Part3
俺がぼんやりしていると、彼――――俺の主治医である小森が枕元の封筒を目ざとく見つけて手にとる。
「ふむ・・・同窓会の招待状ね。懐かしいなぁ、僕も高校時代は輝かしい思い出だよ。毎日が楽しかったね。とにかくはしゃいで騒いで――――楽しかったよ」
俺に気を使うこともなく、自分の思い出にひとしきりふけった後、思い出したかのように封筒を返却する。俺は受け取った封筒を、読み掛けの本の間に挟んだ。
その時に少し体をひねったのか、全身に鈍い痛みが走り、思わずうめき声を漏らす。
痛みにもがく俺を、小森はジッと視る。見て、観て、看て、診る。
「・・・まぁ、俺はこのザマですから。行けるわけないですよ」
「確かに。医者としては君をここから動かすわけにはいかないよ。――――絶対安静。これが今の医学が導き出せる、君に対しての最善の方法だからね」
「そうして俺は、8年近く安静にしていたわけです」
「薬もあげたし、手術もしたし、神社にも行ったし。随分いろいろしていたよね」
「・・・・・・主治医の癖に他人事ですよね」
俺の冷たい目から逃げるように視線をそらし、口笛を吹きだす小森。医者としてはあるまじき行為だが、怒る気にはなれなかった。この男は8年前からこの調子だった。
勤務年数と腕と、人徳だけならばとっくの昔に中央に行っているはずの彼が、未だに実地で活動しているのは、彼の性格も大きく関係しているのではないかと俺は踏んでいる。
「話を戻すけど、君はその感じだと同窓会には行けるものなら行きたいみたいだね。一体どうしてだい? 誰か会いたい人でもいるのかい?」
「・・・そんなところです」
「ひょっとして、女か?」
「いや、同性の――――親友です」
「猿爪くんって同性愛者・・・いや、ゲイなのかい?」
「なぜ言い直したし。――――高校時代からの親友ですよ。俺が入院してからしばらくしてから全く会ってないですけどね」
「質問ばかりになって申し訳ないが・・・、どうしてそこまで彼に会いたいんだ?」
小森の質問に対する答えに詰まる。
彼に会ってどうしたいか。
ただ会いたいというわけではない。
「――――決着です」
「随分かっこいいことを言うんだね」
そう言うと、小森は近くにあった丸椅子を手元に引き寄せるとどっかりと座りこんだ。
座りこむなり、白衣のポケットから缶コーヒーをこちらに手渡す。
「もしよければ、その人について少し聞かせてくれないか。面白そうだ」
「オチとかないですよ」
「構わない」
「・・・・・・分かりました」
こうして俺は、遠い過去の記憶を呼び覚ます。
奴との第一回戦は――――確か購買だ。