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セカンダリィ・ワールド RMT  作者: 鏑木カヅキ
グランドクエスト編
31/105

第二十九話 狭間の間際

「――って感じだ」


 俺はミナルにグランドクエストに関する情報をすべて教えた。仮に金髪達に情報を漏らしても、構わないと思っていた。どうせ、俺達の方が先にクリアするだろうし、秘匿趣味は持ち合わせていないからな。


 俺の話を聞いて、ミナルは驚きを隠せない様子だった。


「そ、そんなことが……まさか、本当に別ルートがあったなんて」

「おまえも……あー、ミナルでいいか?」

「は、はい。ミナルで大丈夫です」

「そうか、じゃあミナル。俺もリハツって呼んでくれ」

「は、はい」


 そして、女性陣を一瞥し気まずそうに目を伏せた。


「ああ、あの三人も呼び捨てでいいと思うぞ。多分」

「構わん。さん、だのつけられるのはあまり好きではないからな」

「私もそれでいいわよぉ」

「わ、私もですっ!」


 俺は三人の反応を見て、ミナルに向き直る。


「だとさ」

「わ、わかりました。僕も呼び捨てでお願いしますね」


 三人はミナルの言葉に首肯した。妙に距離を作る性格の人間がいなくて安心した。こっちは別に興味ないのに、自意識過剰で壁を作る人間ほど面倒臭いものはないからな。


 あ、これ俺だ。


「そ、それで、その、どうして見つけられたんですか?」

「どうして、って、怪しかったから?」

「う、うーん……確かに一時怪しいって言われてましたけど、結局なにもないって話になったはずですけど。あくまで噂で聞いただけですけどね」

「それについて私なりに考えてみたんだが」


 俺とミナルの会話にサクヤが入って来た。どうやら独自の見解があるらしい。イヤな予感がしないでもない。


「リハツは初心者だ。その上、ゲームはあまりしてなかったのではないか?」

「ああ、まあその通りだけど」

「つまりだ、従来のネトゲに対する先入観がない。昨今のシステムは、導線が引いていて、親切設計だ。要は運営が用意した村人やらシステムメッセージに従えばいい。だがSWでは原点回帰しているわけだ。ライトゲーマーからヘビーゲーマー。そして完全なゲームの初心者は疑いを持ちにくいということだと思う。リハツは中途半端に知っていたから、違った目線を持てた、と私は考えている」


 言い得て妙だな。サクヤの言葉には説得力があった。


「なるほど、そう言われればそんな気もするな」

「あくまで個人の意見だ。正しいかどうかはわからん。それに、解き明かすことが出来たことに疑問を持つより、今は重要なことがあるだろう」

「重要なこと?」


 俺は訝しげにサクヤへ問う。


「見ろ、ゲームの醍醐味。最初のボス戦だ」 


 サクヤが指し示す先には半透明の壁がそびえ立っていた。

 淡い赤色の波が地面から空へと流れている。


「ここから先はインスタンスエリア、つまりボスが待っているということだ」

「き、きき、来ましたねっ!」


 興奮気味のニースを見て、サクヤはささやかに笑う。


「ついにボスか……さっさと終わらせるつもりが、長引いたな」


 感慨深い。まだ出発から五時間程度しか経っていないはずなのに。


 改めて考えると、ゲームで五時間は長いか。だけど、大したことはないと思っていた。ここがあまりに現実味を帯びているからかもしれない。


「ど、どんな話になるんでしょうか……」

「悪いが、初見が一人、ほぼ初見が一人いるからな、詳細に関しては話さないようにしてくれ。ただ、私達が知っている内容ではないと思うが」

「わ、わかりました……」


 ミナルの意思を確認し終えると、サクヤは俺に視線を送る。


 気づけば、全員が俺を見ていた。

 なんだ、なんで見られているんだ俺は。


 戸惑いを隠せない俺に、レベッカはクスリと笑う。


「ボス戦前の作戦会議しないとねぇ。多分、今までと違うボスだろうし。隊列と役割程度は確認しておいた方がいいんじゃない?」

「あ、ああ! なるほど、そういうことか。そうだな。敵の強さにもよるけど……」


 俺はふとある考えが浮かんだ。ここまでの過程を考えれば、あり得ない話ではない。


「じゃあ、作戦を話す。一応、以前のボス戦についても教えてくれ」

「わかったわぁ、えーとね――」


 そうして俺達はあーでもない、こーでもないと話しあった。


   ▼


 『インスタンスエリア【黒魔女との戦闘】に入りますか?』


 『はい』を選択し、エリア内に入った。


 そこは生い茂った樹木や草木がなくなって、開けた場所だった。その中央に女が立っている。黒衣を身に纏い、妙に露出が多い。胸元を大きく開けて谷間が見える。


 伸びっぱなしにしているのか、黒髪は地面に垂れていた。まるで地を這う生き物のように蠢いている。


 俺達に向けられた瞳に光は見えない。現実離れした存在に見えた。


『やはり来たのじゃな。紡げぬ者共よ。貴様らが来ることはわかっていた。儂を倒しに来たのじゃろう? いや、みなまで言わなくともわかっておる。無駄じゃ。無駄じゃとわかっておる』

「あーーー、そうそう、これよぉ。思い出したわぁ。この言葉が引っかかったのよねぇ」

「……そういうことか」


 黒魔女のセリフは立場によって微妙にニュアンスが変わるのではないか。


 もし、村に疫病を放った犯人が黒魔女だと思っていれば、このセリフは『自分を倒そうとしても無駄だ』と聞こえる。


 しかし俺達の立場だと『言い訳しても、理由を述べても信じて貰えない。無駄だろう』と言っているように思える。


「なんのことだ?」

「リハツさん、わかりませんっ!」

「ぼ、僕もよくわかりません……」


 俺達が会話を始めたせいで、黒魔女さんは口をつぐんでしまった。あれか、変身するヒーローを待つ敵役と同じか。なぜか少し切ない気分になった。


「あ、続きをどうぞ」

『……来るがよい。そして己の無知を知るがよいわ!』


 がばっ! と両手を広げて、ここぞとばかりに威厳を表す黒魔女。だが、俺達はその場から微動だにせずにいた。


 微妙な空白が出来てしまい。俺はなんとなく申し訳ない気持ちになってしまった。


「いや、戦う前にこれを」


 俺は蠢く石を取り出し、黒魔女に見せると、消失してしまった。使用した、ということだろう。


『なっ!? それは、蠢く石ではないか。よもや、見つかるとは思わなんだ。それは儂のババ様の持ち物じゃ。なぜお主らが……?』

「多分、そのババ様が犯人だ。村には老婆が一人いたからな」

『……そうか。あり得ぬ話ではない。ババ様はある日忽然と儂の前から消えてしまった。それ以来儂がこの森を守って来たのじゃ。人の手からな。儂は人間でありながら、魔物と寄り添う者。人とは相容れぬ存在故な』

「そのババ様がメリア村に疫病を振りまいた、ってのは信じてくれるのか?」

『わからぬ。証拠はあるが確証はないのじゃ。だが、合点はいく。ババ様は人間を憎んでおったからな。いや、違う。世界を憎んでおった、という方が正しい』

「なんか自然に会話モードに入っちゃってますねっ!」

「しっ! リハツの邪魔をしてはならんぞ。また会話が止まってしまう」

「あっ! ご、ごめんなさいっ」


 後方でサクヤとニースの会話が聞こえた。


 ニースの言う通りすでに戦闘の雰囲気ではなくなっている。これは正しいルートを通っていると考えてよさそうだ。


『お主たちは儂が首謀者でない、と思ってくれているのじゃな?』

「ああ、ただ完全に信じてるわけじゃないけど、そうだとは思ってる」

『そうか……それでよい。それで十分じゃ』


 黒魔女の瞳に光が戻る。やんわりと笑みを浮かべた魔女は、妙齢の女性にしか見えなかった。


『儂も力を貸そう。恐らく、メリア村から逃れたババ様は幽界に隠れておる。その扉を開こう』

「これは、新たな展開ねぇ」


 黒魔女は俺達の返答を聞かず、奥へと下がる。そこでブツブツと呪文を唱えると、周囲に異変が起こった。魔女の正面の空間に、ヒビが入り破片が散らばると消失した。


 奥には森とは違う景色が見える。ごつごつとした岩場だけで、植物は見えない。閉鎖された空間だ。洞窟のように見えるが、岩壁は僅かな光を放っている。


『ここから先、神術は効力が半減される。注意するのじゃ。儂も微力ながら助力しよう』


 黒魔女は俺達をおいて、さっさと中へ入ってしまった。


「おい、最後不穏なこと言っていたぞ」

「回復量が半分になるってことでしょうかっ!? ヒーラー二人でよかったですねっ」

「こ、こんな流れになるんですね……」

「とにかく先へ進むぞ。ここにいても意味はないだろう」

「そうねぇ、ちゃっちゃと老婆をぶっ殺してクエスト達成しましょう。夜になっちゃうわよぉ」


 それぞれ言いたい放題だったが、自然と笑いがこみ上げてきた。

 パーティーだと実感したからかもしれない。


「じゃあ、行くか!」


 俺の号令に全員が思い思いに反応する。


 長かったクエストもここが終着点のはずだ。


 俺達は黒魔女の後を追い、幽界へと入った。


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