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セカンダリィ・ワールド RMT  作者: 鏑木カヅキ
チュートリアル編
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第十四話 初日の終わりに

「まずはこの世界の経済情勢を話しましょうか」

「難しいのは勘弁して貰えませんかね」

「簡単に説明するわよ……お金、ゼンカを得る方法は三つ。一つ目はシステムから引き出す方法。これは冒険者ギルドの報酬とダンジョンの宝箱から出るゼンカのことよ」

「それだけなのか」

「ええ。ただSWのサービス開始時は冒険者ギルドのお店もNPCがやってたの。だから今みたいにプレイヤー主導のシステムじゃなかった。ゼンカはシステムから引き出す方法が主流だったわけだけど。今はその二つしかないわ」

「インフレとかデフレとか起きそうだな」

「起きない。リンクシステムが経済状況を見ているから、状況に応じて報酬額とかアイテムドロップ率とかを調整しているから。今のところ経済破綻の兆候はないわね」

「二つ目は?」

「プレイヤー間取引ね。アイテム販売、管理費、住宅の家賃、手数料、サービス料などなど。稼ぐ方法はいろいろあるわ。賭博もあるし……一応、その、成人向けのも」


 俺の耳は聞き逃さなかった。


「ほほう? ほーう? 具体的に、成人向けというの説明してくれるかね?」

「じ、自分で調べたらいいでしょ!? バカ!」


 ちっ! 女の子の口から卑猥な言葉を聞くのがいいんだろうが。

 しかしこの場合リリィはAIだ。つまり俺はAI萌えの扉を開こうとしているのか。


 それはないか。


「と、とにかく次にいくわよ! 三つ目は課金!」

「課金、あるんだ……」

「あるわよ。ハイブリッド型の課金制度だから。ただPAY TO WINじゃないわ。短期集中型じゃないからあたりまえだけど。課金出来るのは一種類、現金をゼンカに出来るってだけ」

「それだけなのか? それだったら誰も課金しないような」

「初期費用が莫大だから、案外課金する人が多いのよね。しかもそれなりに資産がある人だから」

「ぽんっと五百万払う人間はそうそういないもんな……」


 ということは、だ。ニースもレベッカさんも払ったということになる。あれか。実家が金持ちとかそういうことか。


 俺の家は中流家庭だ。はっきり言って、五百万を出せるとは思わなかった。それ自体もまだ疑っているけど。


 引きこもりの息子に救済プログラムを受けさせるために苦肉の策として、払ったということは理解出来る。しかし普通はプレイするためだけに払うんだよな。


 俺が裕福だったら……払うかもしれないな。それだけこの世界は魅力的だ。他に仮想現実を提供している企業がないということも理由だが。


「プレイ出来るだけじゃなくて、健康も保証されているし、ダイエットも出来るしね。実際考えてみて、三年で人間が生活するためにかかる費用。それを考慮すれば決して高くないのよ。医療費も入っているしね。いざとなれば無料で治療を受けられる。と言っても、SWをプレイ出来る人は病気や持病がない人だけど。一部を除いてね」


 五百万を三年と考えると、一か月十三万九千円くらい、か。普通に暮らしていたらこれくらいかかるんだろうか。しかもこの額にはSWプレイ料金とか、クレイドルの使用料も入っているわけで。


「ちなみに、貨幣レートは100ゼンカで一円ね」

「……俺の所持金四百二十二円ってことか、うーん、六時間近く狩ってたのにな」


 時給七十円以下。おい、ひどいなこれ。


 だけど従来のネトゲとかを見ると、かなり良心的だ。数か月で数百円分の有料ポイントしか得られないことも多いし、むしろ有料ポイントをゲーム内で稼ぐ方法がないケースの方が多い。


「あんたは初心者だからそれくらいだけど、レイドに参加したり、高難易度ダンジョンを探索したりすれば、戦闘職でもかなりのゼンカを貰えるわ」

「どれくらい?」

「100mとか」


 mは百万。つまり一億!? 日本円で百万円!


「マジっすか」

「そこまでいくのはかなり大変だし、相当な規模だから数か月かかるだろうけどね。けどやり方によっては、現実の会社員より稼げるし、一握りの人間は年収数億、数十億とか稼いでるって噂よ。ゼンカじゃなくて、円でね」

「雲の上の話だな」

「そこまでいくには、根気と努力と素質とコネとアイデアと運が必要だから。あんたは高望みし過ぎない方がいいわ」

「だな……でも、ゲームをしていて稼げるのか」

「ゲームは遊びじゃない、って人もいるくらいだしね。真剣に、それこそ人生をかけてやってる人もいる。ただそれで現実も潤うんだから、その人にとっては理想なんでしょ。社会的にも認められつつある一面もあるから、世間的にも家族的にもWIN WINじゃない?」

「ん? 待てよ。ゼンカを日本円に変えることは出来るんだよな?」

「出来るわよ。いわばRMTね。公式で認められてるし、公式から換金出来るわ。元々違法じゃなかったしね」

「まとめると、俺は1gゼンカ稼がないといけないのか」


 1gは十億ゼンカ。

 おい、無理じゃね、これ。


「そうなるわね」

「今日一日で40200ゼンカしか稼いでないのに?」

「もう少しスキル値が上がれば、稼ぎが良くなるわよ」

「順調にあげていけば、1g溜まる?」

「たまらないわね。適正の狩場で戦ってたら頑張って十分の一くらいじゃない?」

「無理じゃん! 借金返せないじゃん!」

「だから、色々試行錯誤するしかないのよ。どうすればより稼げるかを考えて行動して結果を出す。そういうこと」

「現実的過ぎる!」

「現実より楽でしょ。前も言ったけど、無駄なストレスはあんまりないじゃない。普通お金を稼ぐのはもっと面倒でしょ」

「た、確かにそうだけど」


 バイトなら、電話して、履歴書出して、面接して、採用して貰って、仕事を覚えて、人と仲良くなって、しがらみだらけの中働いて、それでも時給数百円。

 そう考えると気は楽だし、手間はない。


「とりあえずの目標はギルドランクを上げて、転職することね。そうすれば色々スキルも覚えるし、フィジも上がりやすくなる。強くなればいい狩場にも行けるし、ダンジョンも行ける。パーティーがいやならソロでもスキル値を上げればいけるけど、効率は悪いわね。取り分は多いけど」

「転職か……なんのジョブがあるかわからないんだよな」

「ランクが上がったら見られるわよ。なんならジョブクリエイトの申請出してもいいけど」

「なんだそれ」

「SWはプレイヤー主導でシステムが構築されてるからね。スキルやジョブ、プレイヤーに出来ないシステム的なイベント内容とかは変更、改善要請出来る。問い合わせじゃなくて、アイデアを出すってことね。ジョブもプレイヤーの意見を反映させる場合もあるし、一から新しいジョブを申請することも可能よ。ただ中々通らないけど。ゲームバランス崩しかねないから」

「へぇ……どうやってするんだ?」

「設定の問い合わせの中にあるわ」


 UIを開き、設定画面を映す。中に問い合わせという項目があったので開くと、確かに『ゲームシステムに関しての要望』『ゲームシステムに関しての具体的企画案』という項目がある。


 中には『ジョブ名称』『ジョブスキル概要』『ジョブの概要』『ジョブのスキル値、ステータス』などの項目があり、入力出来るようになっている。


 本当にプレイヤーが関わる形式をとっているんだな。


「最初は、簡単なアタッカーがオススメかな。色々触ってみてもいいわね」

「まあ、考えておくよ」

「そうね。話はこれで終わり。何か質問は?」

「ないな。とりあえず今日は色々、覚えることもあり過ぎて疲れたし、寝たい」


 身体的な疲れはあまりない。精神的なものだろう。

 ただ眠気はある。現実では俺の身体は起きているのだから、寝ないとまずいような気もするし。


「そうね。あたしも寝るわ」

「あ、これ使っていいぞ」


 俺は枕をテーブルの上に置いた。


「あ、ありがと」

「寒くないか? 布団ないけど」

「適温だから大丈夫よ」

「そうか」


 布団を被っても温度はさほど変わらない。

 今の季節は夏だ。現実と仮想現実の日付は同じで、盆真っ盛り。

 暑苦しい熱帯夜を過ごすことはない。


「……言っておくの忘れてたわ」

「なんだよ」


 目を閉じ、リリィの声を聴いていた。

 眠い。微睡みそうになっている意識を何とか保つ。


「あたしは初心者のためにいるだけだから。転職したらいなくなるのよ。覚えておいてね」

「そうか」


 相槌を打ってから沈黙が訪れた。

 しかし言葉を反芻すると、俺はがばっと起き上がる。


「おい!? いなくなるってどういうことだ」

「だから、言ったでしょ。ナビはナビ。チュートリアルだからいるだけで、終ったらさようならってわけ。ニースもレベッカも他のプレイヤーもナビがいない人も多かったでしょ」


 確かにそうだった。

 なぜ気づかなかった。そんな簡単なことに。

 一言、なんでナビがいないんだ、って聞けばよかっただけだろう。


「ま、そゆこと。短い付き合いだけどよろしくって最初に言えばよかったわね。それじゃおやすみなさい」

「あ、おい」


 まだ話は終わってない、と言葉を繋げようとしたが、リリィは既に寝息をたてていた。


 寝つき良すぎるだろ。


 寝ている中を起こすのは憚られて、俺は仕方なく布団に潜った。


 転職まで? そんなのすぐじゃないか。


 確かに基本的なことは教えて貰ったし、あとはなんとかなるかもしれない。ヘルプもあるし、自分で調べることは出来るだろう。

 でも不便なことには変わりがないし、リリィは俺と唯一普通に話してくれる奴だ。


 それがいなくなる。


 バカな。たった一日で愛着がそこまでわくものか。

 そう思っても、心はそうは言っていない。


 寂しい。

 想像するだけで怖い。


 一人で行動するという恐ろしさを俺は知っている。


 リリィがいれば良い意味で気も大きくなる。少しは自信が持てる。

 それは単なる依存ではあるが、俺には必要なことだった。少なくとも、今の俺には。


 転職しないという方法もあるんじゃないか。

 そうだ、それならリリィはいなくならないんじゃ。


 しかしそれは強くなることを諦めるということだ。ステータスもスキル値も転職しなければさほど上がらないだろう。リリィはそんな風のことを言っていた。


 先ほどまでの眠気はどこかへいってしまった。


 俺はその日しばらく、悩んで眠ることが出来なかった。

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