人魚と出会い
それはある冬のよく晴れた日だった。俺は死んだ。
何故死んだのか、それはわからない。ただ死んだのだという漠然とした認識だけが残っている。
そんな俺は幽霊かというとそうではない。一人の人魚である。
転生である。人魚なんてお伽話か物語の世界にしか登場しないはずだ。これは通常の輪廻転生では起こり得ない現象のはずである。
では今いる世界は前世の世界と違うのか? 答えはまだわからない。
不可思議なのは人魚の存在だけでそれだけでは違う世界に生まれたとは断定できない。ちなみに前世の俺は不可思議な生き物は隠れて生息していると考えていた。
そんな俺の現在は5歳の子供人魚なので村から出してもらえない。なので、人魚がいる以外に前世の世界との差異を確認することが出来ない。
次に俺のこの世界での家族構成を教えよう。母と13人の姉である。男っ気がなさ過ぎる。
幸いなのは男の人魚は服を着ないということだ。服を着る文化があれば着せ替え人形になることは間違いないだろう。
女の人魚は貝殻の胸当てが下着のような感じでその上から服を着ている。水を含んで重くなると思われたが、特殊な繊維で出来ているようで水を含まないようだ。
村の人口? は200人程度で、家は基本的には珊瑚で出来ている。そんな人魚の村で俺は生活している。
さて、大まかに人魚の説明も終えたし、本題に入るとしよう。
現在俺は命の危機に瀕している。サメに追われているのだ。
母から教わっていたが、サメは人魚を食べる。村の中にいればサメに出会うこともないが、ここは村の外で迷子だ。
村の中で遊んでいたら突然海流が発生して流されてしまい、今に至る。
全力で泳げば辛うじて俺の方が早いが、体力が持ちそうにない。じわじわと追い詰められる恐怖。
俺はこんなところで死ぬのか。
諦めかけた体から力が抜けていく。あぁ短い人魚生だったな。
サメとの距離が近づき、サメがその口を開いた。そうしてサメが俺の体に食いつこうとした時、奇跡が起こった。
上から碇が落ちてきた。それがうまい具合にサメに当たり俺の命は救われた。
サメは碇と共に海底にたどり着き、サメは彼の命を散らすこととなった。
危険が去り安心した俺の心は碇に惹かれた。碇が落ちてきたということは上に船があるということだ。
つまり、その船には人間が乗っているはずなのだ。
人間に見つかることで生じるリスクもあるが、そんなことを考えるよりも好奇心が勝った。
俺は海面に向かってゆっくりと泳ぎ出す。そしてそこで見たものは、美しいオカマと醜い少女だった。
いや、逆だ。美しい少女と醜いオカマだ。興奮しすぎて間違えた。
オカマは傷だらけで血に塗れていた。少女は泣きながらオカマに縋り付いている。
死にかけのオカマと目が合うと、こちらにむけて口を開いた。
「…………………!」
問題が生じた。言葉がわからん。確かに声は聞こえた、しかし知らない言語を使っていたのだ。
そんな俺のことを気にすることもなく、オカマから生気が失せ死んだ。少女はより一層声をあげて泣きはじめた。
俺は何とか彼女を泣き止ましたいという気持ちに駆られた。だから俺は歌うことにした。人魚の歌声はそれは美しくものなのだ。
だが、歌おうとして気づいた。声が出ないのだ。水に潜ると声は出る、しかし外では出ない。
人魚は空気中では声が出せない種族だったのだ。
俺はなにもすることが出来ずにただ彼女に寄り添うのだった。