Part1
犬牙喜一と猿爪佐助は友人である。
いつごろかは分からぬが、とにかく彼らは友人だった。
きっと『無二の親友』という言葉は、彼らのような二人にこそふさわしい。
しかし、彼らにはもっとふさわしい言葉がある。
『犬猿の仲』
苗字にそれぞれ文字が含まれているから、という安易な理由でもある。
〈ケンガ〉と〈マシヅメ〉
〈犬の牙〉と〈猿の爪〉
この二人が、争うことは運命だったのかもしれない。
ただ、訂正しておこう。彼らはたがいに嫌い合っていたわけではない。
先に述べた通り、彼らは非常に仲の良い友人同士だったのである。
だからこそ、負けたくない。
だからこそ、勝ちたい。
そんな幼いプライドを、引きずり引きずり早幾年。
現在の戦績。
犬牙喜一、四七三戦―二三六勝―二三六敗―一分。
猿爪佐助、四七三戦―二三六勝―二三六敗―一分。
この物語は、切っても切れぬ、固いきずなで結ばれた二人の片割れ。
猿爪佐助の独白ではじまり、
犬牙喜一の台詞で幕を下ろす。
犬と猿との友情は、果たしてどこまで続くのか。
さあさあ皆さまお静かに、拍子が鳴って厳かに、犬猿芝居の幕が開く。






