会長の日常
私はこの街の裏社会を牛耳っている、こてつ会という組織の会長だ。
この街には昔から「こてつ組」「華風組」「真柴組」という三つの組があり、時折、新興勢力的な組織が発生したりもするが、主にこの三つの組織を中心に、裏の世界を担って来た。
その三つの組が最近連合した組織となり、最も勢力を誇っていた「こてつ組」の組長をしていた私が会長に就任したのだ。
先日、こてつ組の新しい組長も決まり、ようやく会長職に専念できる環境を整える事が出来た。
かなりまだ危なっかしい組長だが、物事を始めた時などそんなものだろう。私だってやむを得ず親の後を継いで組長になった時は、右も左も分からずに、すり寄る奴等を見極めながら孤軍奮闘。それなりに苦労をしたものだ。
私は好きでこの世界に入った訳ではない。親の死によって、抗争の激化を避けるために、仕方なく組を継いだだけだ。だからただの社会人として由美を娶ったのだ。
だが、親がこの街を愛して守り続けてきたことは理解しているし、私も街と組のために全力を注いできた。こてつ組連合の会長として、一番最初の話から登場しているし、今でもこの話に私の存在は必要なはず。そこまではきちんと(?)設定は出来ているようだ。
それなのに、名前はまだ無い。まるで「吾輩は〇である」の冒頭部分のようだ。
私なしでは「ドレミ三婆」は成り立たない。話の上の重鎮であるはずなのに、作者のネーミングセンスが無いせいで、迷い猫並みの扱いだ。
登場人物がやたらに多いのも問題だと思うが、それでも悪役にだって「田中」や「関口」、一回っきりの使い捨て役にも「西岡」の名がついた。「田中」には「田沢」の偽名までついていた。私はそれ以下か。
これだけ愚痴ればさすがに作者に同情されて、名前がついたようだ。どんな名だ?
「小手津 継男」
……馬鹿にされているとしか思えない。
しかも、作中では「会長」で用が済むので、名前が出ることはまず無い? だからっていい加減すぎるだろう!
作者にとって、私への関心はかなり薄い方らしい。結構いいようにこき使われている気がするんだが。
作者には後で弾丸入りの封筒を送りつけておこう。そうしよう。
存在感がピンチにあるのは作者にだけではない。最近、由美やこてつにも軽く扱われている気がする。
由美の出かけ好きは相変わらずだが、今や私への遠慮もなくなってきているような。
組に着いてすぐ、由美から電話が来たので出てみると、
「あ、あなた? これから私、ちょっとツイッターの犬友達に会いに行くの。遅くなるんで、夕飯はタエさんが用意したものを一人で食べてね」
「おい。昨夜爆破されたデパートに閉じ込められてひどい目に会ったばかりじゃないか。少しは家でおとなしくしていられないのか?」
「あら、それで私やこてつのお友達にとっても心配をかけたから、元気なこてつの姿を見せに行くのよ。大丈夫。会うのはドッグランだから閉じ込められたりしないし、高速に乗ればすぐ帰れるから」
「高速? 近くじゃないのか? 一体どこまで……」
ワンワン、ワンワン。電話口の向こうにこてつの催促鳴きが聞こえる。由美の気がそれるのが手に取るように分かった。
「〇〇市よ。じゃあね、行ってきます」
通話が一方的に切れてしまう。
友達の心配を気にかけるより先に、私の心配を気にかけようとは考えないのか!
いや、怒っている場合じゃない。誰かに後を追わせないと。礼似は……ああ、もうこういう時には使えないか。こうなったら香にでも頼むか。
電話をかけようと持ち変えた先から、また着信音が鳴る。由美の奴、考え直したか?
携帯の表示は通話ではなく、メールだった。由美独特の派手な絵文字のデコレーションで、
『私の裁縫部屋の物に触っちゃだめよ。こてつのお正月の晴れ着を作ってるんですからね!』
と、打ってあった。
正月? 今は、まだ、夏なんだぞ! どれだけこてつ中心に世界が回っているんだ、あいつは!
私の裏社会での地位は上っているが、家庭内の地位は落ちていく一方のようだ……。