前編
「求める者。」の続編です。
なので、登場人物の説明がありません。m(__)m
養生人物が、彼氏・彼女の関係になってる以外、
前回から引き継いでるものなんてありませんが・・・
今年は暑い。
強い日差しが照りつけ、陽炎が道に揺蕩う。
蝉達が壮大に鳴き、暑い空気を振るわせる。
毎年暑いと思うが、特に今年はそう思う。
そんな夏休みのある日。
一人での昼食の後片付けも済み、自室で雑誌を広げていると。
チャイムが鳴った。
「こんな暑い日には、外に出たくない~。」
予告もなく、僕の家に来た葵姉は、
自分の家からここまで、しっかり外を歩いて来たはずだが、
言葉とは裏腹に、笑顔で、
「美晴から、薦められたんだけど、映画見ない?」
そう言って、透明なケースに入ったDVDをヒラヒラさせた。
ターコイズグリーンののタンクトップの下に、
ベビーピンクのホルターネックのタンクトップが覗く。
下も、クロップ丈の黒のジーンズに、ビーズで飾られたサンダル。
手には、例のDVDを1枚だけ、
もちろん日傘など無い。
日焼けなんて、頭に無いかのような格好だ。
お邪魔しま~す、と声をかけ上がって来る。
「涼しいのは、リビング? 聡太の部屋?」
「・・・僕の部屋。」
勝手知ったる余所の家・・・と、言う所か、
迷いも無くスタスタと、僕の部屋に向かう。
「あ、飲み物、何かちょうだい。」
そう、一言残して。
行ってしまった方向をしばらく見つめ、
溜息を一つ溢した。
台所に向かい、冷蔵庫を開ける。
1本のペットボトルを取り出そうとすると、
近所のケーキ屋の箱が目に入った。
妹が買ったものだろうか?
中身が気になって出してみると、
箱の上には、メモが貼り付けてあり。
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好きに食べていいよ
りさ
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珍しい事もあるものだ。
箱を開けると、シュークリームが2つ。
パリパリの皮に粉砂糖で化粧され、
ぱっくりと割れた口には、カスタードと、生クリーム。
そして、半分に切られたイチゴと、ブルーベリーが2つ載っていた。
1つ360円のやつだな、
・・・少し、出来過ぎの感が否めないが、
ありがたく、後で頂く事にしよう。
とりあえずは、冷蔵庫から出した、ペットボトルを1つと、
グラスを2つトレイに乗せ、自室に向った。
「はい、飲み物お待ち。」
「ありがとー!!」
笑顔で迎えた人は、僕のベットに転がっていた。
一瞬、僕は顔が引きつったかもしれない。
「あれ? 理佐ちゃんは?」
「友達と図書館。自由研究の資料探しだって言ってた。」
「ふーん、頑張るね~。」
「そっちこそ、受験勉強は?」
「ん~、今はそんな言葉聞きたくな~い!」
両耳を手で塞いでじたばたしている。
・・・そんなに布団蹴らないで下さい。
溜息を一つ吐き、ペットボトルに手を伸ばす。
キャップを捻ると、ぷしゅっ、と炭酸飲料特有の
小気味良い音が響いた。
シュワーという細かな音を立てて、グラスに注ぐ。
2つ目のグラスに注いでいると、
いつの間にベットから降りたのか、横から手が伸びる。
その手は、グラスを掴むと引っ込み、すぐさま
「ぅぐっ」
という声がした。
驚いて、声のした方を見ると、
葵姉は、眉間に皺を寄せ、複雑な顔をして立っていた。
「・・・甘くない。」
一瞬、何を言っているのかわからなかったが、
とある仮説を思い描くと、笑いがこみ上げてきた。
その仮説は当たったらしく、恥ずかしさを誤魔化すように、
声を荒げて、持論を展開してくれた。
「な、何よ! 炭酸っていったら甘いものでしょ!?」
「ジュースの炭酸飲料水ならね、でもこれは、ガス入りのミネラルウォーターなんだ。」
宥めるように言い、ペットボトルを渡すと、ばつの悪そうな顔で、
穴でも開きそうなほどに、まじまじと眺める。
「へー、ライム風味?」
「うん。お気に入りだったんだけど、最近見かけなくってさ、
こないだ久しぶりに見つけたからまとめて買ってみた。」
「ふ~ん、これ好きなの?」
ペットボトルをテーブルに置き、こちらを見ながら言う。
「炭酸時々欲しくなる時ってない?」
「あるけど・・・。」
「でも、結構甘ったるいし、どれだけ糖分が入ってるかを考えると、飲めないっていうか・・・。」
「・・・・・・糖分。」
「こないだテレビで、どの飲み物にどれだけ砂糖が入ってるか、とかやっててさ・・・凄かった。」
「・・・・・・凄いんだ。」
「でも、これだと平気でしょ? ただの炭酸入りより、ライムでさっぱりしてて飲み易いし。」
「・・・そっか。」
葵姉は、何かに何得したように、そう呟いて、グラスを口に運ぶ。
「そう言われればそうね、ライムが爽やかな感じ?」
「ぷっ、単純?」
「なっ、本当にそう思うのっ! さっきは、予想と違って脳が騙されたの!」
「はいはい。」
「そこっ、適当に返事しない!」
どうやら、収まらないようなので、話題をずらしてみる。
「でもさ、本当に最近レモンのしか無いんだよね。」
「へ?」
「期間限定とかだったのかな~? どっかで見かけたら教えて。」
「あ、あぁうん、わかった。」
「じゃ、持ってきてくれたDVD見てみようか?」
前中後の、前編です。




