明人の退院
夏も終わりに近づき絶好の晴天の今日。
俺こと山本拓也は眠い目を擦りながらベッドから起き上がった。
今日は小学校からの親友…いや、悪友と言った方が正しいかもしれない、森山明人が退院する日だった。
明人は盲腸炎で入院していて、今日やっと退院できるというので俺と同じく仲がよい数人で出迎えに行こうと言うわけだ。
幸い今日は日曜で高校も休みだ。
「支度しなきゃ…」
まだ完全に起ききっていない頭をおこし、おぼつかない足取りで洗面台へ向かった。
蛇口を回し眠気覚ましにはちょうどいい、冷たい水で顔を洗う。
それでも昨日夜更かしをしていたせいか、さっぱりとしない。
それでも明人の出迎えの時間まではあと30分しかないことに気づき慌てて朝食もそこそこに家を飛び出した。
家を出ると真っ先に目に入る大きなビルの数々。
ここらへんは最近大規模な道路工事が行われて随分と変わってしまった。
俺の行きつけのゲーセンはなくなり、代わりに何階建てかもわからない、大きなマンションが建った。
俺にとって馴染みのある建物達は次々となくなり、見慣れない新しい建物が建っていく。
明人が入院していた病院もその一つだ。
設備の良い大きな病院で、ついでに看護婦も美人揃い…おっと、いらないことを言ってしまった。
そんなことを考えている間に一緒に迎えに行く友人との待ち合わせ時刻が迫ってくる。
俺は小走りで待ち合わせ場所へ向かった。
「拓也ー!!こっちこっち!」
急いで行くと、俺の友人、中村瑠璃と真島愛梨が俺を呼んでいた。
2人とも明人同様、小学校からの親友だ。
瑠璃は活発で元気な感じの女の子。
愛梨は逆におとなしめ。
対照的な2人だからこそ馬が合うというものなのだろうか…
「全くびっくりしたよねー。病気知らずの明人が入院なんて!」
病院へ向かっている途中、瑠璃が長い綺麗なポニーテールを揺らしながら振り返り言う。
「明人だって病気ぐらいするよー!でも退院できてよかったー」
後ろからついてきていた愛梨も俺の隣に並んだ。