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セカンダリィ・ワールド RMT  作者: 鏑木カヅキ
グランドクエスト編
23/105

第二十一話 男心と青春マインド

 これはなんの冗談だ。


 サクヤが半ば強引に仲間になり。レベッカが半ば強引に仲間になり。今度はニースに会うなんて。


 一週間連絡をとっていなかったため、多少気まずい。


 だが、もう一々他人の心証なんて気にするつもりはない。そんなのは無駄な労力だ。


「ニースか」

「こ、こんにちは! お出かけ、ですか?」

「ああ。グランドクエストに行こうと思ってな」

「そ、そうですか……?」

「なんで疑問形なんだ?」

「あ、いえ」


 ふるふると首を横に振るニース。


 そう言えば今日の装備は前と違っている。もこもことしたフードつきのローブで、下はフリルのスカートを履いている。以前よりも、よりファンシーになった気がする。


「また女の子なのねぇ」

「リハツは、意外に女たらしなのか?」

「俺の外見をしっかり見てもそう言えるのなら、眼科に行くことを勧める」


 冗談にしたって性質が悪い。


 しかしこうも時間をとられてしまっては、クエストを終えるのがいつになるのかわからない。早く達成して、楽になりたいんだが。


「じゃあ、俺達は行くから」

「あ、ええ、はい……」

「気のせいかな。私はまた、でじゃぶを感じるぞ」

「私もよぉ。なんかこの後、予想通りの展開になりそうな気がぁ」

「なにをこそこそ話してるんだ。さっさと行くぞ」


 なんとなくイヤな予感がする。虫の知らせか。

 俺達はシルフィー通りを抜け、南西門へと向かった。


「あら、当てが外れたみたいねぇ」

「そう、だな。しかしいいのか、あの娘。寂しそうにお前を見ていたが」

「知らねえよ。どうでもいい」

「……そうか」


 固定を断った相手だ。今更何を言えばいいんだ。それに連絡をしていなかったし、もうフレンドという間柄でもなくなっているだろう。顔を知っている程度、そんな関係性だ。


 別に構わない。このクエストが終われば、俺は一人になる。


 誰とも関わらない。もしも会話があっても、俺を傷つけることがない。最低限のものだろう。あの場所にいた人達は俺の気持ちをわかってくれる。


 そう考えると、足取りが軽くなった気がする。


 メリアの村はロッテンベルグから西だから、南西門から出れば、比較的近いだろう。実際マップにないし、どれくらいの距離があるかはわからない。


 二人に聞くか。


「そう言えば」

「あの!」


 聞き覚えのある声、むしろさっき聞いた声に、俺は憮然と振り向いた。


「わ、私も一緒に行ってもいいですかっ?」


 マジかよ。マジカヨ。


「だ……だめですか」


 俺の顔を見て落胆するニース。どうやら忌避感が顔に出てしまったらしい。


 別にニースがどうとか言うつもりはない。悪い子ではないと思う。ただ、面倒だし、もうすでに面倒が二つある。


 しかし断るのは、難しい。先の、レベッカの参加を断れなかったのと同じ理由だ。


 待てよ。そもそもこれが最後のクエストなんだ。だったら、そこまで気にする必要もないのではないだろうか。


「まあ、いいけど」

「本当ですか!? よかったっ!」


 相好を崩すニースだったが、なぜか周囲にパステル調のエフェクトが出ていた。


「で、ではパーティーに誘って貰えますか?」

「あ、ああ。そう言えばまだ組んでなかったな……ついでに二人も誘う」

「了解だ」

「はいはーい」

「私はサクヤ・カムクラだ。ラーメンが好きだ」

「レベッカ・タブリスよぉ。好きなものはぁ、色々かしらぁ」

「ニース・ホワイトですっ。す、好きなものはおいしいものですっ」

「あらあら、可愛いわねぇ。この娘」

「い、いえ! そ、そんな」


 女三人寄れば姦しいとは言うが、本当だな。もう少し落ち着いて話せないんだろうか。


 三人をタゲって『パーティーに誘う』と選択した。

 すると、画面左上に三人のゲージが並ぶ。すぐに参加を認証してくれたらしい。


「ニースは回復アイテムは持ってるか?」

「は、はい、一応持ってます」

「そうか。パーティー戦はよくわからないから、レベッカとサクヤに先導して貰うことになるけど、いいか?」

「ふむ、いいだろう」

「サクヤちゃんにお任せぇ。私はどちらかと言えば、自由奔放なスタンスだしぃ」

「いや、そこはコンビネーションが大事だから自重しろよ」

「わかってるわよぉ。大丈夫、だいじょぶ!」


 不安だ。不安しかない。


 このパーティー大丈夫なんだろうか。


 タンクはレベッカ。重鎧戦士。

 アタッカーはサクヤ。侍。そして俺。見習い冒険者。

 ヒーラーはニース。僧侶。


 俺だけ初期ジョブか。別に気にならないけどな。


 バッファーがいないけど、最初のクエストだし四人で十分だろう。フルパーティーなら六人。タンク一人、アタッカー三人、バッファー一人、ヒーラー一人が基本だが、目的によってはヒーラーを二人にしてアタッカーを減らしたりするようだ。


 とにかく今回は四人で行こう。これ以上、増やしたくない。


「あら、ニースちゃんじゃなぁい」


 もうやだ。ほんとやだ。


「あ、パンドラの店主さん!」


 煌びやかな私服だが、絶望的に容姿が浮いている。視覚的暴力だこれは。人間という動物は理知的なものだ、しかしこの目の前にいる生き物は違う。本能の赴くままに、着飾っているとしか思えない。


 ふと思い浮かんだのは孔雀だった。

 俺はもう我慢の限界だった。フルスロットルであった。


「もう行くぞ!」


 駆け足で門へと向かう俺。


「お、おい、待て」


 焦ってついてくるサクヤ。


「あらぁ、走るとガシャガシャ音が増しますぅ」


 鎧の金属音をかき鳴らしながらレベッカも追従する。


「あ! ま、待ってくださいリハツさん! ごめんなさい、店主さん、またお店行きますね!」


 ニースは店主に向かい、礼儀正しくぺこりと頭を下げて、俺を追う。


「あらん、つれないわねぇ。あの男の子ぉ♪」


 そんな声がぎりぎり鼓膜に届いてしまった。そんなの届けるな!

 こうして俺達は慌ただしく、街を後にした。


   ▼


 サクヤの先導の元、俺達はロッテンベルグから西へと向かった。


 見渡す限り平原だったが、遠くの方でささやかな緑が彩っている。あれは森だろうか。


「あそこに見えるのが『黒魔女の森』だ。そう遠くはない。徒歩でも二時間くらいで着くだろう」

「馬車的なものはないのか」

「ある。ただ料金がかなり高い。馬車は基本的に商いと流通を並行にして使う方が儲かるからな。交通手段としての商売は割にあわない。商売に便乗して乗せて貰うなら安いかもしれんが。基本的には、自分で馬を育てるか、モンスターテイマーにでもなって大型ペットを育成するかしないと無理だな」

「そうか……」


 どうせ、このゲームを続ける気はない。

 今回限りだし我慢することにしよう。


 ズンズン先に進むサクヤを追い、俺達は西へと進んだ。

 青空とちぎれ雲が旅立ちを祝している。爽快さはあるが、気分は晴れない。この時間が早く終わって欲しい。


「あ、あのリハツさん」


 ニースが恐る恐るといった感じで俺の隣に並んだ。


「なんだ」

「リリィさんはいないんですか?」

「……さあ。宿屋にでもいるんじゃないか。どっちにしても転職すればいなくなるけどな」

「そ、そうですか」


 会話は終わったと思っていたが、ニースはまだ何か言いたそうに俺にちらちらと視線を送ってくる。


「……なんだよ」

「い、いえ。その、いいのかな、って」

「だからなにが」

「わ、私と組んで、リリィさん怒らないかなって」

「ああ、それか。あいつが怒ろうがどうでもいいし、そもそも固定を組むのに反対していただけで、短期的に組むのには賛成していたからな。どっちにしても問題ない」

「……あ、あの……ごめんなさい。怒らないでほしいんですけど、ケンカ、したんですか?」


 あれがケンカと言えるのだろうか。


 俺が一方的に親しみを感じて、空回りしていただけだ。ケンカにもなっていないだろう。


 俺は胸中に渦巻く感情の正体が、自分でもわからなかった。


「ケンカはしてない、かな」

「そうですか……その、お二人は仲が良さそうだったので」

「仲が良い?」

「え、ええ。私のナビはもっと事務的というか、感情とか人格はあったと思いますけど、壁があった感じで。お別れの時も淡泊だったかなと思います」


 ナビによって性格が違うのか。どうせ消えるのに、そんなことをするのはなぜだろう。単純に、使い回しをよしとしなかっただけなのか。確かに、SW内を見るとそんな手抜きをするようには思えない。


「なになにぃ、何の話ぃ?」


 レベッカがガシャ音を鳴らしながら話に入ってきた。


 もしも、俺が自然に会話に入るならば鉄の心臓が必要だと思う。レベッカは単純に気にしてもいないんだろうが。


「レベッカさんはナビとどんな感じでした?」

「うーん、普通? 説明してくれて、色々気をまわしてくれて。最後は頑張ってぇ、みたいな感じで別れたかしらねぇ。ちょっと寂しかったけど」

「ちなみに私は、ラーメンのうんちくを語ったら、距離を置かれた」

「サクヤさん……」

「ラーメン好きなのねぇ……」

「構わんのだ。同志は中々見つからないものだからな。なんとなく、リハツには同じ匂いを感じるが」

「残念だけど、食べ物が好きなだけだ。ラーメンはその一つに過ぎない」

「そういえば、カレーについて語ってましたねっ」

「好物の中でも上位だからな」


 この会話なんなんだ?


 別に無言でもいいのに、わざわざ雑談する意味があるんだろうか。

 内心辟易としていたが、話を振られては無視するわけにはいかない。


「話は戻るけどぉ、リリィちゃんは今日いないのぉ?」

「だから宿屋にいるだろ」

「……ふぅん、なるほどぉ」


 三人が納得した風に頷いたりしていた。


 一体、なんだってんだ、こいつらは。


 そもそも、なんでぞろぞろとついて来ているのか。その理由も聞いていない。

 手伝いのつもりか。それとも単純に俺を憐れんでいるのか。


 しかしそれにしては、レベッカもニースも参加して来たな。ということは同情じゃないのか? なにか他に目的があるのだろうか。


 色々考えた結果。答えは出ないし、不毛だと結論を出し、思考を停止した。


 気に病む必要もない。それだけがわかれば十分だった。

 

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