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第五十五話 リザルト

 轟音が聞こえた。


 瞼を開けると目の前にウルフはいなかった。

 左方に首を動かす。建物にめり込んでいるウルフが消える瞬間を目撃した。


「な、なんだ?」 

「そ、そこに」


 砂埃を巻き上げている。その帳の中に人影が見えた。

 その人物を見て、俺は驚愕の声を上げる。


「あ、あなたは!?」

「よっ、生きてるみたいだな」


 軽い調子で手を上げるその人は俺の知っている人だった。

 想像だにしていなかった事態に、俺は呆気にとられたままだった。


「ど、どうしてここに。え? どうして、あ、あなたは」

「救済プログラムを断念した人間がなぜここにいるのか、か? それともなぜ強いのか、か? なぜ助けたか、か? 悪いが答える時間がないんだ。目立ちたくないんでね。ただ一つだけ。助けたのは、おまえがいいものを見せてくれたからさ。それと野暮用もあったんでね」

「や、野暮用? いいもの?」

「グラクエ、それに都市戦で奔走していただろう。まあ、それに胸を打たれたって思ってくれればいい」


 俺の頭の中には疑問しか浮かばなかった。


 彼は救済プログラムを断念した人だ。リリィと仲違いした後、俺に声をかけてくれた人。「いつでも来い」と言ってくれた人だ。


 なぜだ。あそこにいた人が、なぜこんなに強い? 元々、戦闘職をしていたのはわかった。しかし、ここまで強い人が、どうしてあんなことに。


 俺は頭の中を整理するのが精一杯で、男性が近づいてきていることに気づかなかった。


 男性は俺の横を通り過ぎる瞬間、ぼそりと呟いた。


「忠告してやる。信用するな」


 そのまま一度も振り向かずに、去ってしまった。

 俺は呆気に取られて、彼の背中を見つめることしか出来ない。


「お、驚いたわね。救済プログラム断念者だと思ってたのに」

「……いや、彼はそうだった。けど、よくわからないけど更生した、のか?」

「と、とにかく! 助かってよかったじゃない!」

「そう、だな」


 腑に落ちない気持ちはあった。しかし、今は喜びに浸ってもいいだろう。

 

「でも都市内にMOBはもういないのか?」

「どうかなぁ、いないんじゃない? 音も聞こえないし、プレイヤーが逃げている様子もないし」

「そうか……」


 観戦していたプレイヤー達は俺を見ながら何やら話しているようだ。こちらに歩み寄ってくる感じはしない、と思う。クロノと取り巻きはいつの間にかいなくなっている。


 とにかく、現状を把握しないと。


 俺は都市戦情報に目を通そうとした、その瞬間、開始時と同じ警報が都市内に鳴り響いた。


 『時刻二十時十一分。都市戦はプレイヤーの勝利で終えました。結果は都市戦情報画面にて、確認して下さい』


 慌てて都市情報を見てみる。



 ●都市戦 終了

 ・魔物討伐数 17580/22000

 ・魔物討伐割合 79.9%

 ・魔将討伐数 108/108【達成】

 ・プレイヤー戦闘不能数 30921/43129

 ・プレイヤー戦闘不能割合 71.7%

 ・プレイヤー棄権数 1445/43129

 ・都市破壊率 18.2%

 ・都市内プレイヤー戦闘不能数 1831/2892



「か、勝った、のか?」

「勝った、みたいね」


 リリィと視線が絡み、俺達は自然に笑顔になった。


「や、やった、やったぞ! 終わった、勝った!」

「やったじゃない! リハツ、頑張ったもんね!」

「リリィのおかげだ! 色々助けてくれてありがとな」

「そ、そんなことないわよ! あんたが頑張ったから」


 俺達は、きゃっきゃうふふ、とお互いの褒め合い、称え合った。


 長い戦いだった。半日も経っていないはずなのに、数日戦った後のように感じた。それくらい濃密な時間だと思った。


 俺とリリィは、はしゃいでその場で飛び跳ねたり、手を合わせたりしていた。

 気づくとリリィの顔が目の前にあり、時間が止まった。


「あ、わ、悪い」

「こ、こここ、こちらこそ」


 リリィが生きていたという喜びは、どれくらいリリィを大切に思っているかを自覚させた。そしてその感情は気恥ずかしさに変わってしまう。


 もじもじしながら俺を見るリリィ。


 俺はそんな彼女を見て、都市戦が終わったという実感を改めて感じた。


「リハツさぁん」

「リハツさんっ!」

「リ、リハツ!」


 レベッカ、ニース、ミナルの声だ。大通りを走りながら俺に手を振っている。


 俺も返答するように手を上げた。


 三人の後方には他のプレイヤーがぞろぞろと歩いている姿が見えた。北東だ。確か門は閉まっていたはず。開けた、というわけではなさそうだ。天界から帰還した組だろうか。


 しばし待つと、レベッカ達が俺の傍まで駆け寄ってきた。


「すごかったわぁ」

「リハツさん、おめでとうございますっ、ううん、ありがとうございますっ!」

「リハツのおかげで、都市が守れたんですよ」

「あれ? どういうことだ? 見てたのか?」

「そうよぉ。天界から観戦してたのぉ。ルールに書いてるでしょう?」


 記憶を掘り起こすと、確かに天界の項目に書いていたことを思い出した。元々、天界部分は流し読みだった。死んでから見ればいいと思っていたからだ。


 しかし見られていたと思うと、居心地が悪い。


 ま、まさか、リリィの名前を叫んだのも、


「リリィ、って叫んでましたよねっ!」


 ばれてる!?


 ニース、正直で元気なのはいいけど、空気読もう?


 リリィは顔を赤くして、顔をそむけた。俺の肩に座っているから、あんまり隠せていないんだけど、言わないでおこう。


 かくいう俺も動揺してる。エモは切ってるから、顔色が変わったりはしないけど。


 以前、ニースやメイがやっていたエモーションシステムだ。感情に合わせてエフェクトが現れる仕様になっている。リリィはデフォで導入されているので常時エモが現れる。変更は残念ながら出来ないみたいだ。


 俺は感情が明るみに出るのがイヤで外している、つまりデフォの状態だ。


「……ま、まあそれはそれとして勝ってよかったよ」

「そうねぇ、途中無理そうだと思ったんだけど、リハツさんが頑張ったおかげよねぇ」

「そ、そんなことはないけど」

「謙遜はだめですよっ! リハツさんがいなかったら都市は壊滅していたと思いますっ!」

「そ、そんなことはないと」

「リハツのおかげです。ありがとう」

「も、もうやめて……」

「ふふ、これくらいにしておきましょうねぇ」


 五人で談笑していると、遠目でサクヤが見えた。

 こちらに手を振る彼女は、普段とは違いわかりやすい程の笑顔を浮かべていた。


 その後ろにはシュナイゼルやフィールドに出ていたプレイヤーの姿があった。


   ▼


 時刻二十一時丁度。


 ロッテンベルグ北西、広場にて、プレイヤー達が集まっていた。大通りまではみ出している。多くの露店やビュッフェ、立席パーティーの様相だった。そこかしこに人がいる。ロッテンベルグにいるプレイヤーのほとんどが参加しているらしい。


 空にはグロウ・フライや箒に乗ったプレイヤー、ペットに乗ったプレイヤーが宴を盛り上げている。


 俺はリリィ、レベッカ、ニース、ミナル、小鞠と共に談笑していた。


「お疲れ様でしたっ」

「お疲れ様ぁ」

「お疲れ様です」

「お疲れさん」

「はいはい、お疲れ」

「…………お疲れ」


 片手にはグラス。好きなものを皿に乗せて、食事をする。


 半日ほど都市戦にかかりっきりだったから、空腹だった。都市戦最中はそんなことを考える余裕はなかったんだけどな。


 笑顔で談笑するプレイヤー、悔しそうに次はこうしようと話しているプレイヤー、戸惑いつつも参加しているプレイヤー、遠巻きに見て宿に帰るプレイヤー、気まずそうにしながらもおずおずと打ち上げに参加するプレイヤー。


 ここには色々な人がいて、色々な立場がある


 後悔している人もいるだろう。反省している人もいるだろう。よくやったと満足している人もいるだろう。


 それがMMO、SWの世界に生きる人達の営みなのだ。


 俺は、なんだかそれがとても暖かいものに感じられた。

 居心地がいい、というのはこういうことを言うのだろう。


 現実では自分の価値を信じられなくなり、自暴自棄になっていた。けれど今は違う。


 俺には仲間がいる。それだけでこうも変わるものなのだ。


「そう言えば、ランキング見たの?」


 リリィに言われて、思い出す。


 都市戦は終了後、各部門の順位ごとに報酬が配られる。都市戦のことで頭が一杯で終わった後のことを考えていなかったな。


 都市戦情報の画面を開き、端に小さくランキングというボタンがあったので押してみた。



●都市戦ランキング


 ・都市防衛貢献度

  …一位 リハツ       19520PT

  …二位 メイ・リン     1212PT

  …三位 小鞠        619PT


 ・討伐隊貢献度

  …一位 シュナイゼル    9908PT

  …二位 アッシュ・カエサル 8954PT

  …三位 サクヤ・カムクラ  7199PT


 ・個人貢献度

  …一位 リハツ       14557PT

  …二位 エッジ・トーラス  14320PT

  …三位 アッシュ・カエサル 12421PT


 ・魔物討伐数

  …一位 エッジ・トーラス  219体

  …二位 アッシュ・カエサル 218体

  …三位 サクヤ・カムクラ  159体


 ・魔将討伐数

  …一位 シュナイゼル    14体

  …二位 アッシュ・カエサル 11体

  …三位 エッジ・トーラス  9体


 ・都市戦総合貢献度

  …一位 リハツ       35991PT

  …二位 シュナイゼル    28088PT

  …三位 アッシュ・カエサル 27556PT



●都市戦ランキング報酬


 ・都市防衛貢献度

  …一位           2000万ゼンカ、伝説の竜石×3、ジョブ別レア度10武器

  …二位           800万ゼンカ、伝説の竜石×1、ジョブ別レア度9武器

  …三位           500万ゼンカ、伝説の竜石×1

  …四位から十位       100万ゼンカ、小竜石×3

  …十一位から三十位     50万ゼンカ、小竜石×1

  …三十一位から百位     30万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×3

  …百一位から千位      10万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×1

  …千一位から五千位     5万ゼンカ、精神回復薬【上】×3

  …五千一位から二万位    5万ゼンカ

  …二万一位から五万位まで  3万ゼンカ


 ・討伐隊貢献度

  …一位           2000万ゼンカ、伝説の血石×3、ジョブ別レア度10腕装備

  …二位           800万ゼンカ、伝説の血石×1、ジョブ別レア度9腕装備

  …三位           500万ゼンカ、伝説の血石×1

  …四位から十位       100万ゼンカ、小血石×3

  …十一位から三十位     50万ゼンカ、小血石×1

  …三十一位から百位     30万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×3

  …百一位から千位      10万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×1

  …千一位から五千位     5万ゼンカ、精神回復薬【上】×3

  …五千一位から二万位    5万ゼンカ

  …二万一位から五万位まで  3万ゼンカ


 ・個人貢献度

  …一位           1000万ゼンカ、ジョブ別レア度10体装備

  …二位           500万ゼンカ、ジョブ別レア度9体装備

  …三位           300万ゼンカ

  …四位から十位       100万ゼンカ

  …十一位から三十位     50万ゼンカ

  …三十一位から百位     20万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×3

  …百一位から千位      10万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×1

  …千一位から五千位     5万ゼンカ、精神回復薬【上】×3

  …五千一位から二万位    5万ゼンカ

  …二万一位から五万位まで  3万ゼンカ


 ・魔物討伐数

  …一位           1000万ゼンカ、ジョブ別レア度10頭装備

  …二位           500万ゼンカ、ジョブ別レア度9頭装備

  …三位           300万ゼンカ

  …四位から十位       100万ゼンカ

  …十一位から三十位     50万ゼンカ

  …三十一位から百位     20万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×3

  …百一位から千位      10万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×1

  …千一位から五千位     5万ゼンカ、精神回復薬【上】×3

  …五千一位から二万位    5万ゼンカ

  …二万一位から五万位まで  3万ゼンカ


 ・魔将討伐数

  …一位           1000万ゼンカ、ジョブ別レア度10足装備

  …二位           500万ゼンカ、ジョブ別レア度9足装備

  …三位           300万ゼンカ

  …四位から十位       100万ゼンカ

  …十一位から三十位     50万ゼンカ

  …三十一位から百位     20万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×3

  …百一位から千位      10万ゼンカ、精神回復薬【最高級】×1

  …千一位から五千位     5万ゼンカ、精神回復薬【上】×3

  …五千一位から二万位    5万ゼンカ

  …二万一位から五万位まで  3万ゼンカ


 ・都市戦総合貢献度

  …一位           黒兎馬【最上】、頑丈な魔法の袋【大】

  …二位           白馬【中】、頑丈な魔法の袋【小】

  …三位           野生馬【下】、少し頑丈な魔法の袋【小】

  …四位から十位       魔法の袋【中】

  …十一位から三十位     綻びている魔法の袋【小】

  …三十一位から百位     虹色の毒薬【上】×3

  …百一位から千位      虹色の毒薬【下】×3

  …千一位から五千位     200万ゼンカ

  …五千一位から二万位    100万ゼンカ

  …二万一位から五万位まで  50万ゼンカ



「お、おぉ……なんか、色々貰える……ん?」


 『ただいま、都市戦の報酬を送付しました。プレイヤーの皆様はご確認ください。また騎乗ペットに関しては、スペースの問題のため宿泊施設にお送り致しますので、ご理解下さい』


 システムメッセージが届いた。数が数だからな、少し時間を置いているんだろう。大量に一気にデータ移動させると大変だからな。


 所持品を確認すると、馬以外は入っていた。3000万ゼンカはかなり助かる。


 見たことがないものばかりなので説明を読んでみた。


 ・伝説の竜石        

  …武具、防具を属性強化できるとても貴重な素材。全属性。【品質100】【レア度9】【重量100グラム】


 ・フェリヴァンティン    

  …妖精達の住まう集落に生えている神樹を材料にしている長剣。見た目は金属であり、木製であり、石造であり、時として半透明の特異魔素物質に変貌する。更に、見た目とは違い、とても軽く切れ味も鋭い。別名、七色の霊剣。使い魔同調スキル値によってステ上昇率が変わる。【品質120】【レア度10】【重量700グラム】

 必要スキルなし。装備可能ジョブ、フェアリーテイマー。

 基本ステータスSTR+35、DEX+18、AGI+10。


 ・イグドのピィンライトメイル   

  …魔素吸収素材であるピィン鋼材を使用した軽鎧。魔素を限界までしみこませ、閉じ込めているため、防御力が高い。今は亡き名工妖精イグドが作り出した最高傑作。【品質120】【レア度10】【重量3100グラム】

 必要スキルなし。装備可能ジョブ、フェアリーテイマー。

 VIT+25、AGI+10、MND+15、INT+20。


 ・頑丈な魔法の袋【大】   

  …所持重量が40000増える。【品質100】【レア度7】重量には含まれない。


 袋は二つまで装備出来る。腰にぶら下げるタイプだ。


 初期から持っている魔法の袋【小】は所持重量15000。それに比べるとかなり大きめの袋だとわかる。


 正直、これはかなり助かる。装備品と所持品で重量がギリギリだったからな。


 次は馬だ。ずっと欲しかったが手が出なかった。安い物でも5000万ゼンカくらいするんだよな……。


 ステ画面には騎乗の項目が増えていた。



 ・騎乗ペット …黒兎馬【最上】

 ・名前    …未設定

 ・等級    …特1級

 ・馬齢    …2歳.11ヵ月.10日

 ・体長    …2.4メートル

 ・体高    …1.7メートル

 ・最大速力  …時速45キロ

 ・体力    …有り余っている

 ・空腹度   …腹八分

 ・最大積載量 …49200グラム

 ・親愛度   …0

 ・性格    …じゃじゃ馬

 ・得意な地  …草原、荒原、山道

 ・好物    …なし


 ・黒兎馬【最上】    

  …草原の地で生まれた馬。サラブレッドではあるが、育て方によって能力が変わる。飼育はとても難しい。【品質120】【レア度9】



 これは至れり尽くせりだな。


 リーダーとしてどうするか、ということばかり考えていて、報酬を気にしていなかった。その落差から、じわじわと喜びが浮かんできた。


 俺は、過去に感じたことのない、凄まじい達成感を抱く。


「よかったじゃない。頑張った結果よね」

「そう、みたいだな」

「あんた、また、俺なんて大したことない、とか自虐的になるんじゃないでしょうね?」

「……いや、少しは自信を持てた、と思う」

「そ。ならいいけど。胸を張りなさい。あんたは凄く頑張った。良くやったわ。色々問題もあったけど、諦めずに前に進んだ。成長してる。出会った時に比べると別人みたいに、いい方向に向かってる」

「め、珍しいな。リリィがそこまで言うなんて」

「う、うるさいわね。だって、成功したら褒めてあげるって言ったでしょ」


 そう言えば、俺を励ます時に言っていたような。

 律儀な奴だ。有言実行したんだな。


「ありがとう、リリィ。俺はもう諦めない。自分で決めたことはもう投げ出さない。他人のせいにしない。俺の責任、俺の選択は全部受け入れようと思う」

「あと、自分を責め過ぎないこと!」

「ああ、そうだな。リリィがいる。ニースが、サクヤが、ミナルが、小鞠が、色んな人が俺の周りにいてくれる。だったら、少しくらい自惚れないと、みんなに失礼だからな」

「そゆこと。頑張んなさい」


 リリィは肩から飛び立ち、俺の目の前まで来ると、俺の頭をぽんぽんっと叩いた。


「よしよし」

「子供扱いかよ」

「嬉しいでしょ?」

「……嬉しいよ。悪いか」

「ふふふ、いいじゃない」


 俺達は、はにかみ合う。それでも気まずい空気はなかった。

 とても自然な光景で、何年もそうして来たような思いさえ抱いた。


 そして心が温かくなった時、誰かの声音が空気を変える。


『みんな、聞いてくれ。俺は騎士団ギルドのシュナイゼルだ。って言っても、もう知ってるだろうけどな。それはいいんだ。今日は疲れただろう。だが、その結果、なんとか都市戦を勝利で収めることが出来た。みんなのおかげだ、ありがとう』


 シュナイゼルは壇上に乗り、広場を見渡していた。


 ああ、挨拶か。開会の時にもしていたと思うけど、改めて思いを伝えたかったのかな。


『しかし、その中でも功労者はいる。ランキングに乗っていた連中に一言貰いたいと思う。みんな、思いは色々あるだろうが、拍手で迎えてやってくれ』


 イヤな予感がする。むしろイヤな予感しかしない。


『まずは攻略ギルドマスターのアッシュ・カエサル。前線部隊で指揮をしてくれた。こいつがいなかったら、前線は上手く回ってなかっただろう。アッシュ、壇上に来てくれ!』


 パチパチと大きな拍手と声援が聞こえた。


 中には黄色い声も混じっている。元々、結構人気があるらしい。見た感じ、やや幼いけど整った顔立ちをしているし、女性陣が執心してもおかしくはない。


 アッシュくんは登壇し、シュナイゼルの横に立った。


『次に傭兵ギルドマスターのエッジ・トーラス。ギルマスながら個人貢献、魔物討伐など貢献してくれた。アッシュも同様だ。そして、冒険者ギルドサブマスターのサクヤ・カムクラ。初めての部隊リーダーでありながら、後方部隊をまとめてくれた。今回、彼女がいなければ、早い段階で都市にMOBは入り込んでいただろう』


 再び歓声が沸く。


 エッジさんはつまらなそうにしているが、シュナイゼルの言う通りに台へ向かった。


 サクヤはいつもの仏頂面だが、どこか喜色を滲ませている。

 三人が揃い、シュナイゼルは再び口を開く。


『最後、今回の都市戦最大の功労者、都市部隊リーダーを務めたリハツ! 今回の都市戦では、MOB達に、俺達が常識と思っていた裏を何度もつかれた。だが、リハツの機転、勇気、そして一人で都市に侵入したMOBをすべて倒したことで救われた。天界から見ていた奴もいるだろうし、あるいは人伝で聞いているだろう。リハツがいなければ間違いなく、都市戦で敗北していた。初参加、初リーダーでありながら、活躍してくれたリハツに、大きな拍手を送ってやってくれ!』


 ワアッという一際大きな歓声と拍手が鳴り響いた。みんな、それぞれの感情を浮かばせた瞳を俺に向けている。


 俺が全部倒したわけじゃない。むしろ最後は戦闘不能になるはずだった。


 けど、あの人が助けてくれた。救済プログラムを断念したあの男性だ。しかし、彼の存在には誰も気づいていないようだった。戦闘中、砂埃のエフェクトとか凄かったしな……。

 一応、助けてくれた人がいたとシュナイゼル達に伝えてあるんだが、信じてくれない。謙遜するな、と言われただけだった。


「なにしてんの、ほら」


 リリィの言葉に、顔を上げた。


 周囲の視線が痛い。

 もう恐怖はなかった。


 けれど、一気に緊張感が増し、身体が言うことを聞かなくなっていた。


「さっさと行くわよ!」


 リリィにせっつかれて、ようやく一歩進む。

 ぎこちない動きでもう一歩。


 だめだ、満足に動けない。


 そう思った時、背中をトンッと誰かが押した。


「行ってらっしゃいっ、リハツさんっ!」

「堂々としていいのよぉ」

「おめでとうございます、リハツ」

「…………行って」


 四人に優しく背中を押され、その勢いのまま、俺は進んだ。


 不思議と、緊張はほぐれた。


 みんなありがとう。


 胸中で呟く。その言葉には色々な意味を含ませていた。


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