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一樹の日常

 まったく礼似の組長としての自覚のなさには悩まされる。華風組を出てからすぐ、俺は香に礼似の部屋の「ガサ入れ」を命じ、俺自身は大谷と共に組長室の探索をおこなった。


 本当は礼似の部屋も自分で家探ししたいくらいだったが、礼似が香と共住している以上、そこは自重した。香も礼似の部屋を堂々と引っ掻き回せるので、興味シンシンで探し回ってくれたようだ。


「いいじゃない。どうせ顔を張る稼業なんだから、顔を売ってもかまわないでしょ?」


 と、礼似は言うが、そうはいかない。組長が自ら安っぽい顔の売り方をしてどうする。組の威厳に関わるだろうが。


 俺は容赦なく礼似のあやしい写真の束をシュレッダーにかける。


「もったいないなー。プリントするのだって、用紙代やインク代が結構かかってんのに」


「こんな小遣い稼ぎより本業に精を出せ。大体、これからは身の周りに注意しろと、就任前から言ってあっただろう。軽々しく写真をバラまかれちゃ、お前の身を守る役目がやりにくくて仕方がない」


「自分の身は守るわよ。ちゃーんと、仕事もしてたじゃない。それこそ、ここに閉じこもりっきりで」


 ああそうだよ。そのついでにここで写真をプリントしては、末端の奴等に売りさばかせていたんだから、タチが悪い。


「ハルオに組の内部を探らせたのは正解だったな。下っ端達がお前から売り歩くように言いつけられていた写真、全部見つけ出したぞ。油断も隙もあったもんじゃないな」


「もう。いつの間にハルオと香を手なずけたのよ」

 礼似が人聞きの悪い事を言う。


「こいつらの方が常識も危機感も持ってるだけだ。お前の常識が外れすぎなんだ。おかげで組中、お前の事で噂だらけだ」


「ほっといても噂なんて立つじゃないの。第一最初に噂が立ったのは、香達のせいでしょ?」


 言われた香とハルオが縮こまる。そうだ、こいつらが噂の原因だ。だが、ごまかされないぞ。否定もせずによけいな誤解を(かなり意図的に)広めたのは礼似だ。それに、


「そもそもお前の妹分のしつけがなってないせいだろうが」

 香も結構、好き勝手な事を言ったらしい。


「ハタチすぎた娘のしつけなんて、誰がするのよ? どうせ、人の口に戸は立てられないし」


「度が過ぎると言ってるんだ。お前達が尾ひれをつけたおかげで、俺と大谷はお前のオモチャにされている事になっているし、写真で稼いだ金で組長室の奥には、全面鏡張りのベッドルームがあるとか、ガラス張りのシャワールームをつけたとか言われているぞ」


「あら、シャワールーム。いいわね。ホントにつけない?」


「つけない! お前のせいで神社の修理代だってかかるんだぞ」


「ケチね。こんなにいいスタイル拝めるのに。土間や御子、香なんか目じゃないわよ」



 その時、礼似の自信過剰な台詞に、ハルオが冷や水を浴びせた。


「れ、礼似さんより、か、香の方が、ウ、ウエスト、ほ、細い……」


「ちょっと、ハルオ。いつの間に、私に断りもなく香を脱がせた?」


 礼似が喰ってかかる。断るバカもいないと思うが。


「ち、違います! い、今の礼似さん、こ、この写真より、ふ、ふくよかに、み、見えるし」


 礼似が慌てて香のウエストに目をやり、自分の腰に視線を向ける。服の上からだって、分かるものは分かる。言葉にする勇気が俺にはハルオほど無かっただけで。


「うん。私も礼似さん、最近太ったなって思ってた」

 香も同意する。礼似は血の気が引いていた。



「ちょっと! 一樹!」

 何故か礼似は俺に怒鳴った。


「あんたが私をこんなところに閉じ込めたせいで、こんな事言われてるじゃない!」


「閉じ込めたって。ここで仕事をするのは組長なら当然だろうが」

 俺の反論を礼似は全く聞かず、


「ああ、運動不足の上、市販の弁当ばかり食べていたせいだわ。これは一樹が責任取ってくれないと」


 なんて言っている。弁当食ったのは自分じゃないか。八つ当たりだ。


「俺にどうしろってんだ?」


「前に関口が根城にしていた潰れたジム、まだ買い手がついていないわよね? 大至急、あれを買い取るのよ! これから毎日通うわ。あそこのオーナーは私。いいわね!」


「礼似さーん。それって、職権乱用」

 香でさえ、そう言っている。


「そうだ、公私混同だ。今時潰れた郊外型ジムなんて、どう経営する気だ?」

 俺も負けじと言い返す。


「そんなの、頭の切り替え次第よ! ああいう所はハードより、ソフトが大事なの! 一樹、あんたの情報力で超一流どころのインストラクター、引きぬいてかき集めるのよ! ホントに質のいいサービスには、人はちゃんとお金、出すんだから!」


「いくら俺でも、そんなコネ、持ってるわけないだろうが。それにあそこじゃ、交通の便が悪すぎる」


 すると礼似は俺の胸ぐらつかみながら叫んだ。いかん、目が血走っている。


「コネがないなら、今すぐ作んなさいよ! 足が悪けりゃ、組員全員に会員のアッシー、やらせるまでよ! 私の体型が元に戻らなかったら、私がこの組をぶっ潰してやるから!」



 ダメだ。礼似の奴、完全にキレてる。この分だと、本当に組をメチャクチャにしかねない。


 これだけ必死なら、自分の体型もかかっているし、ジムを買っても死に物狂いで成果を出すだろうが、俺達、こんな事にこき使われていて、いいのか?


 会長、本当にコイツが組長で、よかったんですかー?



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