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炭酸水  作者: 薄桜
2/3

中編

続きです。

『Fin』の文字と共に黒く暗転し、美しいピアノの音が流れる。

そして、下から上へと、流れて行くアルファベットの文字列。

僕はそれを、ただ眺めていた。

二人とも無言だった。

何も言えなかった。

いや、話す言葉が見つからない。

隣に座る葵姉を、伺い見る事も出来ない。

正直、この映画がどんなストーリーだったのか、頭に残っていない。

映画に詳しい訳でもない僕は、世間の評価も知らない。

今、僕の頭に残っているのは、ベットで睦みあう男女の姿。

途中で停止させるのも恥ずかしく、動く事も出来ず。

映画は終わり、今に至る。


エンドロールも終わり、タイトルメニューに戻った頃、

・・・咳払いを一つ。

緊張で喉が強張り、声が出なかった。

「美晴さんからって・・・言ってたよね?」

「・・・うん。」

念の為確認して、改めて思う。

あの人は、悪魔だ。

透明なケースに、ホワイトーレーベルのDVD。

表面には、何も書かれていない。

油断した・・・思いっきり罠に引っかかった気分だ。

彼女の、人の悪い笑みを浮かべた顔が思い浮かぶ。

針のむしろにでも座っているような気分でいると、

葵姉が、口を開いた。

「刺激的な内容だったね。」

「う、うん。」

オブラートに包まれたような、見事な言葉の選択だね。

「でも、いいな・・・」

「えっ?」

ごめんなさい、僕はどんな話だったのか、記憶に無いです。

「お互いを思いやって、ストレートに思いを伝えて・・・」

「・・・・・・。」

そんな内容だったんだ。

「でも、最後に別れる事になっちゃったのは、ちょっと嫌かな。」

「・・・。」

そういえば、駅で別れるシーンが会った気がする。

「やっぱり、ハッピーエンドの方が、よかった~って気分になれていいかな。」

少し涙目で、微笑んでいる葵姉の顔を見ていると、

映画の内容を覚えてないなんて、どうでもよくなってきた。

「でもさ、死別じゃないから、このラストの後は、どうなるか分からないよ。」

「え?」

「この映画の彼はわかんないけど、好きなら、手に入れたいと思うし。

 離れなきゃいけなくなったら、絶対もう一度捕まえに行く。」

「・・・。」

「出来れば、手放したくも、離れたくもないけどね。」

照れ隠しに、少し笑うと、

右側に、柔らかく暖かい感触を感じた。

「いいな、そういうの。」

目線が交錯し、お互い吸い寄せられるように、唇を重ねた。


「・・・所でさ、」

彼女は何? と首をかしげる。

朱に染めた頬も、声も、仕草も可愛らしい。

「魅惑的な彼女と一緒にいて・・・」

「ん?」

「刺激的な映画を見てさ・・・」

何を思い出したのか、頬の朱が増す。

顔を見ながらでは恥ずかしいので、彼女を抱き寄せて耳元で囁く。

「・・・この状況で、僕はどうしたらいいのかな?」

実は、本当に困ったので、素直に聞いてみただけなのだが、

しばらくの沈黙の後。

「・・・好きにしていいよ。」

最高の返事が返ってきた。

「本当に?」

「・・・女の子に、これ以上言わせるな。」

そう言って、頬を抓られた。

遠慮もなく、思いっきり。

「ひてっ、ひゃめてって・・・・・・つぅ~っ、」

もう、いい雰囲気も何もあったものじゃないので、

ひりひりと痛む頬をさすりながら、憮然として伝えておく。

やっぱり色々と、敵わない気がするから。

「・・・先に宣言しておくけど、僕経験ないから、上手くいくかどうかわからないよ?」

「ぷっ、あはははははっ。」

彼女は、腹立たしいほど大声で笑い転げた。

「・・・笑い過ぎ。」

「だって、正直者!?」

そうだよ、正直に言いました。

正直ついでに、更に情けない事まで呟く。

「見栄張って失敗でもしたら、立ち直れそうにないし・・・。」

ぴたりと笑い声が止み、正面から見据えられた。

あまりにも真っ直ぐで、視線を逸らしたくなる。

でも、それは何か負けたようで、

居た堪れない気分になりながらも耐える。

「あーもう、可愛いっ!!」

突然、力一杯抱き着かれた。

頭を抱かれているので、顔は必然的に胸に押し付けられる。

柔らかくて、ドキドキする反面・・・

縫いぐるみか、抱き枕にでもなった気分なのは、気のせいだろうか?

なんか結局、今のもお見通しなのかな?・・・

少し不本意で、結局年下で、そんな思いに囚われ眉根が寄る。

「・・・それ、男に向けて言う台詞?」

「いいの、女の子はそう思うものなの。」

「・・・そう?」

よくわからない。

「うん。・・・それに、」

腕の力が緩んだので、体を離す。

そして、再び正面から見詰め合う。

「経験あるって言われるより嬉しい。」

「・・・。」

「一緒に進も。」


そう微笑んだ彼女は、とても綺麗だった。

『一緒に』そう彼女は言った。

やっぱり、すごいや。

変な気負いや、後ろ向きな思い。

そんな事の全てを、ふんわりと受け止めてくれた気がした。

勝ち負けとか、どうでもいい、

彼女に、こんなに惚れてる時点で、もう絶対に敵わないんだと思う。

そんな彼女を手に入れる事が出来る。

その幸運に感謝した。


あと、1話。

18禁にはなりませんので・・・。

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