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希望と過去③
そう。私は、望んでここにきたわけじゃない。本当は…本当は…
その後、晴香が退職願いを提出するのに、そう時間はかからなかった。
「そうか。晴香ちゃんが辞めたら会社にとって大きな損失だが…」
心から残念そうな顔をして、晴香を見る社長。
その顔を見て少し、罪悪感がこみあげる。
「すいません」
損失だなんて…もったいない言葉だ。私はけっして仕事ができる女じゃなかったのに。
社長は、そんな晴香の気持ちを見透かしたように言葉を続けた。
「晴香ちゃんは、自分では気づいてないかもしれないけど、しっかりしてるし、素直で、仕事が丁寧だ。だから、本当に惜しいんだよ。」
社長の優しい瞳を見ながら、晴香は思った。
-ああ、この社員の少ない、小さな会社だからこそできるアットホームな職場は、この人が上に立っているからこそだ。
「でもね、夢を追いかけるのもまた素晴らしいことだと思う。人生は一度きりだからね。」
そうだ。その通り。
私は、少なくとも自分の決めた道を歩きたい。
部署のみんなは祝福してくれた。あの厳しかった先輩までも。
みんな、いい人達だった。