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タエの日常

 私がいつものように奥様のところに伺うと、奥様はラフな服装ながら(でも、花柄とフリル付きで)お散歩にしては少し丁寧な外出の支度をしていらした。


「おはようございます。どちらかにお出かけですか?」


 奥様は昨夜、デパート爆破事件に巻き込まれると言う、大変な事態に会われたばかり。本当は奥様ご自身が知らないだけで、常にいろんな輩に狙われておられる身の上なのだけれど、いつもご本人が気づかずにいる以上、昨夜のことは大変な非常事態だったはず。その翌朝に外出なさるとは、私は思いもしなかったのでビックリしながら声をかけてしまう。


「おはよう、タエさん。昨夜の事で私とこてつの事をみんな心配してくれたみたいだから、元気な姿を見せてこようかと思って」



 私は奥様の言うところの「みんな」に反応してしまう。この人が「みんな」と呼ぶ時って、絶対、ご近所の人たちの話じゃない。


「ネットのお友達と、お会いになるんですね?」

 分かっているけど確認するように聞いてしまう。


「ええ。今日はツイッターのお友達数人とね。主人に電話は入れたから」


 そうおっしゃるのだから、電話はなさったんでしょうね。ただ、会長の承諾までは、多分得ていないだけなんでしょうね。私は会長に同情して、そっと溜息をついてしまう。


「お帰りはいつになりますか?」


「ごめんなさい。ちょっと、遅くなりそうなの」


 この言葉で普通の主婦に思い浮かぶのは、夕方遅くなりそうだとか、夕食には間にあわないかもしれないだとか、そのあたりなんだろうけれど、この方の場合は油断できない。


 車のキーを握らせたら最後、「ちょっと散歩に」と言えば、犬連れでも小旅行でもおかしくない観光地まで出かけて来るし、「少し遠出を」と言えば、本州のどこに行ったっておかしくないのだから。


「少し遠出」のお出かけで帰宅が二、三日後、なんて事態はなるべく避けてほしいのだけど。



「高速に乗れば一時間くらいで着けるんだけど、会う場所がドッグランだから長居しちゃうと思うの」


 ああ、それなら本当に「ちょっと」だ。この方の感覚で言えば完全にご近所感覚だわ。会長にはいろんな事情があるから、奥様を心配して不安になるのだろうけれど、この方とお付き合いし続けてすっかり馴らされてしまうと、このくらいは何でもない事になってしまう。


 それはそれで活動的(?)でいいとは思うのよ。ただ、この方がしょっちゅう会長の敵方に狙われたり、昨夜、異常な事態に巻き込まれたばかりでないのならね。



 奥様のこの、普通ではない程の恐怖心のなさは、明らかに運が強すぎるせいだわ。


 奥様相手なら、突発事態の方が逃げていくみたい。この間は青信号に車が突っ込んだけど、その時奥様が「たまには青信号の間、どんな人が渡るのか観察してみたいわ」と言って、急に横断歩道を引き返したりしていたし。


 おかげで奥様を誘拐しようとした輩の方が、車に突っ込まれて全治六カ月の重傷を負ったとか。


 奥様を狙った男の後ろに突然つむじ風が発生して、「あの中に入ってみたい!」と無茶な事を言う奥様にたまたま突き飛ばされ、男の方が風に巻き込まれて大怪我を負ったり。


 一見無防備に見える奥様だけど、その運の良さと異常すぎる行動は、常人には計りようのない物があるわ。この人の行動を先読みしてどうにかするなんて絶対不可能。


 だから、そんな奥様を狙う勇気のある人は、実は何も考えずに奥様をただ、力任せに襲おうとする単純な人。そんな人は会長の手の者に簡単にひねられるか、運が悪ければ、奥様独特の強運パワーに、死ぬような目にあわされるかのどちらかだもの。


 これで恐怖心なんて育つわけがないし、奥様の周りは叫び声や、悲鳴や、人が倒れたり、落ちたりする光景にあふれているのも仕方がないわ。


 こんな人に近寄る方がどうかしている。まあ、知らずに近寄っているのでしょうけれど。



 でも、会長から見れば、こんな奥様が普通の、危なっかしい可愛い人に見えているようなのよね。

 そんな会長の方が、私には一番危ない人に思えるのよねえ。


 ああ、怖い、怖い。 こんな奥様を狙ったり、護衛をさせられる人たちって、ホント、気の毒ねえ。


 あら? よく考えたら私もその一人だったんだわ。ああ、これからも余計な事に巻き込まれたりしませんように。






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