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セカンダリィ・ワールド RMT  作者: 鏑木カヅキ
グランドクエスト編
28/105

第二十六話 新たな力

「では、続きを頼むぞ」

「ああ、わかった。まあ、みんなもわかっているとは思うけどな」


 頷く人一名、きょとんとする人二名。


 うん、わかってた。なんとなく三人の性格がわかってきた。


「ふむ……いや、待てよ、そうかわかったぞ!」

「おお、サクヤ。わかったのか!?」


 期待した後に気づいた。サクヤはまた勘違いしているのではないかと。


「ああ。私の考えはこうだ……犯人は村人だ! なぜなら、水を汲むと見せかけ石を落とすことが出来て、且つ怪しまれないからだ! どうだ!」


 間違っていない。おい、間違えるところだろここは。


 サクヤは自己陶酔しながら雄弁に語る。そして俺をちらっと見ると、小さく笑った。なんだろう、少しイラッとした。


「せ、正解だ」

「尋常ではない知己。我ながら恐ろしいぞ」

「よ、よかったな、うん。じゃあ、さっさと行こうか」

「そうだな! 村人で怪しいのは、倒れている奴らだろう。呻き声を上げているのも演技かもしれん。怪しさ満点だ」

「おい!? そっちじゃねえよ、どう見ても違うだろ!」

「な!? バカな、違うのか!?」


 肝心なところで外しすぎだろ、こいつは。

 なんでそこまで考えて明後日の方向の答えを出してしまうんだろうか。


「流れからみて、お婆さんじゃないかしらねぇ」


 事もなげに言い放ったのはレベッカだった。


「そうだよ!」

「そうだったんですかっ!?」


 把握した。ニースとサクヤはこういう分野は苦手だということを。


「と、とにかく証拠はあるんだ。これを老婆が落としたか、老婆の手引きによって誰かが落としたかを知るには、直接話す方が早い。行くぞ」

「くっ、今日は調子が悪いな」


 本当に今日だけなんだよね? 信じていいんだよね、サクヤさん?


 俺は懐疑的だった。サクヤはもしかしたら、ちょっとダメな子なんじゃないだろうかと思い始めていたのだ。


 少しくらい欠点があった方が親しみも持ちやすいし、長所と思えばいいか、と前向きに考えてみる。ダメだった。


「行きましょう! 老婆さんを詰問して、脅しましょう!」

「脅す前提にしちゃダメ!」


 高揚感からか、ニースはどうも口が悪い。いや、目的のために手段を選ぶ気がないと言うべきか。


 優等生に見えて、実は天然ボケであるサクヤ。

 大人しく見えて、実は言う時は言い、時折積極的になるニース。

 ふだんはおっとりしているのに、切れたら怖いレベッカ。


 なんだこのパーティー。変な奴ばかりじゃないか! 俺は大丈夫。俺はまともだ。そう信じたい。


 達観しつつ、諦観しつつ俺は老婆の元へと行った。


   ▼


 老朽化した小屋の中で、老婆は一人椅子に座っていた。さっきと変わらない姿勢だ。


 俺は近づき、声をかける。


「ちょっといいか?」

『おお、これは冒険者殿。進捗状況はいかがでしょうか……ひぇっ! 村人達は刻一刻と死に近づいております。時間がありませぬ! どうか、早急に解決してくださいませ』

「あ、ああ。それでだな」

『おお、これは冒険者殿。進捗状況はいかがでしょうか……ひぇっ! 村人達は刻一刻と死に近づいております。時間がありませぬ! どうか、早急に解決してくださいませ』


 なにこれ、バグ?


「リピートしてるな」

「レトロゲームを思い出すわねぇ」


 フラグが立っていないということみたいだ。

 俺は袋から蠢く石を取り出し、老婆に見せた。


「これに見覚えは?」

『……なんでしょうか、その禍々しい石は!?』


 なんか妙に間隔が空いていたような。これは怪しい。しかも演技臭い。「なんたること、まさか、それが疫病の原因!?」とか言っているが、完全に棒読みだった。


「あんたが疫病を振りまいた首謀者だろ。村の中であんただけ無事なのはおかしいし、石は井戸に中にあった。つまり村人の仕業だ」


 これしか情報がない。なんともお粗末だが、多分これで問題ないはずだ。


『……なんのことやらわかりませぬな』

「疫病が蔓延している中、街に留まっている理由はなんだ? なにか意図があるんだろ?」

『……ひぇひぇっ』


 『老婆は不気味に笑っている』


 思った反応を得られない。まだ情報が足りないのか?


「おい、いい加減に」

『ひぇっひぇっひぇええええぇっ!』


 老婆の金切り声が鼓膜を揺らす。ガラスをひっかいたような不快な音に、俺達は思わず耳を塞いだ。その隙を逃さず、老婆は俺達を小屋に残し、外へと走り出してしまった。


「くそっ、なんだってんだ!」

「……これは運営にメールだな」

「それより、追わなくていいのぉ?」

「い、行きましょうっ!」


 全員が一斉に外へと出た。


 そこに待ち受けていたのは、老若男女の村人達。その数は、十名。


 入口を囲むように配置している。どろっと濁った瞳をこちらに向け、がくがくと痙攣を繰り返しながら、こちらへゆっくりと近づいて来ている。


 手には鍬や草刈鎌、農業用のフォークを持っていた。明らかに敵愾心をこちらに向けている。


「なな、なんか怖いですよぉっ!」


 ニースが涙を浮かべている。こういうの苦手なんだな。以前、ゴーストを見た時もかなり怖がっていたし。俺もだけど。


『ひぇっ、ひぇっ! 同族にやられるがいいわっ!』


 老婆は一言残し、踵を返した。向かう先は『黒魔女の森』方面だ。


 俺はクエストの概要を思い起こす。

 『黒魔女の森』に原因があるようだ、という一文があった。つまり、最終的に森へと向かうことになる、という未来を示唆していたのか。


「ふむ、敵の強さは私と同じくらい、らしいな」

「わかるのか?」

「ああ、敵解析スキルを持っているからな」

「悠長に話している時間はないわよぉ、私が全部のタゲとるから、あとは一体ずつ撃破しましょう! サクヤちゃんとリハツさんは一体タゲとって! ニースちゃんは適宜回復! プロヴォーク行くわよぉっ!」


 村人達が迫って来た。既に互いの攻撃範囲に入っている。


 レベッカはいつの間にか、兜を装着している。斧を構え、臨戦態勢だ。俺達も戦いに向け、思い思いに武器を構える。


 『レベッカは村人Aにプロヴォークを放った』


 村人Aに赤々としたエフェクトがかかる。

 するとレベッカを標的にし、猛然と迫った。憤怒の表情だ。


「からのぉっ!」


 レベッカは態勢を低くすると、視線を頭上に向け口腔を大きく開く。

 次いで雄叫びのような声音が響く、村人達は僅かに竦んだ。


 『レベッカは村人達に咆哮を放った』『村人A,B,C,D,E,F,G,H,I,Jに15のダメージ』


「俺はBをやる、サクヤはJから!」

「承知した!」


 俺は端的に意思の疎通を躱すと、瞬時に村人Bへと疾走した。


 村人Bは中年の男性。無精ひげを生やしていた。手にはフォークを持っている。長さがある上に、相手は人間の容姿をしている。やりづらくて仕方がないがやるしかない。


 俺は短剣を斜に構え、突きの初動と共に『強撃』を発動。


 『リハツは強撃を村人Bに放った』『村人Bに20のダメージ』


 スライムより硬い。相手のHPが見えない分、どれだけ与えたのかわからないが、なんとかなりそうだ。


 村人Bの腕が動いた。次いでフォークの切っ先が俺の腹を掠める。

 身を捩りつつ回避し、姿勢を低くしたまま再度、短剣を突き出した。


 『リハツは村人Bを攻撃』『村人Bに12のダメージ』


 いける。余裕だ。


 俺の心に小さな慢心が生まれる。それを払拭したのはニースの悲鳴だった。


「いいい、いっぱい来ましたぁっ!」


 振り返ると、村人達数人がニースに群がっている。獲物を振り下ろし、ニースを攻撃しているのが見えた。


「タゲとられちゃったわぁ! 咆哮はすぐに使えないのよぉ!」


 レベッカは六体を相手にしている。ゲージを見ると、HPの三分の一程度削られていた。対して、ニースは半分近くHPが減少していた。


 まずい!


 俺は村人Bの攻撃を回避しつつ、後方へと戻る。


「ニース、何もするな!」


 ニースにヘイトが溜まっている。回復魔法を使い過ぎたのだろうと当たりをつけ、俺はニースを庇うように身体を潜り込ませた。


「ひゃぁぁっ、ひゃいっ!」


 返事か悲鳴かどっちかにしてくれ!


 『リハツはサークルストライクを放った』『村人B,C,Dに10のダメージ』


 これでこっちにタゲが移ったはず!

 三体の視線はこちらに向いてる。応急的対処だったが、仕方がない。


 俺は村人C,Dを攻撃しヘイトを稼ぎつつ、三体の攻撃をなんとか躱す。

 集中すれば、避けられなくもない。だが一瞬の気の緩みが、事態を悪化させるだろう。


「サクヤ、そっちで一体持ってくれ! 三体はきつい!」

「こちらも二体持ってる!」


 見ると、サクヤはレベッカを標的にしていた村人を一体引き受けていた。レベッカのHPを見て、分散させようとしたのだろう。


 だが、タンクではない俺とサクヤではレベッカと比べて防御力とHPがかなり低い。サクヤのHPは半分を切っていた。


 思案している最中、攻撃への集中力が逸れてしまい、俺は二回ダメージを負う。


 残りHP三分の二。二撃で三分の一を持っていかれた。


「レベッカとサクヤは受け持ちのMOB全体のヘイト上げてくれ! 確認後、ニースは回復力少なめのを俺とサクヤに、レベッカに多めのを! その後、減りに合わせて回復してくれ!」

「わかったわぁ!」

「心得た!」

「は、はい!」


 『レベッカは村人Fにプロヴォークを放った』

 『サクヤは村人達に桜花乱れ斬りを放った』『村人I,Jに25のダメージ』


 ニースは俺の背後から詠唱した。


 『ニースはサクヤにキュアを詠唱した』『サクヤは145回復した』


 サクヤのHPが三分の二近くまで戻った。


 『ニースはリハツにキュアを詠唱した』『リハツは152回復した』


 俺のHPがほぼ全快する。


 『ニースはレベッカにリ・キュアを詠唱した』『レベッカは560回復した』


 レベッカのHPは四分の三ほどまで回復した。


 タゲは動いていない。ヘイト調整は問題なかったようだ。

 俺は村人Bを『スラッシュ』で撃破。残り二体。なんとかなるか?


 だめだ、集中を途切れさせるな。


 と、思ったのも束の間、俺のHPが徐々に減り始める。


 『蠢く石が瘴気を放っている。リハツに20のダメージ』


「うっぜぇっ! この石、うっぜぇっ! ニース、ディスカースくれ!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! サクヤさんの回復が!」


 サクヤのHPが半分になっている。しかし敵は一体に減っていた。侍は攻撃力は高いが、防御力は低いらしい。次いで、サクヤはもう一体をレベッカから受け取った。


 レベッカは残り三体だ。一匹倒したようだな。

 俺の相手は二体に加え、蠢く石の効果がある。一人でなんとかするしかない。


 『村人Cはリハツを攻撃』『リハツは攻撃を回避した』

 『蠢く石が瘴気を放っているリハツに20のダメージ』

 『リハツは村人達にサークルストライクを放った』『村人C、Dに9のダメージ』

 『村人Dはリハツを攻撃』『リハツに114のダメージ』

 『蠢く石が瘴気を放っているリハツに20のダメージ』


 くそっ、ダメージインフレし過ぎだろ! 防御力も高いし。なにより石が地味に効く。


 通常のRPGなら全てステータスで決まるが、SWではPSが大きく絡んでくる。つまり、レベル差があっても、なんとか避けることも出来るということだ。当然、すべてではないだろうが。


 多分、あと少しで一体倒せる。しかしSPは底をついてしまい、回復まで少し時間がかかりそうだ。


 ジリ貧を覚悟しつつ、俺は意識を研ぎ澄ました。


 村人Cの草刈鎌による攻撃を避け、姿勢を低くし、前方に体重を移動する。そのまま膝を伸ばし突きを繰り出そうとした時、異変は起こった。


 シャキッ! という小気味いい音と共に、スキルエフェクトが発生する。


 『リハツはウィークネスを閃いた』『リハツは村人Cにウィークネスを放った』『村人Cにクリティカル、68のダメージ』『リハツは村人Cを倒した』


 なんだ? 閃いた? スキルを閃くのか?


 途中攻撃の軌道が変わった。蛇のように蠢いた一閃は、磁石のように村人C心臓部分へと向かい、突き刺した。


 弱点を狙うスキル、なのか? 人型だから心臓が弱点、というのは定番だ。それはわかっていたが、敵の数が多かったために狙えなかった。しかし、このスキルだと完璧な軌道で弱点を突くことが出来た。


 ただ、心臓を狙ったのは……なんか複雑な心境になってしまう。


 俺は最後の一体となった瞬間に、声を荒げた。


「こっちあと一体!」

「私もだ!」

「こっちもあと一体よぉ、タゲ貰うわねぇ」


 レベッカは三体のタゲを全て受け取った。


 ヘイト値は高くなかったためにすぐにタゲを変えることに成功したようだ。


 後は定番の流れだ。タンクがタゲを取り、アタッカーが集中攻撃し、HPが減ればヒーラーが回復する。そんな単純な戦法で幕を閉じた。

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