第十五話 あれから一週間……
翌日から、俺の戦いは始まった。
朝八時に起き、朝食を摂る。その後、フィールドに出るとイエロースライムを狩る。昼食を摂り、また狩りを続ける。武器の耐久度が下がれば、レベッカさんのところに行き研いでもらう。
イエローイエローイエロー!
ふおおおお、イエロー! 目がチカチカする!
失礼。
そしてその後、冒険者ギルドへ行き換金し、浴場『俺の湯』へ行き沐浴。『小鳥亭』に帰って作業後に就寝。これが俺の一日の流れだ。それを一週間続けた。
規則正しすぎる。なんて規則正しいんだ俺は!
現在夕刻。いつも通りのスケジュールをこなしている。普段は大体夜九時くらいまで狩っているからもう少し続けることになるだろう。
その結果、俺の今のステータスはこうだ。
名前
・リハツ
種族
・人間
ジョブ
・見習い冒険者
サブジョブ
・なし
称号
・ぷにぷに好き
所属ギルド
・なし
装備
・右手 ハンティングナイフ(耐久度50/50)
・左手 なし
・頭 なし
・体 見習い冒険者の服
・腕 なし
・脚 見習い冒険者のズボン
・足 見習い冒険者のブーツ
・アクセサリー なし
所持金
・1,154,400ゼンカ
ステータス
・HP 188→493 ・MP 20
・SP 100
能力値
・STR 13→24 ・VIT 10→18
・MND 3 →4 ・INT 2 →3
・DEX 7 →16 ・AGI 8 →21
スキル上昇
・腕力… 5.2 →18.0 ・脚力… 7.0 →21.1
・体力… 6.0 →19.0 ・視力… 1.0
・聴力… 0.5 ・短剣… 10.3→31.3
Aスキル
・強撃 練度…210
・スラッシュ 練度…149
・バイパーエッジ 練度…91
・サークルストライク 練度…45
効果上昇スキル
・短剣装備時攻撃力+10%
称号や新しいスキルが追加されている。
視力や聴力がなにを意味するのかよくわかっていない。ただ上がりにくいということだけはわかっている。
新たな称号を手に入れたのだが、「イエロースライム倒しても称号手に入らないって言ってたじゃないか!」とリリィを責めたら「スライムハンターって称号がないって言っただけじゃない」とあっけらかんと言われた。不親切すぎる!
え? 装備が変わってないって?
だってもったいないし。イエロースライムだけなら別に武器だけでもいいからな。
そして今日も俺はイエロースライムを狩る。
「ほりょっ!」
キレのある咆哮と共に繰り出される『バイパーエッジ』。毒々しいエフェクトがイエロースライムを覆うと、毒の継続ダメージが入る前に倒れてしまった。
「一撃か……まあ、そりゃそうか」
俺は強くなり過ぎた。今ならゴーストさえ倒せてしまうだろう。
虚しい気分だ。強くなり過ぎた人間の、虚無感ってのはこんな感じなんだろうか。
『ねえ』
「……今、いいところなんだ。丁度、渋めのBGMを脳内で再生した」
『どうでもいいけど、まだ続けるの?』
「なにを?」
『だから、イエロースライムばっかり倒してさ。素材集めすぎでしょ。最初は二百個くらいだったのに、今は一日の収穫が千個超えてるわよね?』
「うん、だから?」
『いい加減転職しろっての!』
「それはいただけないな。俺にはまだやることがある!」
『一週間ずっとイエロースライムを狩るのがやることなの?』
「それは布石だ! 大事をなすには、必ず人をもって本となす、という言葉があってだな」
『意味わかんないんだけど……あたしさっさと仕事を終えたいのよね。もう、最低限教えることは教えたし』
リリィの何気ない言葉に俺の心はささくれ立つ。
それではまるで、俺に関心がないみたいじゃないか。ないんだろうけど、わざわざ言わなくてもいいだろ。
リリィはこういう言葉をこの一週間で何度も言った。確かに彼女の立場からすれば、仕事を終えているのに引き留められているに過ぎない。
それでもなんというか、もう少し別れを惜しんでくれてもいいじゃないか。こんな大したことないみたいに言われると、虚しい。
「……帰るか」
『はいはい、じゃあそろそろ転職するの?』
「いや、まだしない」
『……はぁ』
リリィの嘆息に、俺は苛立ってしまう。
なんかあれだな。俺の引っ越しが決まっているのに、まったく気にしていないし悲しんでもいないクラスメイトを見る感じ。こっちは寂しいのに、あっちは別に大したことじゃないと思っているあの空気だ。
一方的に信愛や友情を感じる、というのは中々心にくるものがある。
リリィはNPCだ。だから人間と同等に扱うのもおかしいのかもしれない。
俺が感じている思いも、もしかしたらそういうのとは違うのかもしれない。
正直、迷っている。けれど選択肢がなければ光明は見えない。だから俺は可能性を模索した。それだけのことだ。
あれからニースには会っていない。リリィのことで手が一杯というのもあるが、俺からは連絡する覚悟がなかった。
ニースも連絡しづらいんだろう。あっちからも連絡はない。
こうして次第に疎遠になるという経験は何度もある。慣れたものだ。誰にでもあり、俺にもある。それだけのことで、気に病む必要はないのだろう。
やっぱり寂しいけど。
そんな思いを胸に、俺達はロッテンベルグへと戻った。