第十九話 デジャブ?
店内に入ると、レベッカが出迎えてくれた。
「いらっしゃいませぇ!」
「ども」
「あら、リハツさんじゃないですかぁ。今日はどうしたんですか? 研ぎですか? 出来ればそろそろ商品を買ってくれるとありがたいんですが、それにその服、そろそろ交換してもいいんじゃないですかねぇ」
「入店からのマシンガントークはやめてください」
「あら? うーん……」
俺を見て、思案顔をするレベッカ。スタイルが良い上に、容姿も端麗だから絵になる。そして胸は大きい。
なんだろうか、今の状況になんとなく既視感を覚えてしまう。
「なんですか?」
「いえ、あら? お連れの方は?」
「申し遅れた。私はサクヤ・カムクラ。ラーメンが好きだ」
「ということはその名前は!」
「しっ! それ以上言ってはならん。大人の事情があるからな」
「そうですね。私もそれくらいは理解していますよぉ」
俺は二人の微妙なやり取りを無視して、店内を見回った。前もって幾つか狙っていた装備がある。まだ売れてはいないようだ。
「防具はこっちのリエムル装備一式と、武器はカーディナルナイフを」
「はいはい、ありがとうございます」
棚に並べられている防具と武器を手に取ると、レベッカは受付へと回った。
「今装備しているものはどうします?」
「ハンティングナイフは一応持っておきます。防具はいりません」
「はいはい、じゃあ買取しますね。えーと、買い取り分を引いて、84000ゼンカですねぇ。おお、結構しますねぇ」
レベッカに取り合わずに会計を済ませた。
一週間貯蓄していたし、これくらい安いものだ。
「あら、きっちりお金貯めてたんですね」
「ずっと納品クエストしていたからな。イエロースライムジェルの、な?」
「……ああ」
やっぱりこいつ根に持ってやがる。
別に気を許すつもりはない。ただ寝首をかかれることのないようにするだけだ。PKエリアじゃなければいいが、もし『黒魔女の森』ではPK出来るのなら受けて立つだけ。パーティーメンバーを攻撃は出来ないが、自ら離脱した後に殺すことは出来る。
購入すると同時に、俺は薄着になった。
うん。下着姿とかじゃなくてよかったな。別に見られても困りはしないけど
受け取った防具と武器を思考操作で所持品に入れ、早速装備した。
装備
・右手 カーディナルナイフ(耐久度50/50)
・左手 なし
・頭 リエムルヘルム
・体 リエムルメイル
・腕 リエムルアーム
・脚 リエムルタイツ
・足 リエムルブーツ
・アクセサリー なし
ステータス
・HP 493→882
・MP 20→28
能力値
・STR 24→30
・VIT 18→35
・MND 4→6
・INT 3
・DEX 16→20
・AGI 21→25
こんなものか。結構上がったな。
しかしこの装備。見た感じ細めだったけど、体格に合わせてサイズが変わるようだ。防具はずっと初期装備だったから少しは不安だったけど、問題はないらしい。
リエムル装備はリエムル鉱という一般的な鉱石を使っている。青鉄とも言われ、鉄を薄ら青くした見た目をしており、結構お洒落だ。
軽鎧に相当し、かなり軽い。覆っている部分は胸と腹、肘、甲と腕、太ももとふくらはぎから下といった感じだ。悪くない。
ただ見た目は似合ってはいないだろう。正直、今はどうでもいいと思っているけど。
「似合ってますねぇ」
「お世辞はいいです。それじゃ。行くぞ」
「あ、ああ」
次は道具屋で回復アイテムを買わないといけない。面倒だが、念のためだ。失敗してまたメリアの村に行くのは勘弁願いたいからな。
「あのぉ」
店を出ようとした時、レベッカから呼び止められた。
「なんですか?」
「あ、いえ、なんでも」
「……そうですか」
意味がわからん。
気のせいか既視感がある。なんだこれ、今日はなんなんだ?
イヤな予感しかしない。とにかくここからおさらばしよう。
「あ、あのですね」
「だからなんなんですか!」
「いえ、うーん。そうですねぇ。よし! 私も一緒に行っていいです?」
「はぁ? あんたなに言ってるんだ?」
ん? おかしいな。これはやはり見たことがある光景なような気が。
「ダメですかねぇ? こう見えて、戦闘職はほとんどやってこなかったので、スキル値はほとんど変わらないと思うんですがぁ」
「……おい、なんか見たことがある展開な気がするんだが」
「ふむ。奇遇だな私もだ」
「で、どうですかねぇ?」
「はぁ、好きにしたらいい」
「ありがとうございますぅ! じゃあ、準備して来るのでしばしお待ちを!」
シュビッと手を上げて、颯爽と奥へと引っ込むレベッカ。
そして俺は嘆息する。なんなんだ、これは。どうなってるんだ。
「ふむ、察するに女店主とそれなりの付き合いがあるようだな」
「あ? ああ、どうだろうな。一週間くらい? 毎日来てるような」
「そうか。それでは一緒か」
「なにがだ?」
「いやなに、こっちのことだ」
そうして数分待たされた。
俺は早急にこのクエストを終わらせたいのに、なんの因果でパーティーを組むことになったんだ。
しかしサクヤと組んだ手前、レベッカの誘いを断るのは気が進まなかった。言い方は悪いが、仲間外れにしたような感じがある。俺が一人だったら、断っていただろうが。
発端はサクヤだ。反骨精神というか反発心というか、誘いを受けた時、妙に好戦的になってしまった。あれがいけなかった。
後悔先に立たずだ。もう後には退けそうにない。
「おっまたせしましたぁ!」
ガシャガシャと金属音を鳴らしながら現れた鉄の塊に、俺とサクヤは呆気に取られてしまう。
「なんだこれは」
「フルプレートよぉ! いやあ、実は、タンクをしようしようと思っていたんだけどぉ、希望の防具が出来なくてぇ。最近やっと完成したのよぉ、それで試したいとうずうずしてたってわけぇ。でも、タンクの経験はほぼないけどね!」
レベッカのステータスを見てみた。
レベッカ・タブリス。ジョブは、重鎧戦士か。
武器は斧。これは重厚感にロマンを抱いているということなんだろうか。
いつの間にか口調が変わっているし……俺もか。
「さて行きましょう! MOBをぶっ殺してやりましょうね!」
「あ、うん。行こうか」
「う、うむ。そうだな」
俺達は店を出た。
「ちょっと待ってねぇ。戸締り戸締りっと」
無骨な鎧を身に纏い、家の鍵をしっかり締める。
なんだろうな。後ろから見るとマスコット的に見えなくもない。
あれだな。多分鎧が角ばっているわけじゃなくて、曲線を描いてずんぐりむっくりしている感じだからだろう。
「ささ、お待たせしたわねぇ。行きましょう!」
「なんかテンション高いな」
「血がたぎるわぁ。実は私、戦闘好きなのよぉ。でも装備が中々完成しなくて、仕方なく毎日毎日鉄を叩き、研ぎ、商売をして、という生活をしていたのよねぇ」
「……深く追求しないでおこう」
「私もそれがいいと思う」
そうして俺達は次の目的地、道具屋へと向かった。