いきなりお金持ち!?
信吾は病院を出てゆっくり周りを確かめるように街を進む。
ずいぶんと田舎のようだ。古い建物があちこちに建っている。しかし、すれ違う人たちは髪を染めていたり、変わったアクセサリーを付けていたりと若い者が多い。
(あのコスプレは流行っているのか?)
すれ違う人の半分以上が動物の耳や尻尾を付けている。そのままお店を探していると何かの看板が見えてきた。
(とりあえず入ってみよう)
中に入ると酒場のようだが、受付のようなものがある。
(何の店だ?)
カウンターの向こうに座っている女性に話しかけてみた。
「すいません、これを売れる店を探しているんですが」
「魔道具ですね。こちらでも買取できますが?」
酒場のように見えるが、ここでも買取をしてくれるそうだ。
「じゃあ、お願いします!」
「はい、お客様。ギルド登録がお済でしたらギルドカードを提示してください」
「ぎるど?いえ、登録してないんですが」
どうやらここはギルド、つまりは仕事斡旋所のようだ。
「では、本日登録されますか?ギルド会員ですと買い取り額が5%アップしますよ」
(もし、高額で買い取ってもらえるなら5%は大きいな。入っておいた方がいいだろう)
「じゃあ、お願いします」
「かしこまりました。それではこちらの用紙に手を触れてください」
そう言って見せてきたのはごわごわとした紙だった。羊皮紙というやつだろう。
「はぁ」
言われたとおり用紙に手を触れる。すると、見たことのない文字が浮かび上がってきた。見たことのない文字なのだが、何故か意味が理解できた。
「これは!?」
その変化につい驚き、声を上げてしまった。
「こちらは、お客様の簡易ステータスです。犯罪歴などが表示され信用のある人物かを判断するために使われています。お客様は、犯罪歴がないようですね。ギルド信頼度はBからになります」
「はぁ。それって何か変わるんですか?」
「はい、信頼度が高ければ、報酬の高い指名依頼が多く入り、ギルドランクも早く上がります。ギルドランクが高ければ、他のお店などでも優遇されたり等々、良い事ばかりです」
「そうなんですか。その、依頼ってなんですか?」
「依頼とはお客様に紹介できるお仕事です。指名依頼はお客様に名指しで依頼が来ているということです」
「あぁ。でも俺、仕事持ってるんで」
「掛け持ちでも大丈夫です。ギルドは登録するだけでも身分証明になるカードを発行されますし、カードに持ち物登録してあれば、盗難防止にもなったりしますよ」
「入ります」
盗難防止は魅力的だった。何せ、すでに盗難にあっているのだから。
「かしこまりました。引き続き買取ですね。商品をお預かりします」
「はい」
信吾は腕時計を渡し、査定の間ギルドの中を見て回った。ギルドの中は酒場になっていて、朝から酒を飲んでいる連中もいる。よく見るとそれは、病院にいた兵士たちではないか。
(こいつら! 誰の服を売った金で酒を呑んでいるんだ!)
「にしても儲かったぜ! 服なんかにあんな値段が付くなんてな!」
「あの平民にはもったいない服だったんだよ! あいつもどっかで盗んできたんだろうよ!」
「俺たちは兵士として盗品を回収しただけってことだ!はっはっは!」
「たいちょうー。ちゃんと俺達にも分け前くださいよ!」
「へっ! わーってるって!まずは呑もうぜ!」
「……」
気がつくと信吾は右手で拳を握りしめ、隊長と呼ばれた兵士の肩に左手を置いていた。
「……なんだ?」
「あっ! こいつ昨日の!」
「あぁ、街中でぶっ倒れてた平民か。なんだ? 御礼でもしに来たのか?」
(勝手なことを言いやがって!)
信吾は、スキルのことを思い出し試しに使ってやろうと頭の中で[ドレイン]と唱えた。
「なんだ!?」
肩に手を置かれた兵士が騒ぎ出す。信吾は、なぜか力が漲ってきて饒舌になる。
「ずいぶん好き勝手してるな。その金は何処から出てるんだ?」
「な、なんだてめぇ! 何しやがった!?」
兵士は何故か慌てている。
「昨日、倒れてた俺から身包み剥いだ連中がいるらしくてな。そいつらが言ってたんだよ。今から一杯やるぞって」
「それがどうしたよ! 俺らに関係あるか!」
「お前らのことだろうが!!」
信吾は、兵士の肩に置いた手に力を入れてこちらを向かせ、おもいっきり顔を殴りつけた!鈍い音を立てて兵士が吹っ飛ぶ。すると、周りの兵士たちが急に慌てだした。
「っ! たいちょー!!」
「やばいぞ! 隊長が一発でのびてる!!」
「マジかよ!! 隊長は俺たちより10もレベルが上なんだぞ!?」
「あいつがそれより強いってことだろ!!」
「とりあえず逃げるぞ!」
「お、おい! 待てよ! ……金は全部隊長が持ってる」
そう言って兵士たちは隊長と呼ばれる兵士を置いて逃げていった。
(最悪な連中だな)
漲っていた力が身体に馴染む。
倒れている兵士の懐を探ると信吾の革の財布とジャラリとなる布袋が出てきた。財布を調べると札やカード類はそのままで小銭だけが空っぽになっていた。布袋の中には恐らくここの通貨だろう金銀銅、大小のコインが入っていた。
「うぅ」
兵士が目を覚ましそうになったので、もう一度兵士に触れ[ドレイン]と頭の中で唱えた。するとさっきのように力が漲るようなことはなく、なにも起こらない。信吾は、三度ほど[ドレイン]と唱えた。すると今度は、やけに体が軽く感じる。
「こっ、このやろう」
兵士は力なく言い、よろよろと立ち上がり殴りかかってきた!
が、なんてことはない。ずいぶんと遅いパンチだ。軽くなった身体で難なく避けると、兵士が驚きの声を上げる。
「なっ! なんだ!? 身体が重い!?」
「そんなスピードじゃ、当たるわけないだろ!」
「っ! くそっ!! 覚えてろっ!!」
ありきたりな捨て台詞を吐き、兵士はギルドから出て行った。ふん!と鼻を鳴らし一息ついていると受付の女性に呼ばれた。
「大丈夫ですか? あれでも彼、この町で代々兵士長勤めてる貴族の息子ですよ? レベルもランクもそこそこにあったはずです。……信頼度は最低ですが」
「そうなんですか? でも、めちゃくちゃ弱かったですよ?」
「確かにさっきはそんな感じでしたが。たぶん本調子じゃなかったんだと思います。動きがやたら悪かったですし」
そういって心配そうな顔をしている。確かに本調子ではなかったのだろう。何せ、信吾がそうさせたようなのだから。しかし、当の信吾は未だスキルの使い方はよく分かっていない。
(何度か失敗したようだな。恐らくはじめに力を吸い取り、次に吸い取ったのは素早さといったところだろうか?)
信吾が自分のスキルについて考えていると、受付の女性が声をあげる。
「そうでした! 魔道具の鑑定が終わりました! 素晴らしい物ですね。時を見る魔道具。魔力じゃなく何か他の力で動いているようです」
「あの、魔力って?」
「ええ、こちらの品物は何か魔力とは別の力で動いているそうです。こんな品、何処で手に入れたんですか?」
(何かよく分からないが、魔力を知ってるのが当たり前って感じだな。ここは変に質問せずに、お金だけ貰って早く出たほうがいいだろう)
魔力と言う言葉に、宗教的なものを感じた信吾は、適当に切り上げてギルドから出ようと考えた。
「親に貰ったもので、昔から持ってたんです」
「そうなんですか。でしたら売らずにとっておいたほうが良いのでは?」
「いえ、とりあえず家に帰るための旅費にしたいんで」
「そうですか。かしこまりました。1000万GILになりますがよろしいですか?」
「いっ! 1000万!?」
その金額に驚いてしまうが、日本円ではないことを思い出し、その金額で買える物を聞いてみた。
「それって、何がどれ位買える額ですか?」
「そうですね……、貴族が使う豪邸が二棟……いえ、三棟は買えるでしょう」
想定外の金額だった。恐らく日本円にすると9億から10億程だろうか。信吾は少し呆然としながら呟く。
「……豪邸が、三棟……」
「はい、それで、ご相談なのですが。今ギルドにある現金が確実に足りません。よろしければ一部を現金で、残りをギルドカードに入金させていただけたらと……」
「え!? そのカードってそんなことまでできるんですか?」
「はい、ギルドカードは現金をお持ちでなくてもギルドと提携しているお店なら、現金がなくてもカードに入っているお金でお取引が可能です。この街にあるお店なら何処でも使えます」
「へぇ。電子マネーってことですか」
「でんし? なんですか?」
「ん?あぁ、いや! なんでもないです。じゃ、全部カードに入れてください」
「そうですか! 良かったぁ。ありがとうございます!」
そう言って透明なガラス板のようなものにカードをかざすと、ガラス盤とカードが光を放つ。
「これで入金完了です。それではカードについて簡単にご説明いたします。このギルドカードは本人様以外使用できない作りになっていますので、もし落とされてもご安心ください。ギルドにいらしていてだければ。有料ですが再発行可能です。カードの内容は、カードを持った状態で表示と念じてください」
ギルドカードを受け取り(表示)と頭の中で念じてみる
----------------------------------------------------
NAME:シンゴ
RANK:E
TITLE:-
JOB:冒険者
LV:1
HP:38
MP:78
STR:28
DEF:24
MND:39
INT:414(↑350)
AGL:21
LUK:150
BP:10
MONEY:10,000,000GIL
----------------------------------------------------
するとカードにステータスが現れる。
(ステータスも見れるのか。すげぇ! ホントに一千万GIL入ってる!)
「最後にこちらは、ギルドの規定などが書かれているルールブックです。お時間のあるときにでも目を通して置いてください。本日は良いお取引ありがとうございました」
「こちらこそ、ありがとうございました」
シンゴはギルドカードを受け取り、兵士から回収したお金を手に病院へと戻った。