第一章 孤独な少年
初めまして、紅月魔耶です。
小説を投稿するのはこれが初めてなので、自分の書いた小説がどんな評価をうけるのか緊張半分期待半分といったところなのですが……
今後の執筆のためにも、感想などを残していただけると嬉しいです。
午後のホームルームを迎えた教室は、長い退屈な授業から解放された生徒達の談笑で賑わっている。
そんな教室の中で、俺は誰と話すでもなく窓際の自席についていた。
勿論、騒がしい教室を気にもとめず教壇で明日の予定などをひたすら事務的な口調で話す担任の言葉なども耳には届かない。
俺はただ窓の外の景色を眺めていた。
日が短い今の季節、既に傾いている夕日がオレンジに照らすグラウンドや、その向こうに広がる住宅街を無心に眺める。
ふと教室と外とを遮るガラス窓に意識をやると、そこに映った自分の姿が目に入る。
目鼻立ちははっきりしているが、少し長めな前髪の下の目は、自分で言うのもなんだが半ば生気に欠けていた。
厚手のコートを羽織っているせいで分かりにくいが、高めの身長の割りに体つきは細い。
しかし、普段からバイトや家事で身体が鍛えられているおかげである程度の筋肉はついている。
「それでは、これでホームルームを終わりにする」
気がつくと、担任の機械的な報告が終わり、挨拶を済ませたクラスメイト達がそれぞれに散っていく。
俺も机の横にかけていた鞄をPコートの上から肩にかけ、マフラーを巻き直したあと、誰とも挨拶をすることもなく教室を出る。
とは言っても、教室を出たあとも挨拶をする相手がいないのに変わりはないのだが。
俺にはこの学校、いや、学校の外であっても、友達と呼べる関係の人間がいない。
それどころか、誰かと必要以上の関わりを持ってすらいないのだ。
人との繋がりを持ちたくないのかと聞かれれば、決してそんなことはない。
持ちたくないのではなく、持たないだけだ。
昇降口で自分の靴箱を開けて上履きからローファーに履き替えると、そのまま校舎の外に出て校門を目指す。
肌を刺すような冷たい空気に白い溜め息を漏らし、早足で一人で住んでいるアパートへと向かった。
学校からアパートまでは徒歩で30分、早歩きだと20分ほどの距離だ。
途中のスーパーや商店街なども一人暮らしの身には重宝する。
商店街に本屋や花屋があるのも嬉しい。
本屋はともかく、花屋の存在を嬉しがる高校生も珍しいかもしれないが、それは俺の趣味のためだった。
あまり一般の男子高校生らしくなくて人には話さないが(よく考えると話す相手もいないが)、俺の趣味は読書とガーデニングだ。
休日はもっぱらアパートの窓辺の鉢植えの世話をするか本を読んでいるか、後は掃除とバイトくらいだ。
中古で買った携帯音楽プレイヤーでそこそこ人気のあるロックバンドのアルバムを流しながら歩いていると、住んでいるアパートが見えてきた。
住宅街ではほんの少しだけ自己主張の激しい大きさだが、外見はボロく、日の当たらない北側の壁には蔦が張っている。
ホラー映画の撮影に使われたと言われれば納得してしまいそうな見た目だが、こんな場所だからこそ俺が住めるような家賃で部屋を借りられる。
ギシギシと軋みをあげる階段を登り、二階にある『高遠』と表札に書かれた部屋の前に立つ。
高遠久高――
それが俺の名前だ。
どちらも苗字のような名前だと、自分で苦笑する。
ポケットの中から鍵を出して自室のドアを開ける。
帰宅の意を示す相手がいないと、わざわざ「ただいま」と言うのも気が進まないのだが、無言で暗い部屋に入るのも寂しいのでとりあえず言うことにしている。
「寒いな……」
鞄だけを下ろし、コートを脱がないままにコタツに入りスイッチを入れて暖まるのを待つ。
先ほどこのアパートの外見を悪く言ったが、それはほとんど外見だけの話だ。
実際住んでみると、このアパートは思いの外住み心地がいい。
空調もしっかりしている上に、少なくとも自分が暮らしている分には広さへの不服もない。
更に言うと、とある理由でこのアパートの大屋に色々とよくしてもらってもいる。
たまに夕食のおかずを分けてくれたりもするし、少し前に自立した大家の息子の使っていたPCも借してくれている。
その理由とは、俺が一人暮らしをしていることとも、俺が人と深く付き合わないこととも関係があった。
これでも、俺は中学生に入学した頃は普通の男子だった。
家庭は貧乏だったが、学校では友達もいたし、それなりに中学生らしい生活を送れていたはずだ。
しかし、それは突然に崩れた。
原因は元々酒癖の悪かった父が仕事をクビになったことだった。
それから父と母の折り合いが悪くなり、家にいることが苦痛になっていった。
時に父はパートで生計をたてる母に暴力をふるったりもした。
それでも父は俺に暴力をふるうことはしなかったが、それは家族云々とかの綺麗事ではなく、単純に暴力では俺に勝つことができないと判断したからだろう。
そのかわり、家にいるときは母にストレスの捌け口として様々な嫌がらせをうけてはいたが。
ただ、不幸はそこで終わりはしなかった。
仕事を首になってから毎日酒ばかり飲んでいた父が、家族に黙って多額の借金をしていたのだ。
それからはもう地獄だった。
毎日のように借金取りの嫌がらせにあい、町の中ではそれが噂になり孤立。
当然友達も俺から離れていき、家族間の溝ももう取り返しのつかないほど深いものになっていた。
ただ、友達が離れていったのは不幸中の幸いだったかもしれない。
もしあのまま友達が傍にいても、きっと俺は自分から離れていただろう。
自分のせいで友達に迷惑がかかることに耐えていられるほど、俺は強くはない。
結果として、俺は家族との時間を極力とらないようになり、両親は俺の知らないところで離婚していた。
俺は母方の家に引き取られたが、母は高校に入学する俺をこのアパートに送り出したのだ。
日本の法律では子供の親権の有利は母親にある。
母は恐らく自分の老後のために俺を引き取ったが、自分に暴力をふり続けた相手との子供と一緒にいることが耐えられなくなったのだろう。
まあ、俺も母と一緒に暮らすことなどごめんなので、お互いの利になかった賢明な判断だろう。
とにかく、そんな原因があり俺は一人でこのアパートに住むことになったのだ。
俺が人と深く付き合わないのも、父が借金を返済することなく死ぬなり蒸発なりすれば、次はそれを俺が背負うことになるからだ。
こういうとを言うと俺が周りの人間のことを考えているように聞こえるが、実を言うと俺自身にも問題はある。
俺は一度周りから人が離れていくことを経験した。
突然、今まで友達と思っていた人間が他人になったのだ。
いや、他人でもあそこまでよそよしくはないだろう。
それが元でイマイチ友達とかいうものが信用できなくなったのだ。
人間不信とでも言えば聞こえはいいが、それとは少し違う気がする。
簡単に言うと、誰かと一緒にいてもお互い傷つく可能性があるなら最初からいなければいい……と、つまりそういうことだ。
人と距離を置いて過ごす日々が長すぎて、うまく人付き合いの感覚を思い出せないこともある。
ともかく、最低限の人間関係があれば、なんとなくは生きていけるのだ。
こういう人間が世間からいい評価を受けないのはわかっているが、元々俺をこうしたのは世間のせいでもある……というのは少しこじつけが過ぎるか。
ただ今しばらくはこの生き方を変えるつもりはなかった。
こんな生活も少し居心地がいいかもと思ってしまっているのだから、救いようがない。
こんな下らないことを考えているだけでも、時間はどんどん流れていく。
気がつくとコタツも充分に暖まり、冬の空気で冷えた身体の熱も下半身から取り戻し始めている。
時計を見ると、バイトまであと1時間といったところだった。
「風呂でも入ってから準備するか」
そう呟いて、俺はコタツから立ち上がった。
結局その日は夜中までバイトをして過ごし、帰宅して風呂や歯磨きを済ませて直ぐに布団についた。
これが俺の日常。
これ以上を望む訳でもなく、これからもこんな日々が続いていくと思っていた。
ずっとずっと、それでいいと。
読んでくださりありがとうございました。
まだ第一章ではヒロインは登場せず、主人公の背景説明などに治めていますが、第二章ではヒロインも登場させますのでよければそちらもよろしくお願いします。
第二章の投稿は近いうちにしたいと思います。




