ハルオの日常
お好きなイケメンを思い浮かべてどうぞ(笑)
この間は香と車に乗ってエライ目に会った。あの娘には絶対に車の運転、させられないな。
大体、香も俺が相手だと調子に乗って無茶苦茶やっているんじゃないか? なんか、そんな気がして来たぞ。
良平の前で好き勝手した事もないし、一樹さんの前では見事に猫かぶっていたし。絶対俺とは態度が違う! 智の前では地が出ていたが、あれは向こうが突っかかったせいだろうし。
それだけ気を許しているってことかもしれないが、反面、相当俺、軽く見られているよな? 一応これでも、「その筋の男」なんだから、もうちょっと迫力を感じて……
よせばいいのに、つい、鏡を見てしまった。これじゃ、どうしようもないか。
身体は細いし、小さいし、構えていないとすぐ、猫背になるし、そもそも、どもり癖がどうにもならないし。
顔だって地味だよな。垂れ眉だし、平凡な目鼻立ちだし、おちょぼ口だし。特に目なんか小さくてクリクリして気の弱さがそのまんま表れちまってる。迫力なさすぎだ。
良平は格別目が大きくは無いが、キリっとしている。前に御子が連れて来た女の子が「イケメン、イケメン」って褒めそやしていたもんなあ。確かに顔立ちは整っている。組長も年は取っているが、顔はまずくない。
一樹さんはもう少し明るい雰囲気か。でも、目は迫力あるんだよなー。あの人も顔はいいよなあ。
智はたいしたことないよな。顔に性格のひねくれ具合が出ちまってるし。まあ、気の弱そうな俺よりはマシだけど。背も、俺よりはあるけど。体格も……もう、よそう。
なんだよ。俺の周り、(智を除いて)顔のいい男ばっかりじゃないか。なんの嫌みだ? これは。
親を恨んでもしょうがないし。ああ、親は華風組長の土間さんだっけ。
土間さんの目は化粧しているとはいえ、はっきりして大きいよな。あれなら少しは迫力が保てるんだが。輪郭なんかは俺も少し似ている気がするのに、残念ながらそこは似なかったみたいだ。
待てよ? 土間さんだって、あの格好だから納得していたが、男の体格で考えたら、かなり細身で小柄なほうだ。
土間さんも俺の母親と一緒になったくらいだから、若い時は「普通」に男だったはずだ。じゃなきゃ(母親の趣味に問題さえなければ)俺、生まれてないだろうし。
俺と似た輪郭。小柄で細い体格。それで、普通に男。
きっと苦労したんだろうなー。いや、したに決まっている。俺みたいに女の子たちにからかわれたり、バカにされたりしたんだろうか? 今、見た目が女になってしまったのも、その辺の事もあったんじゃないだろうか?
ああ。何だかようやく、親子の実感が湧いてきた。そうだよな。血が繋がっているんだもんな。土間さんが味わった苦労、俺にも分かります。たとえ姿は女性でも、あなたは俺の、父さんなんですね!
何だか意味もなく感極まって、華風組に来てしまった。土間さん、いるだろうか?
事務所にいたアツシさん(この人までイケメンかよ!)に聞くと、土間さんは留守だった。ところがアツシさんが「ちょっと話しませんか?」と言って、近くの喫茶店に連れてこられた。
「いや、すいません。引っ張って来て。組で話すわけにはいかないもので。俺、赤ん坊の時のあなたを知ってるんですよ。こんなに大きく育って。感無量です」
アツシさんは感慨深そうに俺を見ている。
「は、はあ」
大きく育たなかったから、コンプレックスなんです。とは、言えないな、こりゃ。
「目は小さいが、形はお母さん似ですね。口元もよく似ている。富士子さんも可愛らしいお嬢さんだったが」
アツシさんは嬉しそうに言っているが、俺はへこんだ。母親も目は小さくなかったのか。うーん。
「体つきは若い時の組長にそっくりだ。本当にあのお二人を思い出させてくれる」
やっぱり、土間さんもこんな体格だったんだ! 俺は何だか嬉しくなる。
「ど、土間さん。お、俺の母親に好かれるのに、た、大変だったでしょうね」
俺はしみじみと言った。それなのに。
「そんな事はありませんよ。富士子さんも一目惚れだったんじゃないですか? 当時の組長に無理を言って、今の組長をウチに置くように説得したんですから」
「……へ?」
「あの頃の組長はモテましたからね。本人も調達係だなんて言って、俺も世話になった事がありますよ」
え? ええええ、ええー?
「女顔の美少年でしたから。女性のあしらいも上手くて、一時、潰れかけたバーの立て直しにも一役買ってくれました。だから女性の姿になったばかりの頃は、なかなかの女っぷりで……あ、いや、コホン」
それってただの、ナンパ野郎なんじゃ……?
なんで、なんで、親子でこんなに差があるんだよおー! 恨むぞ! 神様! バッカヤロー!




