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大谷の日常

ほどほどにご想像下さい(笑)

 俺は礼似の急な組長命令で、郊外にある、ジムの売買契約のため、不動産業者との交渉に当たった。この組で不動産業に一番顔が効くのは俺だからだ。


 交渉と言っても、買い手がつかずに放り投げられていた物件だ。以前、関口が礼似達相手に起こした誘拐事件がらみの乱闘が起こった事もあって、物件価格は落ちる一方だったから、少し押したら向こうもこちらの言い値で、二つ返事で承諾した。


 俺はこの件にこれ以上手を出す気は無い。これは礼似の気まぐれでやっている事なのだから、自分の舎弟をこの件に使う気は無い。ましてや、このジムで儲けを出そうなんて無茶は考える必要もない。


 買い叩いたジムだから、土地代のもとさえ取れれば十分だし、営業の採算は礼似達に責任を取らせる。


いくら組長とはいえ、金の事は金の事。礼似も元詐欺師だっただけに経済感覚はそれなりにあるから、赤字は出さない程度の事はするだろう。


 気の毒なのは、礼似に振り回される、一樹や、下っ端達だろう。たぶん彼らは一銭の得にもならない営業に、タダ働きでかけずり回る事になるのだろう。


 すでに一樹は畑違いのインストラクターの引き抜きに、業界のコネをつかもうと必死に動いているらしい。俺には関係ない事だが。


 そう考えてのんきに構えていたら、突然、一樹に泣きつかれた。



「大谷、あんたは噂のコントロールは得意だったよな? 俺達の礼似にまつわる噂の誤解を、なんとかすることは出来ないか?」


「俺達? 俺も噂の対象になっているのか?」

 昔、いい仲だった一樹なら分かるが。


「知らないのか? 噂なんて本人の耳にだけ入らないのはよくある事だが。あんたが気付かないとは意外だな」

 一樹は面食らったように言う。


「組の力関係に関わる噂は、大抵耳に入れているはずだが。どんな噂だ?」


「あー、その、つまり……」

 一樹は決まり悪そうに耳打ちしてきた。


「!」


 聞いたこっちも仰天する。とても大きな声で出来る話じゃない。


「ソッチの噂は俺も専門外だ。あんたはともかく、なんで俺まで噂に巻き込まれているんだ?」


「俺だって誤解なんだ! 多分、俺達が組長室に入り浸っているせいだろう。噂じゃあの部屋の奥には、専用の道具がそろったベッドルームまで出来ている事になっちまってる。あのジムを買い取った一件で、俺達は礼似のいいなりになっている印象を与えたらしい。趣味が加速して、とうとう表沙汰までかしずき始めた、なんて言われてるらしいんだ」



 そう言えば最近、舎弟達が俺に隠れてニヤニヤ笑っていたのを見かけた。あれはこの噂のせいか。コトがコトだけに、俺に噂を耳に入れる奴もいなかったらしい。


「俺にその手の趣味は無いぞ。それに、このままでは礼似の命令を受ける度に、誤解が広がって行くじゃないか」

 一樹に文句を言っても仕方は無いのだが、言わずにはいられない。


「俺だってそんな趣味は無いし、これじゃお互い面目丸つぶれだ。だからあんたに相談しているんだが」


 今の今まで知らなかった話を、急に相談されても困る。


「この手の話は大抵の男が好きだから、広がりやすい上に案外、もみ消しにくい。組の中は男だらけだから厄介この上ない。なあ、何かいい知恵は無いか?」

 一樹は泣き言を言って来る。うーむ。


 こういう話に反応するのは男の性みたいなものだ。無理にもみ消そうとしても無駄だろう。それよりもっと男心をくすぐる話があればいい訳だ。


「しかたがない。ちょっと、デマでも流してみるか」



 俺の画策は成功したらしい。その代わり組の中がそわそわと落ち着きを無くしてしまっているが、それも一時の事だろう。


 組の男達は誰もが礼似の視線を気にして、彼女のしぐさや行動をチラチラと横目で見ている。


 俺も命は惜しいので、デマを流すのには香を利用した。あの娘なら礼似もどうにもできないはずだ。



「礼似さんも結構飽きっぽいからね。ホントはいろんなタイプを試してみたくて、組の中のめぼしいのを物色してるみたい。幅の広い人だから」



 この香の台詞は思った以上に上手い事一人歩きをして、組中の男達が『次は自分かもしれない』と、色めき立ったようだ。


 礼似は色気のある美人だから、チャンスがあればと期待も高まるのだろう。俺と一樹の存在など、あっという間に彼らの頭からは消し飛んでしまったようだ。(それも、少しむなしいが)


 礼似もふと、


「なんだか最近、嫌に視線を感じる気がするんだけど」

 と、一樹に漏らしたようだが、


「ダイエットの効果が出て来たんじゃないか? 前よりスタイルよくなったから」


 と、一樹が言ったものだから、礼似はすっかりご機嫌のようだ。


 触らぬ礼似にたたりなし。この組長をうまく操縦するのは、なかなか骨が折れるのである。



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