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セカンダリィ・ワールド RMT  作者: 鏑木カヅキ
グランドクエスト編
27/105

第二十五話 それが俺なんだ

 事情を説明し終えると、三人の表情は神妙から驚愕へと変わった。


「本当にあるとはな」

「井戸の底に潜らないといけなかったのねぇ……」

「すごい、すごい発見ですよ、これはっ!」


 興奮冷めやらぬニースは、ぴょんぴょんとその場で飛んでいる。


 俺も半ば諦めていたから、反動で嬉しい気持ちが大きい。


 いやいや、ちょっと楽しいとか思ってるんじゃないよ、俺。もうゲームは辞めるんだから。


「その石、継続ダメージがあるから、五分ごとにディスカースを唱えないとダメみたいですねっ」

「ああ、手間だけど頼めるか?」

「手間だなんて、むしろやらせてくださいっ」


 ニースは小さな拳を握り、真剣なまなざしを俺に向けて来た。

 後輩になつかれたらこんな感じなんだろうか。そんな経験皆無だから想像でしかないけど。


「しかし、そのアイテムがあっても、事件の糸口は見つけられておらんな。それを誰が置いたか、という部分がわからないと、結局魔女が犯人だと帰結してしまう」

「そうでもないと思う」

「その心は?」


 蠢く石を手のひらに乗せる。


 野球のボールくらいの大きさがある。表面はざらざらしていて、奇妙な紋様が刻まれている。樹木にも見えるし、蜘蛛にも見えるし、悲鳴を上げている人の顔にも見える。ロールシャッハテストみたいだな。


「これ見て気づかないか?」

「丸いわねぇ」

「そ、そうだな。でもそこは関係ないかな」

「毒々しい煙が出ている。つまり、これが疫病の原因なのだな!」

「う、うん、それはさっき話したけどな」

「わかりました! 表面の模様が気持ち悪いですっ!」

「見たままの感想だろ、それ……」

「なんとなくだけれど、思ったより大きいわね」

「お、レベッカ、いいところに気づいたな」

「確かにちょっと大きいような気はしますね。目立たないように小石程度とかならわかりますけど。でもそれがどうしたんです?」


 思ったより大きい、という情報だけではピンとこないか。井戸に入ったのは俺だけだし、体感しないと思いつかないのかもしれない。


「ちょっと待っててくれ」


 俺は近場に転がっていた石を持ち上げる。だいたい、蠢く石と同じくらいの大きさだ。


 それを井戸の中に落とすと、ドボンという音が聞こえた。けたたましい、というほどではないが、村が静まり返っていれば、近辺の人間は明らかに気づく音量だ。


「……ん? 終わりか?」

「あ、ああ。結構、音が鳴るだろ?」

「なるほどねぇ。そういうことぉ」


 レバッカは俺の意図を読み取っているようだったが、サクヤは怪訝そうな顔つきだ。だからどうした、と言いたいらしい。


「リハツさん!」


 はいはい! と元気よく手を上げるニースを俺は指差した。


「なんだ、ニース」

「なにがなんだかわかりませんっ!」

「そ、そうか。時間もないし、全部説明するか。まずこの村は狭い。さっきみたいな音が鳴れば、誰かが気づくだろう。NPCと言っても、そこら辺の違和感に気づいて教えてくれるはずだ。なんとか会話が出来る村人もいたし、もちろん老婆もそうだ。言っておくけど、あくまでSWはリアル志向だってこと前提で話してるから」

「ふむ、それで?」

「村が狭い、井戸に石を落とせば音がする、桶を下ろす時も音がする。つまり夜中に石を落とすのは難しい。犯人が変装なりして、昼間に村人に扮しても気づかれるだろう。村人は少ないし、よそ者は目立つからな。ということは?」


 自ずと犯人は割れてくる。


「わかりませんっ!」

「元気がいいのはいいことだぞ」

「えへへ、そうですかねっ」


 ニースってこういう娘だったか? 比較的慣れたからか、それとも状況に興奮しているからなのか。ひょっとして彼女はこれが素なのかもしれない。初対面の時を思うと、人見知りではありそうだったが。


 質疑応答はもういいだろう。禅問答になっている気がするし。


 俺がさらに言葉を紡ごうとした時、


「うっわ、なんだよ、これぇ、身体に悪そうじゃね?」


 誰かの声がした。


 言葉の一端を耳にした瞬間、不快感が浮かび上がる。

 妙に頭の悪そうな口調だ。電車内とか街中で聞こえてしまう声音だった。


 村の入り口の三つの影が見えた。


 先頭に根元が黒くなりかけている金髪の男。軽薄そうな顔をしている。装備はいかにも初心者という感じだ。試しにステを見ようと思ったが、ブロックされた。非公開にしているようで、詳細情報を見れないようだ。


 後方にはバンダナを巻いた、体格のいい男がいた。身長は俺より高く、いかにも腕っぷしが強そうな容姿をしている。目つきは鋭く、暴力的な空気を漂わせていた。こっちの男も非公開だった。


 もう一人は小柄で、気弱そうな少年だった。卑屈な笑みを浮かべて、先頭の男を見ている。彼だけは情報を開示しているようだ。名前はミナル・ガイゼン。見た目に反して、名前は勇壮さに溢れている。職業はエレメンタラー。ヒーラーだ。ギルドランクはCで、彼は経験者らしい。


 見た感じ金髪がリーダーのようだった。


「あっれぇ、誰かいるなぁ」


 金髪が俺達の存在に気づいた。


 サクヤ、ニースにじとっとした視線を送り、なめまわすように観察すると、ニタッと笑った。


「おいおい、マジレベル高くねぇ?」

「だな。この間、合コンしたJKなんてクソに見えるわ」


 金髪にバンダナが反応した。下卑た笑いには不快感を覚える。


「レベル? このゲームにはレベルはないが?」

「ぎゃははっ、お姉さんマジ受けるわぁ、天然?」


 サクヤは小馬鹿にされたと感じたのか、顔を顰めた。


 レベッカは微動だにしない。鎧のせいで顔が見えないが、警戒しているように見えた。


 ニースはあからさまに怯えている。ちらちらと俺を見ているが、もしかして間に入れということか? 冗談じゃない。それではまるで、この三人は俺の仲間だと言っているみたいじゃないか。


「そっちの鎧の人は、んー? 名前からして女の子かな?」

「……はぁ、まあ女ですがぁ」


 レベッカは逡巡した後、兜をとった。

 さらりと金糸が零れ落ちる。無骨な鎧から現れた美麗な女性という構図だった。絵になっている。


「おお! こっちも美人じゃん! マジなんなの、SW最高じゃねえか!」

「ネカマがいないからな」

「そそっ、見た目そのままだって言うしさぁ、最初は不便だと思ったけど、今は賛成だわ!」


 ケラケラと笑いあう二人の後ろで、ミナルは所在なさげに、俺達と金髪達の間に視線を行ったり来たりさせていた。


 クラスに一人はいたなこういう奴。


「私達はクエストで忙しいんだ。なにか用件があるならさっさと言え」

「お姉さん、結構、口悪いねぇ」


 金髪、おまえが言うなと言いたい。


「俺達もさグランドクエストっての? やろうと思ってここに来たんだよ、見ればわかると思うけどさぁ。で、こっちは三人、そっちも三人じゃん? だからパーティー組まない?」


 あっちは三人。こっちは、四人だ。間違いなく俺を省いているな、これ。


 軽薄そうな男達を前に、俺は我関せずを通し、集団から少し離れた場所から見守っている。怖いわけじゃない。むしろ不愉快で、苛立っていた。


 しかし、ニース達を擁護するということは仲間だと認めることで、彼女達は自分にとって親しい人間だと思っていることになる。


 それでは昨日の二の舞だ。リリィにしたように、一方的に友情を抱いていても、虚しいだけだし、なにより自分の価値がないと思えてしまう。それはもうしたくない。


 サクヤはこちらを振り返った。ご丁寧に、指で一人ずつ数えてから、正面に向き直る。


「こちらは四人だが?」

「いやいや、三人っしょ? 女の子パーティーじゃん?」

「リハツさんがいるわよねぇ」

「そ、そうですっ!」


 勇猛果敢に意見を言ったニースだったが、金髪に一瞥されただけで委縮してしまう。


「あー、ほんとだ、いるなぁ。なんか豚みたいのが」


 そんな程度の低い悪口には慣れている。


「見ろよ、タダノリ。あれ、どう見ても浮いてるじゃん。なんでこんな綺麗な子達と一緒にいるのか、わからなくね?」


 金髪はバンダナをタダノリと呼んだ。もしかしたら本名なのかもしれない。多分、俺はすぐに忘れてしまうだろうけど。


「関係性がよくわからないな」

「あれじゃね? ストーカー的な?」

「あり得るな。しつこそうな顔をしているしな。もしくはパシリ要員か」


 格下を見る目を俺に向ける金髪とバンダナ。

 俺は避けるでもなく、無感情にその視線を受け止めた。


「なに見てんだ、ああ!?」


 突如として怒声を響かせる金髪に、ニースがびくっと身体を動かした。


「おい、ほっとけよ。その子、怖がってんじゃねえか」

「あ? ああ、ごめんごめん、俺、ほんとは優しい奴なの。今、ちょっと別人格が出ちゃっただけだからさぁ」

「厨二乙」

「ぎゃはは、マジ受けんな、それ!」


 どこに笑いどころがあったんだろう。感性が違い過ぎて、奴らの心情が読めなかった。


 笑い声をあげていた金髪は、ぴたりと声を抑えて、サクヤ達に気味の悪い笑みを向けた。


「で? 組んでくれんの?」


 こんな口説きがあるのか。自分本位で相手の気持ちを理解しようともしていない。


 ただ、俺と彼女達には大した繋がりはない。元々、なぜついて来たのかも聞いていないし、どういう目的なのかもわからない。


 好きにしろ、と言って同行を許した。ならば離れるのも自由だ。


 ふと昔を思い出した。


 友人と街中で遊んでいたら、友人の友達とばったり遭遇したことがある。俺は友人の友達を知らなかったけど、友人がその友達と仲が良かったのは知っていた。


 約束したのも、遊んでいるのも俺だ。しかし、その友人は「俺、あっちに行くわ、悪いな」と言って、友達のところへ行ってしまった。


 ちなみにまだ遊んで一時間くらいだった。友達と会うまでは、比較的楽しそうに話していたのに、裏切られた気分だった。ただ、彼の中では、俺は大して仲がいい人間ではなかったのだろう。俺が逆の立場なら、そんな軽薄で自分勝手な行動をとらない。けれど、そういう選択をする人間も少なくないのだ。


 人の行動にケチをつける気はない。それだけの関係だったというだけのことなのだから。


 俺一人、隔絶された場所から六人を観察している。そう思えばいい。

 そうすれば、どんな結果になっても気に病むことはない。


 サクヤは返答に悩んでいる様子だった。レベッカとニースを見ると、答えが出たらしく、顔を上げ、金髪を真っ直ぐ見る。


「無理だな」

「ええ、無理ねぇ」

「ご、ごめんなさいっ」


 ほぼ三人同時に言葉を並べた。

 俺は、思ってもみない状況に、呆気に取られてしまう。


「…………は? なんで?」


 金髪は瞬時に表情を変える。不服だといわんばかりに、眉を八の字にしている。声音は低く、恐喝一歩手前という雰囲気だった。


「こっちは四人だしねぇ」

「いや、だから、そっちのデブは放置すればいいじゃん!」

「放置する意味がわからんのだが。なぜ、そこまでしておまえ達と組まなければならんのだ?」


 飄々と言ってのけたレベッカに呼応するように、サクヤは首を捻った。まさか、本当に、なぜ金髪が俺を除外しようとしているのか気づいていないのか。


「いや、だって、そいつと一緒より俺達と一緒の方が楽しいじゃん? それにデブサイクといるより、俺達の方が見た目もいいっしょ?」

「そ、そんなことっ――」


 キッと金髪に睨まれ、ニースは委縮してしまう。こいつ、ニースには強気で出てもいいって思ってやがる。人によって態度を大きく変えるタイプだ。俺が一番嫌いな人間だ。


 なんだ? なんで俺はこんなにムカムカしてるんだ?


「別にいいじゃん? 放って置いて。理由なんていらないし、必要ないんじゃね? ほら、不必要な人間だからとか? いるよな、どこにでも。こいつみたいな奴。オタク系? みたいな。多分、引きこもりだぞ、あのデブ。なあ?」

「あー、たしかにクラスにもいるなぁ、アニメ好きでデュフフフッって笑う奴。オタクだけで集まっててさ、クラスメイトから距離置かれてるんだよな」

「そうそう、俺、いじめてたわ」

「マジ? おまえ、そういう奴? まあ、俺もだけどな」


 そしてまた笑う。嗤う。人を貶めて愉悦に浸る。


 彼らが特別なわけじゃない。こういう人間はどこにでもいるし、すべての人間に悪意はある。もしかしたら俺が少数派なのかもしれない。金髪達の行動は時として認められ、時として正しいと言われるのかもしれない。


 卑下されることには慣れている。大丈夫。俺は別に気にしていない。


 しかし、俺の拳は痛いほどに握られていた。SWの中でも、痛みを感じる程に強く。


「なにがおかしいのだ?」

「だって、受けるくね?」

「おかしくはないわねぇ」

「はぁ? もしかして、あれ? 私達はオタクに理解があるんですぅ、ニートや引きこもりには原因があって、本人は悪くないんですぅとかって思ってんの? いじめる方がわるくて、いじめられる方は悪くないんですぅみたいな? いやいや、違ぇから。そいつが悪いから」


 すごい思考回路をしているな、こいつ。

 俺がいつ、いじめられていたと言った? 引きこもりだと言った?


「ふむ、なるほど理解したぞ。つまり、会話が成り立っていないのだな」

「そうねぇ、なんだか外国人と話している感覚だわぁ」

「え、あ? そ、そうかも……?」

「は? なにを言って」

「そもそもだ。私も引きこもりだぞ。むしろSWプレイヤーは全員そうなのでは?」


 ん? サクヤはなにを言っているんだ?


「私も、ほぼこっちにいるかしらねぇ。あら、じゃあ私も引きこもりってことぉ?」

「あ! 私も! 私も引きこもりですっ!」


 ニースはここぞとばかりに、勢いに任せて手を上げた。そんなに嬉しそうに言うことじゃないだろうに。


 三人の心情がよくわからない。なにを考えているんだ?


「……そ、そうだとしても、別にそいつと一緒にいる理由にはならないんじゃね?」

「確かに、引きこもりっていう共通点があるからって、一緒にいる理由にはならないわねぇ」

「そもそもだ! あんたらあのデブとどんな関係なんだよ! どう見ても、釣り合わねえし、同情とかで一緒にいるんじゃねえの? それってこいつのためにならねえだろ?」


 今度は感情に訴えて来たぞ。手のひら返すの早すぎるだろ。


 同情、同情か。そうかもしれない。ニース達は俺に同情して同行しようと思ったのかもしれない。そうじゃないかと思っていた。けれどそれは違うように思えてもいた。多分、そう思いたかっただけなのかもしれない。


「ライバル、と言ったところだな」

「お得意様?」

「お、おおお、お、お友達……になりたいと思っている人……」


 呆気に取られた金髪は、あんぐりと口を開けた。そして我に返り、仰々しく身振り手振りで訴える。


「ライバルとか、お得意様とか意味わかんねぇ……なんだよ、付き合いが長いのか?」

「一週間だな」

「一週間かしらねぇ」

「い、一日……です」

「みじけぇ! そんなの顔見知り以下だろ! だったらそんな関係、さっさと切っちまえばいいじゃん! ま、まさかそのデブが好きとかじゃないよなぁ?」

「すすす、す、す好き、でで、ですか?」


 落ち着けニース。どもり過ぎて、妙なリズムを刻んでるぞ。

 わかってる。勘違いするほど、自惚れちゃいない。


「嫌いではないな。敵視していたが、中々見どころがあるとは思っているぞ」

「ノーコメントでぇ♪ あー、でも少なくともあなたよりは好きですねぇ」

「わ、わわ、私は、ですね、その、す、好きとか、そういうのとは、違う、うん? 違わない? 違う? んー、わ、わからないです」


 予想だにしない答えだった。

 俺も、金髪も現状を受け入れることが出来ずに、呆けてしまう。


 簡単なことだった。なぜ彼女達が一緒に行くと言ったのか。少し考えればわかることだった。


 仕事や役割で俺と一緒にいたリリィとは違う。自分の意思で俺とパーティーを組むと決めたのだ。だったら、少しは親近感を持ってくれていると思っても不思議はない。


 けれどそう思って、また期待外れだったなら、俺の心はまた傷ついてしまう。それが怖かった。そのせいで受け入れられなかったのだ。


 自暴自棄になっていたというのもあるだろう。素直に厚意を感じとれなかった。


 情けない話だ。ここまで三人が言ってくれたというのに、俺はまだ自分の価値を信じられない。足が動かない。金髪達を怖いと思っているわけじゃない。彼女達に拒否される方がよっぽど怖い。


「ということだ。私達は自分の意思でリハツと一緒にいる。だから、おまえ達と一緒に行く理由はない。もういいだろう? クエストに戻りたいんだが」

「そゆことぉ、じゃあねぇ」

「さ、さよなら。もう会わないと思いますけど!」

「は? ちょ、は? ま、待てよ」


 俺の元へ戻ろうとしたニースを金髪が止めた。グッと腕を掴んでいる。


「や、やめてくださいっ」


 ビービーとアラート音が鳴り響く。ニースの正面に赤いウインドウが出ていた。UIは他者には見えないはずなのに、あれはなんだ?


「セクハラだ。通報されてもいいのだな? ちなみに、下手をすればアカBANだ。それでもいいなら、続けるか?」

「ちっ、う、うぜぇ、マジうぜぇ、こいつら」


 金髪は憤りつつも、ちゃっかり手を放した。すると、赤いウインドウは消失した。あれは通報画面だったんだな。


「いや、俺はもう途中で無理そうだと思ってたけどな……」

「うっせんだよ、タダノリ! おい、ナルミ! 次どこ行きゃいいんだよ!」


 ナルミ? ミナルじゃなくて?


 ああ、アナグラムか。単純な偽名だな。


「ひゃ、ひゃい! あ、あの、そ、そこの奥にある民家に老婆がいるので、話を」


 少年はびくびくとしながら金髪に返答した。

 見ているだけで、気分を害する光景だった。


「おら、行くぞ!」

「あいよ」

「は、はい」


 金髪は俺達四人、一人一人を睨み付けてから村の奥へと向かった。バンダナもそれに伴い、周囲をきょろきょろ見渡しながら進んでいく。


「あ、あの、す、すみませんでした……」


 ミナルは一礼するとすぐに金髪達の元へと走り寄っていった。


 性格は悪いわけじゃないようだ。金髪達にパシリにされているように見えた。これから大変そうだ。せっかくのSWなのに彼は楽しめるんだろうか。


 金髪達は老婆から話を聞いたようで、また俺達を睨み付けると森の方へ行ってしまった。


 辺り構わず敵を作るような姿勢で、疲れないんだろうか。

 ぼんやりとそんなことを考えていると、ニース達がそばまで来ていた。


「さて、話の途中だったな。続きを聞こうか」

「あ、そろそろ時間ですね! ディスカースかけときますっ!」

「あ、ああ、ありがとう」


 俺は狼狽しつつ、ニースの厚意に甘えた。


 気分が落ち着かない。どういう顔をしたらいいのだろう。


 彼女達ははっきり俺と一緒にいると言ってくれた。単純に先にパーティーを組んだから、という理由かもしれない。それでも嬉しかった。


 少しは自惚れてもいいのだろうか。少しは好意を寄せられていると思ってもいいのだろうか。やはり言葉で伝えた方がいいのだろうか。


 しかし、どう言えばいい。彼女達は一緒にいる理由を具体的には言っていない。ただ、パーティーを離れる理由がないと言っただけだ。それにお礼を言うべきなんだろうか。


 こういう場合、どうすれば的確だと言えるのだろう。


「あのぉ」


 にこにこと笑うレベッカがおずおずと手を上げる。


「な、なんだ?」

「ちょっといい? リハツさんに言いたいことがあるんだけどぉ」

「あ、ああ。どうぞ?」

「はい、それではぁ」


 レベッカの笑顔が固まり、不穏な空気が流れる。


 まずい。これはなんだかまずい気がする。


「てめぇのパーティーだろうが! なんで一言も発しねぇんだコラ、ああん!? 女に任せて高みの見物かてめぇは!? それともなにか、自分に自信が持てねぇのか? 私達がなんでここにいるのか考えてみろや! 俺の仲間にちょっかい出すな、くらい言えねぇのかてめぇはよぉっ!? びびってたのか、あぁ!?」


 怖ぇ。すごい怖ぇ。


 完璧な笑顔なのに、声はアンダーグランドな人のようにドスが利いている。懐から拳銃とか出てきそうだ。


 笑いながら怒る人は初めて見た。これなら普通に怒られる方がマシだ。


「い、いえ、びびってたというか、そこまで自惚れられなかったというか……」

「てめぇの過去も性格も大して知らねぇがよぉ、現状見てみろや! この状況で自惚れねぇのならただのアホだろうが! 勘違いすんなよ、別におまえのことが好きなわけじゃねえからな! なんだてめぇその顔は、こらカスこらぁ! 人づきあい苦手なのは知ってんだよ、見りゃわかんだよ、こっちはよぉ。それでも一緒にいるってことわかってんのか、ボケアホカスがぁ。仕方ねぇ。フレンド登録してやっから承認しとけや! これで少しはムシみたいなネガティブ思考もマシになんだろうがコラァ! それといつも胸ばっかりみてんじゃねぇぞボケェ!」


 なんなの、この間違ったツンデレみたいな人。


「ほんまボケがぁ……送ったので、登録よろしくねぇ」

「………………はい」


 レベッカは怒らせると怖い、と記憶に刻み込んだ。


 見てはいけないものを見てしまった気がする。深く考えてはならない。俺の本能がそう言っている。


 世の中色々あるんだな、うん。


「なるほど、レベッカは中々、良い性格をしているようだな」

「あらぁ、褒められちゃったわぁ」


 サクヤの動じなさもすごいが、レベッカの先ほどまでのことはなかったかのような態度にも驚嘆してしまう。


 対してニースはあまりの出来事に固まっていた。気持ちはわかる。俺も、実は足がガクガク震えているからな。


「私もフレンド申請しておいた。承認してくれるか?」

「あ、ああ。もちろん……あ、いや、ありがとう」


 レベッカとサクヤからの申請を承認した。


 これでフレンドリストに三人の名前が載ったことになる。


 現金なものだ。勝手に落ち込んで、勝手に拗ねて、そして今度は勝手に前向きになりつつある。人との関わりで一喜一憂するのはやめるんじゃなかったのか。


 無理、なんだろうな。俺は。


 人に嫌われるのを極端に怖がり、人に好かれたいと思っている。拒絶されれば拗

ね、自己嫌悪に陥ってすべてを放棄しようとする。そのくせ、こうやって優しくされると嬉しく思ってしまう。


 それが俺なんだ。


「おかしな奴だな。礼を言うのはこちらだろう、申請した側なのだからな」

「いや、三人ともありがとう。それとごめん。俺がなにか言うべきだった」

「……私は別に気にしてはおらんがな。確かに、レベッカの言うこともわかる。私達はパーティーなのだから互いに助け、支え合うべきだろう」

「そういうことよねぇ、とりあえず今回は許してあげるけど、気を付けてねぇ」


 今回『は』なのか。……もう怒らせないように気を付けよう。


「あ、あの、私も助けますよっ! た、助けられてばかりですけどね……」

「ああ、ニースもありがとう」


 俺は笑った。自然に笑えた。込み上げる温かな感情の赴くままに。


 そうして心の中に漂っていた霧が少しずつ晴れていく気がした。


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