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セカンダリィ・ワールド RMT  作者: 鏑木カヅキ
グランドクエスト編
24/105

第二十二話 正規ルートと別ルート

 二時間ほどかけて、ようやくメリアの村に到着した。


 大気が淀んでいる。薄紫に染まっており、身体に悪そうだ。


 道中、敵とも何度か遭遇したが、ここら辺の敵はまだ弱く、ほぼ一撃で沈めることが出来た。大した起伏もない道のりだったので割愛する。


 村内は茅屋や、それに近い老朽化した小屋が数十ある。どうみても貧しい村だ。疫病が流行っていなくとも、それは変わらないだろう。


「なんだか陰気な村だな」

「そりゃそうでしょうねぇ。疫病が流行っているわけだしぃ」

「そうでなくとも、って意味だけどな」

「メリアの村はロッテンベルグから近いにも関わらず、主な事業は農業だけだからな。豊かにするのも難しいという設定なのだろう」

「設定ってことは、一応NPCがいるんだよな?」

「ああ、いるぞ。グランドクエストには基本的に、専用のNPCがいる。舞台はクエスト以外では立ち寄らないし、交易も出来ん」

「……もったいないな」

「リンクシステムからすれば大してリソースを割くことにはならんのだろう」


 しかしリリィは仕事を終えたいと言っていた。それはリソースの問題からだとも思っていたが、案外そうではないのかもしれない。


 単純に、一プレーヤーを優遇してはならないという命令だったのかもな。


「ここからはリハツが先導してくれ。初クエストだからな、経験者が口を出すのも野暮だろう」

「俺は別に構わないけど」

「リ、リハツさんがやった方がいいと思います! 私、あんまり覚えてなくてですね……」

「覚えてない?」

「あ、あはは、その、た、多分一杯一杯だったんだと思いますっ。それにかなり前のことですから」

「そ、そうか」


 性格的にわからないでもない、か。最初期に戦闘職して以降は職人専門だったわけだし。


「私も経験あるしぃ。じゃあ、リハツさんとニースちゃんのお二人で決めてくれればいいんじゃないかしらぁ」

「……じゃあそれでいいか」


 確認のためにクエスト概要に目を通す。


 概要   

 …ロッテンベルグの西にある、メリアの村で疫病が発生した。

  冒険者にはその解決を頼みたい。

  どうやら近辺の『黒魔女の森』に原因があるようだ。

  恐らく魔女の仕業だろう。

  どうかメリア村の人々を病から救ってほしい。

  メリア村の中には、冒険者の資質を見極める能力を持つ占い師もいる。

  村人を救えば、新たな可能性を見出すことが出来るだろう。


 文面で言えば、『黒魔女の森』に行くことは確定だ。大概は村で事情を聴いて、指定場所で目的を達成し戻ってから、ギルドに報告という流れになるものだろう。


「とりあえず、村の中を捜索、かな。探索で疫病になるのか?」

「ならんな」

「そうか。じゃあ、ニースと俺で見回るから、二人は待機で」

「承った」

「了解よぉ」

「俺は西側、ニースは東側を。何か見つけても、一応全部調べてから報告し合おう」

「わかりましたっ」


 レベッカとサクヤを置いて、俺とニースは手分けして一つずつ家を見回った。


 倒れているNPCを見つけ、近づき話しかけてみたりもしたが、誰もが呻き声を上げたり、助けを求めるだけで収穫はない。情報を持っているようには見えなかった。


 しばらくして、レベッカ達が待機していた入口に集合した。


「こっち側にはなにもないな」


 タンスとか調べてみたが、中には何もなかった。え? 犯罪? いいんだよ。プレイヤーの特権だからな。というか、犯罪系のシステムがあったらやってなかったと思う。


「こっちに話してくれそうな人がいましたよっ」

「そっちが当たりか。じゃあ早速話してみよう」


 ニースに案内して貰い、村人の元へ向かった。


 老婆だ。しわくちゃの顔を更に険しくしている。

 他の村人とは違い、比較的問題はなさそうだ。椅子に座りこちらを見ている。


 これはツッコむべきなんだろうか。なんで疫病が蔓延している村の中にいるんだよと。さっさと脱出しろと言いたい。


「この人ですよっ」


 タゲればいいのか、と思った時、老婆は勝手に話し出した。


『冒険者殿、お待ちしておりました、ひぇっ! 私はメリア。この村の村長であり、占い師です、ひえぇっ!』


 声をしゃくり上げるのが不気味だ。


「口調が、なんというか、変じゃね?」

「気にするな。よくあるキャラづけだろう」


 確かにキャラは濃いけど、落ち着いた話し方なのに、いきなりひえっ! とか言うと違和感があるんだが。


 しかし、まじまじ見ると、人間そのものだ。質感も、モーションも違和感がまったくない。


「NPCとはわかってるけど、リアル過ぎるな……」

「そうですねぇ。でもナビみたいに高度なAIじゃないみたいですよ」


 確かに、会話は一方的でこちらの反応を気にしていない様子だ。なのにじっと見つめてくるから、ちょっと気持ち悪い。


『この村は疫病に襲われ、村人の大半は死にかけております、ひえっ! 中には命を落としたものもおります。どうかこの窮地を救ってくだされ! ……ヒェッ!』


 涙ぐみながら俺を凝視する老婆。

 もしかして、なにか言わないとダメなのかこれ。


「そのつもりだけど」

『おお、おお! ありがたや……疫病を振りまいた者は恐らくは『黒魔女の森』におります。どうか、どうかこの村を、村人達をお救い下さいませ……ひぇ……』


 あ、最後ちょっと我慢した。


「なにこれ、すっげえやりづらいんだけど」

「そういうもんだからな。多少リアリティがないと、感情移入できないだろう」

「そ、そうか……」


 老人に、なにかを必死に頼まれることなんて現実には早々ない。

 他のプレイヤーは気にしていないんだろうか。


「私、がんばりますっ! お婆さん、安心してください!」

「私もやるわよぉっ! この鎧にかけて! モンスター共め……正義の鉄斧をその身で味あわせてやるわよぉ……くくくっ」

「すっごい感情移入してる二人がいるんだけど」

「プレイヤーの中にはたまにいるな。羨ましいではないか」


 淡泊組み二人と熱血組み二人がここに誕生した。

 ニースもレベッカも結構正義感強いんだな。


「会話は終わったみたいだな」


 状況はわかった。導線は引いてあるようだ。


 しかし、なんだろうか。どうも腑に落ちない。形容し難い違和感がある。


「うむ。では行くか?」

「行きましょう! 『黒魔女の森』へ行って黒魔女を倒しましょう!」

「ささっと、ばばっとボス討伐よぉ! 行きましょう!」


 勇んでいる二人と冷静なサクヤ。表情は違うが、どうやら意思は同じらしい。

 となると、そういうことか。


「ちょっと待った」

「なんだ? まだ何かあるのか?」

「経験者の二人に聞きたいんだが、この流れで森に行くんだよな?」

「ええ、そうねぇ、それでボスを倒して、終わりかしらぁ」

「最後はどうなるんだ?」

「……言っていいのか?」

「ああ」


 サクヤは一瞬迷ったようだが、すぐに答えた。


「老婆以外は死ぬな」

「ああ、結局、ボスを倒しても間に合わないんだ」

「プレイヤーの間では結構不評なのよねぇ。救いがなさすぎるって。中には違う結末があるんじゃないかって、色々調査した人もいたみたいだけれど、結局見つからなかったみたい。最終的にこの流れが正規ルート、というのが多くのプレイヤーの見解みたいねぇ」

「そうか。じゃあ次の質問だ。報酬の最後に『他』って書いてるよな、これはなんなんだ?」

「その部分に気づいたからこそ、別ルートがある、って考えたみたいねぇ。でも実際は、ボスがドロップする強化石のことなんじゃないか、って言われてるわよぉ」

「ギルドクエストを達成した時に貰えるわけじゃなくて、ドロップだろ? それはおかしくないか」


 こじつけのような気もするし、それが正しくも思える。


「そうねぇ。でもそうとしか思えない、との結論が出たのよねぇ。実際なにもなかったわけだしぃ」

「私も特に気にしたことはなかったが……言っておくが、私はギルド員だが、クエストの詳細に関しての情報は知らん。一プレイヤーに過ぎんからな」


 サクヤを頼りにすることは出来ないようだ。言われれば当然だな。プレイヤーにシステム側の情報を漏らしてしまうのは問題がある。


 これだけじゃよくわからないな。もう少し探る必要性があるようだ。


「ところで概要を見てなにか気づかないか?」


 俺が言うと、みんなクエストの概要を見返している様子だった。


「特に問題はなさそうだが」

「なにもないと思うけどぉ?」

「な、なにかあるんですか? あるんですね!?」


 キラキラと瞳を輝かせているニース。ずいっと俺に顔を寄せて来る。

 なんでこんなテンションになっちゃってるの。


「あ、ああ。個人的な見解だけど、どうも『恐らく』とか『ようだ』『らしい』とかの文章が多いし、これよくよく見ると、魔女を倒せって書いてないよな? 具体的になにをしろとは言われてない。村人を病から救えとは書いてるけど。『黒魔女の森』に原因があるらしい、ってだけで。魔女の仕業だろうって部分も、恐らくって言葉がついてるし」

「つまり、魔女を倒すことが目的でない、と?」

「そうかもしれないって思っただけだ。魔女を倒してもクエストクリアになるのは、老婆は生き残って、疫病が止まったからじゃないか? でも止まった原因は魔女を倒したからなのか、或いは作為的に止められたのかは定かじゃない。このクエスト、目的は二つあると思う。一つは疫病から村人を救う。もう一つは占い師を救う。この場合の占い師が老婆かどうかはわからないけどな。雰囲気からして老婆が占い師っぽいけど」


 魔女を倒したことでクエストクリアになる。そしてそれが正規ルートだと多くのプレイヤーは納得している。この二つから考えると、魔女を倒せば疫病は止まった、と考えるのが妥当だ。


「考え過ぎではないか?」

「筋は通っているように思えるけどねぇ。そこまで深読みしなくていいとも思うわねぇ」

「俺もそう思うけど、気になるんだよな。一番気になるのは他の部分だけど」

「ほ、他の部分!? まだなにかあるんですか!?」

「ちょっとニース近い。どうして興奮してるんだよ」


 ニースははっとした表情になると、恥ずかしそうに顔を赤くし俺から離れた。


「す、すみません。こういう謎的なことを発見すると、ドキドキするというか。他の人はここまで気づいてなかったんじゃないかって思ったので」

「どうだろう。これくらいは気づいているような気はするし、あえて無視したのかもしれない」

「で、その一番気になる点というのは、なんだ?」


 サクヤは興味深そうにしている。


 呆れている様子はないところを見ると、一応俺の話は的外れというわけではないのだろう。


「疫病ってどうやって発生したんだ? クエスト中に示唆する場面とかあったか?」

「……どうだったか、なかったように思えるが」

「なかったと思うわよぉ。みんな魔女の仕業だって思ってて、魔法か呪いかなにがしかの方法で疫病を蔓延させたって想像してたしねぇ。ただ……うーん、そう言えば、リハツさんの説明を聞くと、魔女との会話で気になる点があるようなぁ」

「どんなのか思い出せるか?」

「……うーんと、んんんっ! 忘れちゃったぁ」

「そ、そうか。多分問題ないと思う。俺の考えが正しかったとしても、魔女に会うのは最後だ。ある程度の情報や証拠を集めて、結論を出した上で魔女に会えば、違った展開があるかもしれないな」

「違った、展開ですか!?」

「お、おう。もしかしたら、だけど。ただどうしても気になるんだよな。SWはゲームを基盤にして現実的な部分が多い。けどゲームとしての体裁を保ってる。多分、現実と非現実を混同させないようにって考えなんだろうけど、それなら特に思うんだよな。なんともお粗末な内容だって」

「確かにそうかもしれん。私はこれが当たり前と思ってはいるが、当初はみな当惑していたわけだしな。改めて、先入観なしで考えればわからないでもない……もし、他のルートがあるのなら知りたいとは思う」

「私も見たいわねぇ。お手伝いするわよぉ?」


 三人共協力してくれるらしい。


 このクエストを最後に俺はゲームをやめるつもりだ。だからこそ最後くらい手抜きをしないでプレイしようとも思っている。


 それに気になってしまったら、解消しなければ気分が悪い。


「それでどうしたらいいんだ?」

「まずは疫病の正体からだな。現実なら、疫病は死体とか動物が発生源の場合が多い。土とか植物などの自然物の場合もあるな。他にも色々あるけど、SW内なら多分こんなところだろ。人為的なら水源とか畑が汚染されているかもしれない。広範囲なら自然発生が考えられるけど、局所的だからな。クエスト内容から見て、作為的と考えるとそこらへんだな。単純に魔法かもしれないけど、一先ずは調べてから、ってのが妥当か」

「ほう」

「へぇ、そうなのねぇ」

「リハツさん、頭いいんですね!?」

「いや、聞きかじった程度だから、正直曖昧だ。とりあえず、村の中を調査する方がいいだろうな。井戸と畑をレベッカとサクヤ。俺とニースはさっきと同じ場所を改めて調べよう。今度は疫病の発生源を念頭に置いてな」

「しかしどうやって見極めたらいいんだ? 通常は分析するのだろう?」

「村内を見た感じ、疫病が蔓延しているというエフェクトがかかってる。だから、発生源はより濃くなってるんじゃないか? ただここまで村とその周囲を汚染しているということは、見てわかる場所にないかもしれない。例えば地面の奥深くとか、地下水の上流部分とかかも。とりあえずは村の中を調べよう。見つからなかったらまた考える」

「了解した」

「おまかせあれぇ」

「やりますっ! やりますよ!」


 三人ともやる気があるようだ。意欲的に取り組んでくれるのは嬉しいが、どうもニースの勢いがあり過ぎて、普段とのギャップが凄い。


 そして、各々の担当場所を調べ始めた。

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