い!」

「す、すまん」


 また委縮してしまった。

 待たせてしまったことをまだ気に病んでいるのだろうか。別に問題ないのに。


「と、とにかく行こうか」

「わかった、うん」


 首肯を確認した俺は、ようやく出発した。


 数秒歩くと、サクヤの姿が見えない。まさか、迷子か!? と慌てて振り返ると、逸れてはいなかったらしく、俺の後方数メートルで歩いていた。


「なんで離れてるんだ?」

「三歩下がるべきかと。影も踏まないように」

「どこの大和撫子だよ。隣にいないと話しにくいんだけど」

「へ? そ、そうなのか……そうか」


 サクヤは小走りで俺の隣まで来ると、俯いてしまった。


 耳が真っ赤だ。これは触れない方がいいんだろうか。


「い、行こうか」

「う、うむ」


 何故かサクヤの顔を見ると、また緊張が舞い戻って来た。


 ぎこちないながらもなんとか会話をして、俺達は近場のカフェに向かった。


   ▼


 近場にあった、少しレトロではあるがお洒落な外観のカフェに入った。ここに決めた理由は近かったらというのと人がそれなりにいるが、空席もそれなりにあったからだ。


 食事目的ではないし、飲み物だけなら外れはないだろうという理由もある。


 店内は等間隔で四角テーブルが並んでいる。席は七割は埋まっているようだが、少し客入りは少ないかもしれない。


 出迎えてくれた女性店員さんが席へと案内してくれた。二人掛けのテーブルで、正面にサクヤが座る。


 テーブル脇にはコンパクトなCVが備えつけられている。これで注文する。


 オープンテラスではなく、外の様子はあまり見えない。この方が落ち着く。


「何、頼む?」


 俺は円形の突起部分に手をかざし、ホログラムを表示させた。そこにはメニューと値段、画像と会計額が並んでいる。


「そ、そうだな。抹茶ティーラテにするか」

「オッケ」


 サクヤの注文のついでに俺はキャラメルラテを注文した。気取ったものを注文すると疲れるからな。


 目の前にいるサクヤは落ち着かない様子で、下を向いたり、俺を見たりしている。


 普段のサクヤらしくないな。もっと動揺しないタイプだと思っていたが。


「リ、リハツは落ち着いているな。私は、こういうのは初めてで、き、緊張してるぞ」

「うーん、俺も前日とか待ち合わせしている間はすごい緊張してたんだけどな。サクヤが迷子になったおかげか吹っ飛んだ」

「ま、迷子ではない! ちょっと、道を見失っただけだ!」


 それを迷子というのではないだろうか。


 サクヤは目を白黒させて、狼狽している。わたわたと手を動かして、色々言っていた。


「し、しかしこのお洒落な雰囲気は少し苦手だ」

「普段、来ないのか? 俺は来ないけど」

「経験はないな。いつもSWをプレイしているし、あまり外に出ない。大学に行く機会も多くはないからな」

「大学? 大学生だったのか」

「うむ。大学二年だ。経済学を専攻している。その経験のためにギルドで働いているというわけだな」


 なぜかしたり顔だった。その幼い態度に、俺は思わず苦笑を浮かべてしまう。


 ということは年上か。しっくりくるような、こないような。


「経営ということは将来的にコンサルタントを目指すのか?」

「いいや、ラーメン屋だ」

「どんだけラーメン好きなんだよ……」

「最早人生だからな。高校卒業と同時に、ラーメン屋に就職するか、大学の経済学部に進学するかどうかで迷ったんだが、結局、大卒の資格があった方が色々都合がいいという結論に至ってな」


 しっかり考えてるんだな。


 俺は高校中退だけどな!


 ん? いや、両親が学費を払ってくれていたから、休学中扱いかもしれない。今から通おうと思えば通えるのか? 


 そんな気力はもうないけど。


 先ほど注文した品を店員さんが運んでくれた。

 俺達は短いお礼を言って、再び会話に戻る。


「大学行きながら、SWをプレイ出来るのか?」

「うむ、昨今の大学は無駄に講義に出席することを強要されないからな。その分、専攻学の講義は出席が必須だし、課題やテストも多い。おかげで途中で退学する人間はそれなりにいるぞ」

「へぇ、大変そうだな」

「そうなのだ! 大変だぞ、ギルドの仕事に勉学、課題にラーメン。忙しいことこの上ない」

「そこにラーメン入れちゃうんだ……ギルドの仕事はバイトみたいなもんか」

「うむ。現実に比べると少ないが、多少実入りはある。ただ目的は接客経験だな」

「現実でしないのか?」

「したくても出来なかったのだ。面接で落とされてしまってな……どうも表情が硬いとか、接客業は向いていないと言われてな」


 サクヤは普段、鉄面皮だ。感情豊かとは言えない。


 しかし今はそれなりに表情が出ている気がする。緊張しているからなのか、顔を赤らめたり動揺している。笑顔は見ていないが。


 ああ、そうか。SWではエモーションシステムを切ってるのか。だから表情が変化しない限り、表に感情が現れない。それに、顔色は変わるが現実に比べると抑制してあるはずだ。


 現実で見る限り、結構わかりやすいと思うが、付き合いがそれなりにある俺だからわかるのかもしれない。


「それでギルドに?」

「ああ、ギルドの面接では愛想までは求められなかったからな。今は、仕事中は笑顔を浮かべられるようになった」


 そう言うと、サクヤはストローを袋から取り出し、抹茶ティーラテを飲み始めた。


 サクヤは、どちらかと言えば豪快な仕草が多かったため、新鮮な姿だ。


 俺も倣い、ドリンクで喉を潤す。


「そんなに苦手だったのか」

「苦手というか……そういう機会が少なかったというか。私は現実に友人がおらん」


 自嘲気味に薄ら笑うサクヤを見て、俺は強い共感を覚えた。


「俺もだぞ?」

「ほう! ということは私達は同じ穴のムジナというわけだな」

「ま、まあそうだな」


 サクヤは確かめるように、うんうん、と何度も頷いた。


「この出会いに感謝しなくてはな。私はどうやら取っつきにくいらしく、人が寄りつかん」

「そうか? そうでもないと思うけど」


 初対面の時は営業スマイルを浮かべていたが、その後、パーティーを組んだ時も取っつきにくいとは思わなかった。話し方に特徴があるとは思ったが。


「そ、そうか。なら、いい。そ、そうだ。しかし、ニース達も誘ったんだが、来れないとは残念だ」

「話の切り替え下手すぎるだろ……それぞれ都合もあるし、仕方ないよな」


 サクヤは俺以外の面子である、ニース、レベッカ、ミナル、メイ、小鞠も誘ったらしいが、断られたとか。


 やっぱりオフで会うのは抵抗がある、という人間も少なくないのだろうか。用事があっただけなのかもしれないけど。


「う、うむ。しかしリハツは来てくれた。その、イヤじゃなかったか?」

「イヤがる理由がないだろ。サクヤの誘いだしな。正直言うとかなり緊張してたけど」

「そ、そうか」


 白く戻っていた肌がまた朱色に染まる。


 自分の言葉を思い返すと、サクヤの誘いだから受けたと言うニュアンスが含まれていることに気づく。


 鼓動が少し速くなった。これはいかん。自爆してしまった。


 いや、しかしこれは別に問題ない文言だ。友人なのだから断る理由はないだろう。


「あ、あの」


 もじもじして、俯いてはちらっと俺に上目づかいを送ってくる。サクヤらしくない。


 落ち着かない。胸の内のドクンドクンという音が大きくなってきた。


「な、なんだ?」

「この間は、その、ありがとう。色々、私のためにしてくれて」

「あ、ああ。オニオンのことか?」

「それだけではない。都市戦の時も、私を助けてくれただろう? 感謝しているのだ」

「大したことじゃないと思うぞ」


 俺は別に感謝して欲しくて助けたわけじゃない。


 それに都市戦に関しては打算もあった。サクヤを助けたいという思いの裏には、俺達が住む場所を壊されたくないという願いがあったのだから。


「大したことだ! あれだけ自分のために労力を割いて、奔走してくれたのだ。そ、そんな風にされたら……嬉しいに決まってる」


 最後の方は小さく呟いて聞き取りづらかったが、全部聞こえた。


 殊勝な態度に、どうも調子が狂ってしまう。どぎまぎしたままの俺は、なんと返せばいいのかわからず沈黙を貫いた。


 落ち着け。何もない。ただネトゲのフレとオフで会って、楽しく会話しようというだけだ。変に勘ぐるんじゃない、俺。


 そう、俺は冷静だ。淡泊だ。それは違うか。


「リ、リハツ」

「ひゃい!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。全然、冷静じゃなかった。


「お、おまえは今、その……す、す」

「……す?」

「す、すすすすっすっすっすっす!」


 サクヤがまたバグってる!?


 今までにないほどに真っ赤な顔を見て、俺は思わず声を張り上げた。


「怖いって! 落ちつけ、深呼吸しろ!」

「す、す、すまん。すぅはぁすぅはぁ……ふぅ、ど、どうやら私には難易度が高すぎたようだな」

「よ、よくわからんが、無理はするなよ」

「あ、ああ。すまんが少し席を外す。身体が火照ってしまった」


 サクヤはそそくさとポシェットを手に持ち、席を立って店の奥へ行った。


 ほ、火照って……しまったのか。


 動揺が胸中に広がり、俺は落ち着くためにドリンクを飲んだ。

 今日は一日中、こんな調子かもしれない。


 俺だって女の子と二人で出掛けることなんて機会はなかった。当然、慣れているはずもなく、事あるごとに慌ててしまう。


 それはそれで楽しいのかもしれないが、身がもたないなこれは。世のリア充な男性諸君は気楽に構えているのだろう。信じられない。本当に同じ人種なのか?


 俺は天井を仰ぎ、動揺を抑え込むために目を閉じた。


『――ということなんですよ。では次の話題です。流行中のSW。昨今の状況はどうなっているのでしょうか』


 聞きなれた単語に思わず視線が向く。


 どうやら店内CVの映像らしい。数人のスーツ姿の男女が椅子に座り、ホログラムに注視している。ニュース番組だろうか。SWも取り上げているのか。


 俺はなんとはなしに見続けた。


『最近大規模アップデートが行われたみたいですね。よりリアルな感覚が得られるとか』

『ええ。なんでも五感によりリンクしているらしく、プレイヤーからの評判は上々らしいです』


 男のMCの言葉に、30代くらいの化粧の濃い女性が相槌をうった。


 評判は上々? 俺の身の回りでは賛否両論だったけど、全体的にみると違うのか?


『最近、話題に事欠きませんねぇ。なんでも前回の都市戦では、一人のプレイヤーが活躍したらしいじゃないですか』


 おい、嘘だろ。これ全国放送だよな?


 ちょっと待て、普通こういう場合、ゲームの見どころとか話すもんだろ、なんで内情をここまで深く掘り下げるんだよ。というかなんで詳しいわけ!?


 イヤな予感しかしない。


『確か……タハツ?』


 違うよ! 違うけど、むしろそのままいっけぇ!


『いえいえ、リハツさんですよ』


 終わった。俺の人生終わってしまった。


 嘘だよね? なんでゲームしてただけでこんな目立つの? 俺が悪いの? ただグランドクエストクリアしただけなのに、サーバー上に名前が広まって、次はフレのため、都市を守るために都市戦頑張ったら全国放送なの? 


 俺は頭を抱えてしまう。だが、鼓膜は音声を遮断しない。耳を塞ぎたい衝動に駆られたが、知りたいという気持ちもあった。自己顕示欲ではない、自己防衛本能だ。


『そうそう、リハツさんでしたね。彼、彼でいいんでしたっけ?』

『ええ。実際の映像を見てみましょうか』


 映像がなんであるんだよおおおおおお!


 俺は絶叫する寸前で思いとどまった。


 おかしい。俺は許可してない。肖像権どうなってるの? 名誉棄損で訴えてもいい?


 怖いもの見たさと、自分の行く末を知るべきという義務感から、俺は恐る恐る映像を視界に入れた。


 マジだ。映ってる。俺が映ってる!?


 都市戦で、MOB達と戦っていた時の映像だ。


 ああああああぁぁぁぁ……。


 俺は喪失感と共に脱力してしまい、テーブルに突っ伏した。


『これはすごいですねぇ。私もたまにSWはプレイしてますが、これだけのプレイスキルを持っているプレイヤーはいないんじゃないでしょうか?』

『ですねぇ。僕は生産職しかしてませんが、たまに戦闘職の人の戦いを拝見しています。すごいですよね。特にリハツさんは素晴らしい』


 映像の右下に『※プレイヤーの顔は隠しています』とテロップが出ていた。


 あ、顔は映ってないんだ。首の皮一枚で繋がっている気分だ。


 それから都市戦がどうたら、SWはここが魅力という宣伝めいたことを話していたが、やがて番組は終わりを告げようとしていた。


『しかしこれが仮想世界とは思えませんね。本当にすごいんですよ』

『ええ、皆さんもぜひプレイしてみてくださいね』


 にこにこと笑っていた出演者達が手を振り、終焉を迎えた。


 生きた心地がしなかった。


 インタビューといい、テレビ番組といいメディアが取り上げ過ぎではないだろうか。


 しかし、小さな違和感が残った。


 妙に肯定的な意見が多かった、というよりそれしかなかったような気がする。

 SW専用のチャンネルという感じでもなかったが、たまたまなのだろうか。


 ふと見ると、提供企業が映し出されていた。エニグマもスポンサーになっているらしい。となれば当然か。


「す、すまない、待たせたな」


 いつの間にか戻って来たらしく、サクヤは正面に座るところだった。


「あ、ああ、おかえり」


 再び緊張感が顔を出し、小さな疑問は消え去った。


   ▼


 一時間ほど談笑した後、サクヤに頼まれて一緒に服を見に行くことになった。なんでも意見を聞かせて欲しいとか。


 女性向けの店に入るのはかなり気まずい。


 サクヤは軽くステップを踏みながら店内へと入って行く。楽しんでくれているんだろうか。


 服屋にはディスプレイがない。そのため試着室を利用することが基本となるが、店内CVを通して外と会話も出来るし、自分の映像を投影することも出来る。間接的に交流は出来るというわけだ。


 俺は試着室前、サクヤは試着室に入っている。


 サクヤが着替え終えると、俺の近辺にホログラムを映し出すという流れだ。


 ちなみに外から会計をすることも出来る。プレゼントなどのために用意されている機能みたいだ。奢った方がいいんだろうかとも思ったが、サクヤに怒られそうなのでやめておこう。そういうの嫌いそうだしな。


 それにしても一人で待っていると居心地が悪いな……。


 周囲をきょろきょろ見回していると、映像が映し出される。

 サクヤは緊張しているのか、紅葉しているのか、恥ずかしがっているのかよくわからない、複雑な顔をしながら立っている。


「……これはどうだ?」

「いいと思うぞ。今の服装も似合ってるけど、そういう感じも似合うな」


 少し大人のキレイ目な服装だったがかなり似合っている。

 俺は素直に感嘆し、頷いた。


「ふむ、そうか……では、次だ」

「お、おう」


 なぜか、サクヤは気合十分とばかり拳を握りしめていた。その凛々しい姿が一瞬にして消えると、再び現れる。


「これはどうだ!」


 今度はファンシーな感じだ。ひらひらスカートが愛らしさを演出している。


「いいと思うぞ。似合ってるし、可愛いんじゃないか?」


 それとなく褒めてみたが、声は上ずっている。これ、夜、寝る前に思い出して悶絶するパターンだ。


「か、かかっ、そ、そ、そうか」


 赤面していたサクヤの映像が消えた。着替えているらしい。


「これは!」


 次に現れたサクヤはワンピースにジャケット姿だった。スタイルがいいのでなんでも似合うな。


「いいと思うぞ」


 微妙な表情を浮かべていたサクヤの姿が消えて、また違った服装で映し出される。 


「こ、これは!」


 露出が激しい。チューブトップにパンツルックだ。

 サクヤは恥ずかしそうにしている。無理して着たのだろうか。


「……似合うけど、ちょっと露出が多いかも」

「な、なるほど、リハツはそういう感じか」


 サクヤは納得いったように頷く。


 するとサクヤの姿を投影した映像が消失した。

 しばらくするとファンシーファッションのサクヤが姿を現した。


「こ、これにした」

「うん。いいと思うぞ」


 俺、いいと思う、しか言ってなくない?


 でもさ、似合ってる以上に言う言葉がないじゃないか。それともソムリエみたいに、語彙力を如何なく発揮して表現しないといけないのか。


 こういう時、どう言えばいいんだろうな。さらっと褒められる人は尊敬する。


「か、可愛い、か?」


 サクヤは、俺の様子を窺うようにちらちらと視線を送ってきた。

 服装もそうだが、サクヤの所作にドキッとしてしまう。


「あ、ああ。可愛い、と思う」

「そ、そうか!」


 あああああああ、もう、気恥ずかしい!


 頭を掻き毟って、叫びながら全力疾走したくなる。むずむずするのに、対処のしようがなくて、視線を逸らして気分が落ち着くまで待つしかなかった。


 サクヤも同じ心境なのか、互いに視線を泳がせて、無言で向き合うという不思議な空間が生まれていた。


 何か話さないと、と思ったときサクヤが口火を切った。


「そ、そろそろ夕飯時だが、時間はあるか?」

「あ、ああ、あるぞ。ラーメンでも食べに行くか?」

「いいのか!?」


 目をキラキラさせるサクヤを見て、俺は苦笑を浮かべる。


「いいぞ。俺は店に詳しくないから、サクヤのおすすめの店がいいんだけど」

「うむ! ではついて来い!」


 俺は、意気揚々と闊歩するサクヤに続いた。


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