美羽の日常
こてつ物語2に出てきた美羽の、その後の消息です。(笑)
「きゃー! ホントだ! ホントに本物の赤ちゃんだあ」
私は思わず歓声を上げた。こんなに小さな赤ちゃんを見たのって、初めてかも。
「ね? ね? ちょっとだけ抱っこしてもいい?」
そう言いながらも先に手が伸びてしまった私に、御子さんは赤ちゃんを私に抱かせてくれる。ちょっと、甘いような匂いがした。
「かーっわいーい。結構、重いんだー」
私はすっかり舞い上がってしまった。
「で、何で私が子ども生んだって知ってるの?」
御子さんが唖然とした顔で私に聞く。
「この間、こてつと由美おばさんにばったり会って聞いたんだ。あのコンビ、相変わらずだねー。私、友達んちに寄るからいつもと違う駅で降りたのに、そこでこてつに出くわしたの。私は電車で帰ったけど、由美おばさん、こてつ連れだったし、絶対歩いて帰ったよ」
「奥様の出好きも、とめどがないから。それでわざわざ真見の顔見に来たの?」
「そうだよー。あ、そうだ。おかーさんに持たされてたんだ。商品券だから必要なものを買ってって」
私は舞い上がっていたのですっかり忘れていた白い封筒を、赤ちゃんを御子さんに返すと、カバンの中から引っ張り出した。学校帰りに寄ったので、まだ制服姿のままだ。
「お母さんって、ひょっとして」
「うん。沖のおかーさんね。沖さんも、おとーさんって呼んでる。沖さんちは学校に行く駅にも近いから一緒に住んでるんだ。籍はまだなんだけどね。まだ、ちょっと呼びにくいんだけど、そのうち慣れるよね」
ホントは呼びにくいって言うよりも、照れ臭かったり、前の父さん、母さんとダブるようで呼ぶのにためらっちゃうところがあるんだけど、おとーさんが「きっと慣れるから、少しずつ呼んでくれればいい」って言ってたから、出来るだけ早く慣れちゃおうと思う。
「でも、おばさん、本当にお母さんになったんだね。由美おばさんから聞いた時は絶対嘘だと思ったのに。おばさん、おかーさんとほとんど年、変わんないじゃん。良平さんも、よくがんばったねー」
少子化なんて騒ぐけど、ちょっとくらい高齢でも出産できるなら、結構日本も安泰じゃん。
「大人をからかわないの。大体良平は『さん』付けで、私は『おばさん』って、どういう事よ?」
御子さんは不満顔で言う。そーいうこと言うと、余計茶化したくなるんだけど。
「だって、御子おばさん、おかーさんくらいの年でしょ? 良平さんは好みのタイプだもん。沖さんも悪くなかったんだけど、おとーさんになっちゃったし」
「随分、年上好みなのねえ」
御子さんがちょっとあきれ気味に言う。
「だって、二人とも、大人の印象ひっくり返してくれたから。あんまり大人って信用できなかったんだよね。最後の最後は自分だけをかばうのが大人だって思ってたから。まあ、ハルオさんも好みとは違うけど、いい人だよね」
あの人いなかったら、私、今頃この世にいなかったかもしれないもんなー。
「ハルオだって、今じゃ彼女がいるわ。美羽もおじさん趣味を改善しないと、いつまでも彼氏ができないわよ」
むむっ? やり返してきたな。なんの、そんな事気にしないもん。
「へー。ハルオさん、彼女持ちになったんだ。でもご心配なく。私はもっと大人になってから、大人の恋愛するんだから。同級生なんてガキでガキで」
「あんたもそんなに大人になったようには見えないけど?」
御子さんがくすりと笑った。
うっ。痛いとこ、突いてきたな。確かに私の体型は、ちと、ガキっぽい。
「そんなのこれからだもん。これでも今じゃ、旬の女子高生なんだからね。背だって伸びてるし、胸囲だって増えてるし。見てよ、この制服姿。かっわいーでしょー? 結構いい学校、通ってんだから」
私は立ち上がって、くるりと一回転して見せる。私の学校はこの辺でも人気が高くて、競争率が高かったのだ。だからこの制服姿はちょっと自慢なのだ。
すると、御子さんは意外と神妙な顔をして私を見つめると、
「そう、良かったわ。ちゃんと卒業して、進学できたのね」と、言った。
まいったな。そんな顔して、そんな事言われたら、からかえないじゃん。
「進学は諦めてたんだけどね。おとーさんが、色々助けてくれて。だから、おとーさんに恥、掻かせないような学校に行きたいって思ってね。内申に自信なかったけど、一か八かで受けたら受かったんだ」
「努力が報われたのよ。もともと美羽は頭、悪くなかったんだから。沖さんもいい娘を迎えられたわ」
「……ありがとう」
私は素直に礼が言えた。御子さんが本当に喜んでるのが分かったから。
「おい、美羽ちゃんが来てるんだって?」
良平さんが急に顔を出した。らしくない態度をしたばかりの私は焦ってしまう。
「あー、良平さん。今ね、良平さんが私のタイプだって言ったら、御子さんがおじさん趣味だって言ったんだよ。自分だっておんなじ趣味じゃんねー?」
さりげなく(?)良平さんを持ちあげて、御子さんが良平さんをおじさん扱いした事をアピールする。
「美羽! あんた、そう言う言い方する?」
御子さんがすかさず反応する。あはっ、元のノリに戻った。
「だって私、頭悪くないもーん。それにいい娘でしょ?」
「良くない! その、子供らしからぬ生意気さを直さなきゃ、ちっとも可愛くない!」
ふーんだ、今、可愛くなくてもいいもーん。私だってあと三年もすれば、ちゃんと大人っぽくなって、良平さんみたいないい男、ゲットして見せるんだもんねー。御子さんには負けないんだから!