Part2
昔から俺は負けず嫌いだった。
うむ・・・、この表現では少し語弊があるな。正しくは、アイツには――――犬牙喜一にだけは負けたくなかったのだ。
先日郵送されてきた、高校の同窓会への招待状は封こそ切ったものの、返信することなく枕元へと置きっぱなしになっている。
出席することを悩んでいる訳ではない、むしろ答えは決まっているのだが、認めたくないのだ。ここで、何も考えずに欠席の欄に○を付けてポストへ投函するようにお願いしてしまったら、ひょっとしたらという、わずかな希望までをもどこか遠くへやってしまうような気がしてならないのだ。
がらりと、ノックもなしに扉が開いて、白衣の男が近づいてくる。やたら踵を地面に強くおろす音、足跡の特徴を覚えてしまうほど彼は頻繁にここに来る。
「やあやあ、猿爪くん。ご機嫌の方はいかがかな?」
「・・・俺が今までに一度だって機嫌が良かった日がありましたか、先生」
「入院の初日に有料チャンネルの見かたを教えてあげた時はひどくうれしそうだったじゃないか」
「そんないつだったか分からないほど昔の話をされても証明のしようがありませんよ」
「いやいや、証明の方法ならあるよ。私は几帳面で評判の外科医でね。カルテにはありとあらゆることを書き込んであるんだ。患者の誕生日から趣味、家族構成に友人関係、性癖までね」
「・・・・・・」
「ほら、カルテのここに書いてある。――――えーっと、私が君に有料チャンネルの見かたを教えてあげたのは今からちょうど8年と3ヵ月前だね。・・・なんだい、思ったより最近じゃないか」
「最近・・・ですか」
俺は首だけを窓に向けて、病院の中庭を見降ろす。そこでは抑圧された入院生活に退屈した子供たちが見舞いに来た友人と一緒に楽しそうに走り回っていた。その姿を車いすに座った老人がほほえましそうに見つめている。変わらぬ光景、その窓の向こうで繰り広げられる劇は、キャストこそ変われど、演目が変わることはない。
今まで何度見たのだろう。
これから何度見るのだろう。