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第四十四話 シュナイゼルの憂い

 経由都市ロッテンベルグから北西。距離にして二キロ地点に中間部隊は存在していた。数にして12999人。少し不吉な数字だ。


「シュナイゼルさん」


 サブマスのミッシェルが傍にいた。


 こいつは俺の至らない点を補ってくれる、いわば右腕だ。


 見た目は華奢で、やや頼り気がないが有能な女だ。秘書みたいなものだな。


 俺は大雑把でかなり適当なところがある。その点、ミッシェルは繊細で、気が利く。視野も広く、普段から助けられている。


 鎧の擦過音がそこかしこで聞こえた。重苦しくもあり、鼓舞しているようでもあった。俺達は間違いなく、都市戦を楽しみにしていた。


「どうした?」

「準備が整いました。前線部隊以外は、皆、配置についています」

「そうか」


 中間部隊に配属されたプレイヤーは中級者、つまりスキル値が81から100程度の人間だ。ただ、それは目安であり、戦闘経験なども考慮されているらしい。マッチングの仕様まで俺は詳しくなかった。


 比較的知識も経験もある。この部隊は問題ないだろう。


 前線はここから更に六キロ進んだ地点に配置する予定だ。


 開始の十五分前に戦闘エリアが解放されるため、時間外には外に出られない。その上説明もある。十分程度で行けるのは、かなり急いでも五キロ程度だろう。人数が多くなれば必然的にもっと時間がかかる。


 SWでは移動速度も脚力に影響を受けている。そのため現実より早い。通常時の都市内では全力で走れないけどな。


 まだ配置についていないのは問題ない。どうせ、MOBがこちらに辿り着くまで多少時間がある。


 前線部隊のスキル値が101以上。かなりの猛者だが、数か月から一年程度、戦闘職に専念していれば辿り着ける境地だ。120以上は別格なのでほとんどいないが。


 MOBがPOPするであろう地点は十キロ地点。前線まで四キロの猶予がある。


 前線は左右に展開する予定だ。広がり過ぎると、MOBがすり抜けてしまうので、ある程度の厚みは維持してはいる。


 彼らの目的は強敵と魔将の撃破だ。だから中程度のスキル帯のMOBはこちらに割り振られることになっている。


 都市戦のMOBは基本的にフィールド上のプレイヤーは無視して、都市へ向かう。ただし、魔将は周囲の敵とリンクする。


 中間部隊はそれを更に薄く伸ばし布陣。MOBが分散した場合に備えてのことだ。


 戦略は簡単。パーティーごとに行動し、隊の定められたエリア内でMOBを確保し、袋叩きにするということだ。ただ、増援が来ると敵の数は万を超す。そうなれば一パーティーに一体がやっとになってくる。前線部隊がどれくらい迅速に撃退出来るかが鍵となる。


 周囲のプレイヤーと連携し、各個撃破が最終的な戦法になるだろう。そこのところは全員に伝達してある。中間部隊の任務は、撃破よりも確保が優先される。


 しかしそれでも、やはりすべてのMOBを捕らえることは難しい。


 そうなったら後方部隊に流す。


 敵の選別が重要で、中間部隊には連絡が必要不可欠だ。全員が意識し、中スキル帯のMOBを確保する。低スキル帯のMOBは後回し、という感じだ。


 後方部隊は取りこぼしたMOBの撃破。当然、後方部隊のスキル値は61から80と低いため高スキル帯のMOBが都市に近づけば、彼らでは足止め出来ない。


 前線部隊から後方部隊にかけて、網目が違うざるを置いているようなイメージだろうか。もしも、最後の受け皿である、後方部隊からMOBが零れたら、どうなるかは安易に想像出来る。


「ギルマス、そろそろ時間です」

「ああ」


 俺は胸中に渦巻く感情を吐露出来ずにいた。


 杞憂であればいいんだけどな。


 そうして、強引に後ろ向きな感情を前に向けた。


 『都市戦が開始されました。魔物が出現します』


 時刻十一時丁度に、いつもの情緒もなにもないシステムメッセージが現れる。


「始まるぞ! 気合い入れろぉ!」


 俺は部隊の連中を鼓舞するために、雄たけびを上げた。


「さて、どうなるか」


 俺の呟きを聞いている人間は誰一人としていないようだった。


   ▼


 開戦から二十分が経過した。


 そこかしこにMOBとプレイヤーが戦っている。エフェクト、効果音、怒号や連絡、それらが飛び交い、場は騒然としている。


 MOBは小型、中型、大型がいる。小型は犬程度、中型は大体人間程度から像程度、そして大型は見上げる程の大きさだ。体躯によって特性は変わるが、強さが決まるわけではないので、小型に複数人で攻撃を加えたりしている場面も見受けられる。


 俺は大型のMOBである『アイアンゴーレム』を相手にしながらUIを一瞥すると、舌打ちをする。



 ●都市戦 勃発中

 ・魔物討伐数 1101/5932

 ・魔物討伐割合 5.1%

 ・魔将討伐数 15/108

 ・プレイヤー戦闘不能数 194/43129

 ・プレイヤー戦闘不能割合 0.4%

 ・プレイヤー棄権数 502/43129

 ・都市破壊率 0%

 ・都市内プレイヤー戦闘不能数 123/2892



 すでに想定外のことが起きている。


 魔物討伐数の絶対数、討伐数、そして討伐割合から算出すれば、都市戦全体のMOBの数が算出出来る。


 1101で大体5%、ということは増援含めて約22000体のMOBがいるということだ。殲滅するのはかなり骨が折れる。フェーズごとに増援するので、一フェーズごとの数は数千だ。しかし数が数だ。


 フェーズ移行は、どの程度の時間で行われるのか解明されていない。過去を照らし合わせても、不規則だった。そのためランダムだと結論が出ている。


 魔将を全滅させるか、増援が来る前に現存のMOBをすべて倒す方が楽かもしれない。前線の奴らは言わずともわかっているし、むしろそういう方向で最初から動いている。


 だが、それが可能か?


 過去の都市戦に比べ、圧倒的に数が多い。精々が15000程度だったはずだ。これは、ロッテンベルグの人口が増えたことに関係があるのか?


 だがクリアが不可能な段階じゃない。この程度なら時間をかければなんとかなるはずだ。


 それよりも、気になったのは都市のことだ。


 思ったより、都市内の人間が棄権している。都市内の戦闘不能数も増えているということは、勝手に外に出て死んでしまっているということだ。


 都市部隊でなにかあったのか。


 リハツにWISをしてみるか? それとも全隊チャットで呼びかけるか? だけどまだ始まって大して時間が経ってない。さすがに早計か?


 いや、これくらいはまだ想定の範囲内だ。もう少し様子を見てみよう。


 過去に棄権者が多く出た時もあった。

 ならば問題はないだろう、と俺は内心で思い込む。


「頼むぜ、リハツ」


 アイアンゴーレムを大剣で倒しつつ俺は小さく呟いた。

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